2002年1月19日

京都議定書の締結に向けた国内制度に関する答申案への意見

 

  • [意見提出用紙]パブリックコメント
  • 住  所:京都市中京区高倉通四条上ル
  • 氏  名(会社名/部署名):特定非営利活動法人 気候ネットワーク

全体を通して(該当個所:全体)

今回の答申案は、前段で温暖化の深刻さや温暖化対策の緊急性・必要性を説いているにもかかわらず、京都議定書の目標達成や今後の温暖化対策を示すものとして極めて不十分でありお粗末である。地球温暖化防止行動計画や地球温暖化対策推進大綱の政策・措置が効果を上げておらず温室効果ガス排出量が大幅に増えてしまっている現状を見据えているとは到底思えない。環境NGOの立場からは評価し難い内容であり、極めて遺憾である。

P4. 10~23行
3 COP7合意を受けた我が国の方針

8月26日~9月4日に開催される「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット、リオ+10)」の期間中に京都議定書を発効させるという国際社会の動きの中で、発効の要件である批准から90日間を満たすよう、5月末頃までには政府が批准を確実に終えることを明記すべきである。京都会議の議長国として当然の国際的な責任であり、多くの日本市民が求めている。

P.7~8
4.(3)これまでの取り組みと目標達成への挑戦

「地球温暖化防止行動計画」における対策では目標達成に失敗し、10年を無駄にしたわけであるから、行動計画の対策が極めて不十分であったことを記し、政府にその反省を求めるべきである。さらに、地球温暖化対策推進大綱についても、エネルギー起源のCO2を2010年0%との当初計画が早くも狂い、目標達成シナリオ小委員会が8%増になると予測している通り、各省庁が温暖化名目の施策を寄せ集めただけで全体のビジョンに欠ける「大綱」では行動計画の時と同じ鐵を踏むことになるのは明らかである。小委員会における議論を反映させ、京都議定書の目標達成を確実にするためには追加的な対策が不可欠であることを明示すべきである。なお、こうした取組こそが需要不足に悩み続けている日本の経済再生に不可欠である。

対策・施策の見直しは、まず、京都議定書第3 条第2 項において「締約国は2005年までに議定書に基づく約束の達成に当たって、明らかな進捗を実現していなければならない。」とされていることから、2004年中に、次に、第1約束期間の前年である2007年までに行うことが適当である。

P.8 16行目~
5.(1)京都議定書の特徴

京都議定書の最も重要な特徴は、先進国に2008~2012年の間に90年比で5.2%削減するという数値目標を法的拘束力のある義務として定めたことである。これを・の前に追加すべきである。

P.9 7~10行目
5.(2)ステップ・バイ・ステップのアプローチ

将来の目標に向かって適宜評価・見直しをし、施策の強化をしていくという方式そのものは支持できるが、ここに記載されたその具体的内容は、第1ステップで具体的施策の導入をせず「2005年までは様子見で何もしない」ということに等しい内容の本答申のステップ・バイ・ステップ・アプローチは、単なる対策の先延ばしでしかなく、第2ステップ以降方針や長期的なビジョンにも欠けており、支持し得ない。
 もともと、98年の温暖化対策推進法の策定時には、これは二段ロケット方式の第一段目にあたる法律であるとされていた。二段階段の二段目にきて、これをさらに細かく切り刻み始めるがごとき本提案は、前に進まないための言い訳との非難を免れない。
また、京都議定書では「締約国は2005年までに議定書に基づく約束の達成に当たって明らかな進捗を実現していなければならない」と規定されていることから、国際的に明らかな進捗を示す必要があり、そのためにも第1ステップの2002年~2004年の間に排出削減効果を示せるよう、具体的な施策の早期導入が不可欠であることを明示すべきである。
 さらに、仮に2004年までに導入した施策の効果が明確でなかった場合に、2005年に国際社会に対して進展を見せるためには、京都議定書の達成を確実にできる法制度を2005年に導入することによってその法制化完了をもって「明らかな進捗」とせざるをえないことになる。このように、同案のステップ・バイ・ステップアプローチは、国際公約に応えるものとなっていない。

P.11・15行目
6(2)計画の位置付け

「京都議定書目標達成計画」は、当然のことながら、法律に基づく計画とすべきであり、国会での批准承認の際には、地球温暖化対策を目的とした現存の法律である地球温暖化対策推進法を京都議定書の目標達成を担保する法律として改正し、そこに「京都議定書目標達成計画」をきちんと位置付けるべきである。さらに今後、同法を軸に温暖化対策を強化して行くべきである。

P.12 13行目~
6(4)第2ステップ・第3ステップの開始前における計画の評価・見直し

計画の評価・見直し、追加的な政策と措置の検討については、第1ステップの場合と同様、環境NGOなど市民セクターを含む諸セクターが参加する場で議論を行い合意形成を図って行くべきである。

