<プレスリリース>

8月14日、米国・モンタナ州:16人の若者気候訴訟で米国初の勝訴判決-
モンタナ州の石炭政策は子どもたちの憲法上の権利を侵害!

2023年8月17日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

2023年6月12日から20日にかけて、米国の弁護士らによるNGO “Our Children‘s Trust”(OCT)が支援するモンタナ州の16人の若者たちが2020年に提起した気候訴訟につき、米国気候訴訟初のトライアル(公開審理)が行われました。その一部始終がオンラインで配信され、世界を驚かせました。世界各地で猛暑や洪水被害が続き、ハワイ・マウイ島では大惨事が続いているなか、モンタナ州都のヘレナ地方裁判所キャシー・シーリー裁判官は、結審から2ケ月も経たない8月14日、103頁の判決を発出しました。原告らの主張を全面的に認めた判決のニュースは14日のうちに、再び世界を駆け巡りました。

8月2日に気候ネットワークとOCTの協力で開催したウェビナー(後日、録画をホームページに掲載予定)では、本訴訟の提起に至る経緯、トライアルでの子どもたち自身が語った気候変動の影響、さらに、先見性に富んだモンタナ州憲法が1972年に設立されていたにもかかわらず、モンタナ州議会は2011年に気候変動政策法(MEPA)を改正し、州政府も気候変動の深刻な影響を認識しながら、石炭などの化石燃料の生産を拡大し、石炭火力を稼働させ続け、気候変動を悪化させたこと、モンタナ州は太陽光や風力など再生可能エネルギー資源に恵まれていることなどが、OCTの弁護士たちから報告されましたが、今回の判決ではこれらの事実が全面的に認められたのです。

歴史的なシーリー判決

第1に、判決は、モンタナ州からの排出量は若者原告らへの気候変動の危害と被害を引き起こす重大な要因であると認定し、16人の原告らの原告適格を認めました。原告らは気候変動によって、その生命や健康など身体的被害はもとより、精神的な健康、家や財産、レクリエーション、美的利益、部族や文化的伝統、経済的安全や幸福など、広範にわたる被害を受けていると認め、若者原告らにもたらしている喪失感や絶望、不安などの感情を、認識可能な精神的な被害ととらえた点でも注目されます。原告らが、その居住地域や暮らしの多様性、そこで育んできた日々の生活を子どもたちの感性で語ったそれぞれの物語は気候変動の被害の重大さを納得するに足るものでした。

第2に、モンタナ州からの排出量の気候変動への寄与は少ないとの被告らの主張に対し、IPCCなど気候の科学に基づき、CO2などGHG排出量が1トン増えるごとに原告らの被害は悪化し、取り返しのつかない気候被害を固定化するおそれがあること、モンタナ州のGHG排出量はごくわずかで無視されるというものではなく、米国内でも世界的にも重大であり、その影響は、直接的な地域的影響と、大気中へのGHG排出によりすでに不安定化した気候系への寄与の両面から段階的・累積的な測定が可能であること、気候変動に対処するための科学に基づいた行動がとられなければ、原告らの被害はますます深刻なものになり、回復不能になるであろう―とした上で、若い原告らは気候変動の影響をより重く受けることになるとも指摘しました。

第3に、原告らは、環境の生命維持システムの一部としての気候や平等の権利を含む、清浄で健康的な環境に対するモンタナ州憲法上の基本的権利を有していると認めました。モンタナ州憲法は、美しいモンタナの山並みや自然を維持し、保全していく人々の責務も取り入れています。まさに、今回の16人の子どもたちの行動です。

第4に、モンタナ州の気候変動政策法(MEPA)が2011年に改正され、州の内外におけるCO2などGHG排出量とそれに対応する気候への影響、さらに追加のGHG排出量がどのように気候変動に寄与するか、またはモンタナ州憲法と矛盾しないかの分析を実質的に禁じてしまったことにより、州政府が調査、予測をすることなく化石燃料インフラの構築・利用を許可してきた結果、モンタナ州内外でGHGが排出され続け、人為的な気候変動を引き起こし、悪化させ続けていると認めたうえで、2011年改正MEPAは、清浄で健康的な環境に対する若者原告らの権利を侵害するものであり、違憲と断じました。さらに、住民らが異議申立をできなくした2023年のとんでもない改正法も違憲で、永久に廃止されるべきと述べています。

さらに判決は、清浄で健康的な環境に対する原告らの権利を守り、モンタナ州の天然資源を不当な枯渇から護るために、モンタナ州民および若者原告らの憲法上の権利の侵害をもたらす化石燃料活動の許可を拒否する裁量権が被告モンタナ州にあったとも指摘しています。

政策の転換によって再生可能エネルギーへの転換が可能であることを踏まえれば、気候危機が迫る今、国や州があえて、石炭やガスを採掘し、利用しつづけることにフリーパスを与えるのであれば、州政府の側でその合理的理由を立証しなければならないということでしょう。この判決は宣言的判決ではありますが、州政府がこれに従った対応をしなければ、原告らは差し止めを求めることができ、その意味で実効性があるものです。

ディスカバリー(証拠開示)の結果とトライアルでの12人の専門家の証言、10人の原告らの証言を踏まえ、若者たちの気候正義を求める声を受け止めた今回の判決は、2019年に環境NGOがオランダ政府を提訴したUrgenda訴訟における最高裁での判決に続き、米国内だけでなく世界の気候訴訟の「ゲームチェンジャーになる」(OCT代表ジュリー・オルソン氏のコメント)ことでしょう。

他方で、日本では2013年以来、大規模石炭火力発電所を新設するために環境影響評価法を実質的に適用除外とするために作出された「局長級会議とりまとめ」(2013年4月)が法改正の代わりを担い、今も生き残っています。日本の憲法も、子どもたちのさまざまな基本的人権を保障しています。憲法違反の行政合意によって気候変動対策に怠慢を重ねてきた国の責任、今も化石燃料関連事業を推し進めている電力事業者らの責任も、問い直されなければなりません。

モンタナ訴訟判決文英文PDF

参考

  • Our Children’s Trustによるモンタナ訴訟の情報(英語リンク
  • 気候ネットワーク ウェビナー情報(資料掲載)
    2023年8月2日(水)世界の気候訴訟最前線2 動き出した米国の司法!モンタナの若者16人の挑戦 ―モンタナ気候訴訟 弁護団からの報告―(リンク
  • 【判決紹介】オランダ最高裁「危険な気候変動被害は人権侵害」 科学が要請する削減を政府に命じる(2020年2月)(リンク

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