<提言>
COP26グラスゴー会議で日本政府に求められること
~1.5℃未満のために脱石炭の政治的決断を~
2021年10月26日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
10月31日から11月12日にかけて、英国の都市グラスゴーにおいて国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催される。コロナ禍によって1年延期されたこのCOPは、パリ協定の実施指針について積み残している課題に合意することに加え、パリ協定の下で1.5℃に気温上昇を抑制することを実現する道筋をつけるために各国の行動を引き上げることを確保する合意をすることが求められている。
特に今回は、行動の引き上げにCOP26が果たす役割に大きな注目が集まる。なぜなら、対策強化を先送りする時間がこれ以上残されていないためである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1.5℃目標を実現するためには、世界中のCO2排出を2010年比で2030年までに約半減させ、CO2以外の温室効果ガスも大幅に削減する必要があること、2050年までに世界のCO2を正味ゼロにする必要があることを明らかにしている。しかし、10月25日発表の気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)の統合報告書によれば、各国が掲げる気候目標がすべて達成されたとしても、2010年比で2030年までに温室効果ガス排出量が15.9%増加すると推計され、今のままでは、1.5℃はおろか、2℃未満に抑制する見通しも立たない。このままでは、破滅的な気候危機が訪れることになる。COP26はこれに歯止めをかけ、1.5℃が実現可能であることを世界に知らしめることができるのかが試される。
日本政府は、かかる科学的知見に向き合い、大転換が必要であるとの認識のもとで、今回のグラスゴー会議に臨み、従来方針を繰り返すのではなく、新たな野心引き上げの意思を示す必要がある。日本政府には、とりわけ次の6点が求められる。
1.首相・大臣が政治的決意を表明すること
岸田文雄総理大臣は、総選挙直後にCOP26に参加する意向だと報じられている。すでに120カ国を超える多くの首脳がCOP26への参加を決め、11月1~2日の「世界首脳サミット」で気候危機に立ち向かうために目標対策を強化する意思を表明することになっている。脱炭素の機運を高く引き上げ、まだ足りない1.5℃までの排出ギャップを埋めるよう、さらに行動を引き上げることを約束し合う重要な機会となる。ここに首相自らが参加し、現行の国別約束(NDC)やエネルギー基本計画の現状説明にとどまるのではなく、さらに目標や対策を強化する日本としての政治的決意を表明し、意欲的な合意を支援すべきである。
2.科学に向き合い1.5度未満をめざすと約束すること
日本政府は、現時点において、パリ協定の長期目標のうち、「2℃を十分下回る水準」を超え、政府として「1.5℃未満」をめざすことを日本の目標として正式には掲げていない。2050年カーボンニュートラル宣言は、1.5℃を見据えたものであることは明白であり、議長国イギリスが、COP26の開催を1.5℃の実現のためと銘打って開催しているところである。日本政府として明確に1.5℃未満をめざすことをCOP26で約束すべきである。
3.温室効果ガス排出削減目標を強化する意思を表明すること
日本政府は10月22日に国別約束(NDC)を地球温暖化対策推進本部で決定し、同日に国連に正式提出した。このNDCでは、2030年までの温室効果ガス排出削減目標を2013年比で「46~50%削減」としているが、これはパリ協定1.5℃はおろか、2℃を十分下回る水準にも整合しない、不十分な水準である。また、遅くとも2050年のカーボン・ニュートラルを確実にするため、先進諸国で2040年への排出削減目標が策定されているにもかかわらず、日本においては2040年目標の検討が行われていない。「2050年カーボン・ニュートラル」も、1.5℃未満のために世界全体で達成すべき目標であって、能力と責任の大きい日本は、2050年を待たずにカーボン・ニュートラルを達成する必要がある。
かかる現状を踏まえ、日本政府はCOP26において、現行のNDCや2050年カーボン・ニュートラル宣言の説明を繰り返すことに止まるのではなく、1.5℃の実現に向けた日本の責任として、2030年目標をさらに引き上げ、2040年目標を含む脱炭素への経路を明確にする意思を表明する必要がある。
4.国内外の石炭事業を見直し、脱石炭の期限を定め、表明すること
科学は、1.5℃目標のためには、先進国が2030年までに石炭火力発電をゼロにする必要があることを明確にしている。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、石炭は気候変動の最大の要因であり、石炭中毒からの脱却は急務であると繰り返し訴えている。COP26議長国のイギリスも、COP23で脱石炭国際連盟(PPCA)を結成し、これを発展させ、今年に入ってからもグラスゴー会議に向けて脱石炭の必要性を訴えてきた。脱石炭をグラスゴーの焦点に据え、COP26期間中である11月4日には「エネルギーの日(Energy Day)」を開催し、脱石炭の加速に勢いをつける意向である。