P.12 6(5)情報システムの整備

「情報システムは、透明なプロセスで行われるものとし、情報の公開を原則とするべきである。」という項目を追加すべきである。

P.13・31行目~P.24・18行目

「議定書目標の達成のための排出削減・吸収に関する対策・施策」の個所は、既存の施策の羅列と掛け声のみの普及啓発ばかりであり、余りにも中身がない。「国内制度の在り方」というタイトルからして、本答申案は政府が行うべき政策・措置について記述すべきもののはずである。個別の施策の法改正・新法や税財政措置をすべて記述することは出来ないとしても、考えられる主な政策・措置は、対応する法改正・新法や税財政措置とともに、網羅して記述すべきである。

P.14
(1)地球温暖化防止に関する国民各界各層の理解と行動を求める活動の展開

国民各界各層の理解と行動を得るための教育・普及活動、情報提供は重要であるが、行動を促すための施策を伴わなければ効果を挙げることは難しい。ここでは、国民各界各層の理解と行動を促すための「施策・誘導策」を政府が講じることの重要性の認識に欠けており、これを明記すべきである。

P.14
(2)ア①地球環境時代にふさわしいライフスタイルの形成に向けた運動の全国的展開

消費者は現在のライフスタイルを選ばされている面も多く、ライフスタイルの変革を求める掛け声だけでは対策効果は極めて限定される。広く国民全てに変革を促すには、情報提供や運動・キャンペーンのみの旗振りだけでは難しく、規制や経済的手法などの適切な政策の導入が必要である。例えば、グリーンフリーズ冷蔵庫の実用化が欧州に10年遅れたのも、政策誘導がなかったためであり、適切な規制・誘導策があれば、企業の技術開発も後押しされ、消費者がより環境にやさしい商品を購入できる選択肢をもっと早く得られたはずである。よって、ライフスタイルの転換に必要な「政策」をここで具体的に示すべきである。

P.16~17
(イ)日常生活における具体的取組の推進

ここに羅列されている取組例は、掲げるだけでは何ら実現が担保されない。このままでは、掛け声だけの取組例に終わってしまうだけである。ここに挙げられている取組はいずれも実現すべき重要なものであるため、「例」としてではなく実施すべき取組としてそれを実現する政策とともに列記すべきである。

P.18
(イ)事業者の自主的取組

①「第1ステップにおいて、自主的取組の一層の推進を図ることを基本としつつ」と現状の自主的取組を継続する方針だが、自主的取組が6%削減を実現する対策の一つに位置付けられている限り、確実に達成する必要がある。削減目標達成を担保するために、第1ステップから協定化をすることを明記すべきである。

・) 事業活動に伴う排出量の全体に占める割合は極めて大きく、各事業者の排出量・吸収量の把握・公表は、温暖化対策の策定、政策評価を行う上で不可欠の情報である。これらの情報は公共財というべく、各事業者の自発的努力に委ねるのではなく、把握・公表を制度化することが必要である。また、省庁を超えて情報を共有することの制度化も不可欠である。

P.19
ii)自主取組の第三者評価の仕組み

第三者評価は確実な目標達成と事業者の取組への信頼を育むために不可欠な仕組みであり、「任意」ではなく経団連の自主取組に参加する全ての事業者を対象とすべきである。また民間の第三者には、環境NGO等市民セクターを含めるべきである。経団連が現在検討している第三者機関は、自身での評価となる可能性が極めて高いため、ここで言う第三者には値しない。

P.19 23~24行目
(ウ)技術対策の導入促進

環境NGOの立場から、放射能という極めて大きな環境負荷を生じる原子力発電は、地球温暖化対策として到底容認出来ない。しかも最近の住民投票で原発の新設は多数の市民から支持されておらず、CO2削減策として非現実的である。当該個所は削除すべきである。

