神戸石炭火力行政訴訟 市民の気候変動への影響を争う権利を認めず
問われる「無秩序な石炭火力発電所の新増設」への対応
2021年3月17日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
3月15 日、神戸市灘区に建設中の神戸製鋼石炭火力発電所(130 万kW。年間CO2排出量約700 万t)建設について、地元住民らが環境影響評価書の確定通知の取消を求めた訴訟にお いて、大阪地方裁判所は、CO2の大量排出について訴訟で争う原告の権利を認めず、また、深刻な大気汚染物質であるPM2.5についての調査・予測・評価をしなかったことの違法性はないとして、原告らの請求を棄却した。
気候ネットワークは、科学に基づく30年に及ぶ国際社会の地球温暖化防止の取組のもとで、世 界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃未満に止め、危険な気候変動を防いでいくための日本の責務として、まず、石炭火力発電を2030年までにフェーズアウトし、再生可能エネルギーに転換していくことを求めてきた。このことは、国連から強く求められてきたことでもある。ましてや、これまでの石炭火力の新設・稼働は、世界の脱炭素の潮流に真っ向から逆行する暴挙であった。気候ネットワークは、このような神戸製鋼石炭火力発電所の建設・稼働を止めようと訴訟に立ち上がり、古色然とした日本の司法制度のもとで闘ってきた原告ら住民たちの粘り強い行動に敬意を表するとともに、3月15日の原告団・弁護団の声明に同意する。さらに、控訴審に向けた地元住民らの挑戦を支持し、これからも支援していく。
大阪地方裁判所は、判決において、環境省と経済産業省の「局長級会議取りまとめ」が「火力発電所の無秩序な新設・増設計画」に何の抑止にもならず、今日の石炭火力発電所の林立を招いたことを認めたものでもある。それに対し、行政の裁量の範囲内にあるとして行政の無策を容認したことは、海外の裁判所では気候危機が国民への人権侵害と評価されている今日、司法の役割を放棄したものと言わざるを得ない。
日本では、このような「局長級会議取りまとめ」による環境アセスメントの方針を錦の御旗に石炭火力発電所の増設が進められ、再エネ拡大のための諸制度改革を妨げ、気候変動対策の柱であるエネルギー転換に甚大な遅れをもたらしてきた。そのため、再エネ利用を前提とする経済活動への競争力に懸念が生じている。COP26に向けて、2030年までの温室効果ガス排出削減目標と再エネ導入目標を引き上げ、脱原発を前提に石炭火力をフェーズアウトし、2050年カーボンニュートラルに向けた削減の経路と実現のための政策を明確にすべきである。今後、稼働できない新設石炭火力発電所のため、容量市場といった国民負担を追加させる政策を加えることは許されない。 秋田港及び西沖の山の石炭火力新設計画は直ちに中止すべきことはいうまでもない。
以上
ダウンロード用PDF
【プレスリリース】神戸石炭火力行政訴訟 市民の気候変動への影響を争う権利を認めず 問われる「無秩序な石炭火力発電所の新増設」への対応(2021/3/17)