他方、日本政府は、国内において石炭火力発電の新増設を容認し続けており、既存の石炭火力を今後も維持する方針である。10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画は、2030年時点の発電量のうち19%を石炭で賄う方針である。また、同計画は脱石炭を目指す代わりに水素・アンモニアの混焼技術を推し進めているが、これらの事業の多くは、新たな化石燃料採掘を呼び起こし、CO2排出削減にはほとんど貢献せず、化石燃料による火力発電を延命させることになっている。今年のG7サミットで、「炭素回収利用貯留技術(CCUS)の講じられていない石炭火力(unabated coal)」をやめていく方針が示されたが、国際社会の共通認識から離れた日本政府は独自にこれを「排出削減対策が講じられていない石炭火力」と曖昧に解釈し、石炭火力発電の延命がまだ可能だとみなしている。同様に、海外の石炭事業支援を2021年末で終わらせるという合意がなされたが、既存案件であることを理由に、バングラデシュのマタバリとインドネシアのインドラマユにおける石炭火力発電事業を撤回していない。
このように今もなお脱石炭方針を持たない日本政府は、今回のCOP26でも、厳しい批判に晒されることになる。日本が脱石炭の国際的コンセンサスを打ち出そうとするグラスゴー会議の努力に水を差すことは許されない。日本はこのCOP26でこそ脱石炭の覚悟を決め、2030年までの国内の石炭火力フェーズアウトを決断し、海外2案件の中止を発表すべきである。また、COP26の後に早急に脱石炭に向けた政策強化に着手することも約束しなければならない。
5.気候資金の貢献を積み増し、途上国の野心向上を引き出すこと
途上国を含め世界全体で脱炭素化を実現するために、先進国による資金供与を拡大させる必要がある。COP26では、資金供与の誓約に加え、安定的で予見可能な長期資金の目標を定める交渉を加速させることも求められている。先進国全体として2020年までに年間1000億ドルの気候資金を拠出するとの約束の達成は危ぶまれており、また2025年までの気候資金の誓約も求められている。
今年6月に日本政府が「2021年から2025年にかけて官民合わせて6.5兆円相当の支援を実施し、適応分野の支援を強化していく」と表明したことは前進であるが、資金規模についてさらなる上積みが期待される。また、政府が適応分野において具体的にどのように支援を強化するかは不透明なままである。Care Internationalの報告では、日本政府が適応の資金として報告したものの中に、実際には適応を目的としていない途上国支援事業が含まれており、適応の資金実績を誇張したとも指摘されている。
日本は、責任と能力を有する先進国として、途上国の排出削減の野心向上を引き出すため、そして気候災害の脅威にさらされている途上国の適応策を拡充するために、気候資金の貢献のさらなる深堀りと長期資金への合意を進めることが求められる。
6.パリ協定の実施指針について、抜け穴のない合意形成を図ること
・6条メカニズム
COP26ではパリ協定6条のいわゆる市場メカニズムのルールについての合意が求められている。排出量取引や日本の二国間クレジットメカニズムなどの利用においては、ダブルカウントを防ぐための相当調整や京都クレジットの繰越しなどのルール設計次第で、排出削減努力を大幅に後退させることになりかねない抜け穴ができる懸念がある。今回の交渉で、抜け穴を作らせず、環境十全性を確保する形で、合意形成を図る必要がある。
・共通の時間軸(Common time frame)
各国はパリ協定の下で、5年ごとにNDCを提出し、政策措置などを引き上げていく義務が定められている。これに対し、共通の時間軸というのは、NDCの目標の期間を指す。10年か5年かが争点であり、大半の国はNDCの期間を5年とし、こまめな目標設定・引き上げを支持するが、日本など一部の国は10年を支持している。1.5℃の実現には残された時間が限られており、着実な行動強化を図るには5年とすべきである(例えば、5年の場合、期間が「2031-2035年」のNDCを2025年までに提出することになる)。日本は、交渉において柔軟性を示し、合意形成を図ることが求められる。
・透明性
COP26においては、共通の表の様式(common tabular formats: CTF)の合意が求められる。透明性を向上させるためには、可能な限り各国が共通のルールに則って報告することで、比較可能性を確保することが求められる。少なくとも先進国の報告は、実質的に十分な比較可能性が担保される様式とすることが必要である。また、第6条のメカニズムにおいて排出削減成果を国際的に移転する際の二重計上を防ぐために、移転元と移転先双方の排出データが適切かつ正確に報告される必要がある。このため、6条と透明性の議論は、二重計上を防ぎ、環境十全性を確保する観点から、並行して適切に進められる必要がある。日本政府には、これらの交渉と合意における貢献も求められる。
以上
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