また、「断熱材のフロンの回収・破壊技術の推進」を追加すべきである。

そして、回収・破壊できないことが明確になれば、代替品のある用途であるため断熱材としての新たな使用の禁止を盛り込むべきである。

P.20 5行目~
ウ 日常生活・事業活動における第2ステップの取組

ここで掲げられた追加的な導入が考えられる取組例は、「新たな技術革新の成果の導入促進」以外、全て第1ステップで行うべきである。

P.22 6行目~
(4)吸収源対策

国際交渉では吸収源利用の上限が日本にだけ特別に大きく認められたが、これらを利用すれば、国内の化石燃料起源のCO2削減を緩めることにつながり、その分国内の地球温暖化対策は遅れることとなる。上限の3.9%分を丸まる目標達成に利用しようとする姿勢は改め、京都議定書の目標達成には吸収源は利用しない、あるいは利用するとしても最小限に抑える方針とし、国内での排出削減を進める心構えを示すべきである。また、森林の整備・保全や機能向上などは京都議定書の目標達成への利用とは無関係にいずれにせよ進めるべきものである。
 また、日本においては、「森林管理」活動の中でも今後主に行われると予想される間伐施業および枝打ちの活動を行うことによって、樹木のCO2吸収量を増大させることができるというのは間違いである。
 日本の気候条件では放っておいても成長だけはするので、人手を加えても加えなくても、総バイオマス量にほとんど違いがないことは林業家の常識であろう。
 「枝打ち」をするのは節を取るためとともに、樹木の成長を遅らせ、木材の密度を上げるためであり、「間伐」を行う場合には、成長増加分は間伐材の方のバイオマスが取り去られる量でキャンセルされてしまう。間伐後の木材自体は林業活動の中では増加分と思われているが、間伐の活動も「木材供給(いわゆる主伐)」そのものと同じく樹木を伐採する活動であり、現行のIPCCのインベントリーガイドラインにおいては、伐採後木材は伐採した瞬間に大気中へ排出されたと勘定すべきであることを忘れてはならない。
 従って「間伐」の活動自体も吸収量を増大する活動であるとはみなせない。
 また同じ理由で、温暖化対策の名目で「木材の有効利用」を行っても、伐採後木材の炭素貯蔵機能は温暖化対策として認められておらず、吸収源の効果を数値化して勘定に含めることができない対策であるといえる。
 従って、以上の日本林業における主な活動が、森林の吸収能力を増大させる活動とみなせない以上、枝打ち、間伐を現行の林業の状態よりも拡大しても、森林吸収量を増加させたとして、吸収源に含めることはできないはずである。
 日本政府は国際交渉において、この明白な事実を隠して、3.7%分という日本の森林吸収の総量を、全部人工的な森林管理活動で得られる吸収量であるかのような虚勢を張って3.9%の上限枠を獲得したが、吸収について報告すべき目録に記載すべきなのは、人為的追加的な吸収量だけである。従って、あたかも日本の自然の吸収量3.7%近くまで取得可能であるかのようなごまかしを報告書に載せてはならない。

P.23
(5)京都メカニズム

「ODAの活用を含め、CDM・JIに取り組む事業者のインセンティブとなる施策を検討する」との記述があるが、CDMにおいてはODAの流用になってはならないとマラケシュ合意で記述されている。そのため、実際のところODAを増額しない限り流用との区別はつけることは難しいと考えられるため、ODA利用がそのまま可能であるかのような誤解を招く表現は止め、ODAの言及は避けるべきである。

P.23
(6)経済的手法等

ア 温暖化対策税制

 

温暖化対策税制は、京都議定書の目標達成のための施策として早期に導入すべきである。制度面での検討は既に数年来に渡って十分過ぎるほど行われてきており、実施の段階にきている。第1ステップでの導入の具体的なスケジュールを決定すべきである。あらゆる所から排出されるエネルギー起因CO2の削減のためには、環境保全に熱心に取り組む個人や企業の努力に期待するだけではなく、CO2削減に努力した企業や個人が得をし、そうでない者はそれ相応の負担をする形に経済の仕組みを変える必要があり、価格インセンティブによって削減を促す炭素税などの経済的手法が必要不可欠である。なお、国際排出量取引でロシアなどからホットエアを買ってくる財源として温暖化対策税収などを用いることは本末転倒である。

P.24
イ 国内排出量取引制度

国内排出量取引は、制度設計によっては大きな抜け穴になる恐れがある。一方で、各国が導入を具体化する動きがあることも合わせ、検討は第2ステップからと限定せず、必要に応じ第1ステップから妥当性を検討するべきである。

P.24
ウ 経済的手法を含めた政策パッケージ

「引き続き検討」と消極的表現となっているが、「第1ステップでの導入のために早急に検討すべき」とし、2005年以降に先延ばしをすべきではない。

P.24
9.技術開発の促進

二酸化炭素の固定化は、生態系への影響や温暖化防止効果などにおいて様々な問題が未解決な技術であり、また研究・実施に莫大な費用がかかる上、省エネの場合のようなコストカットの効果はなく、原理的に引き合わないことから、現時点で投資すべき温暖化対策オプションとして、費用対効果の面からも他の施策より優先させる正当性はなく、推進すべきではない。

P.25 最後の7行
11.終わりに

京都議定書の締結については、気候ネットワークの本年度の活動・キャンペーンからしても、国民は既に十分な理解を示しており、圧倒的に支持しているのが実状である。国民の代表である国会が全会一致で批准を求めた決議を採択しているのがその何よりの証拠である。答申を受けて後、改めて締結に関する理解を得るプロセスは今更不要に思われる。むしろ、批准(締結)を求める国民の総意を受け、ヨハネスブルグサミット期間中に京都議定書が発効するよう、政府が5月末までに締結することを(期待ではなく)求めるべきである。

 

問合せ

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
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