気候変動と土地に関するIPCC特別報告を受けて

~食料危機や水不足の悪化を警告。政府は対策強化を急げ~

2019年8月9日

特定非営利活動法人気候ネットワーク

代表 浅岡美恵

8日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動と土地に関する特別報告(SRCCL)を発表した。これは、土地の状況と気候変動との関係についての最新の研究成果を包括的にまとめた初のIPCC報告であり、気候の危機と対策の緊急性を改めて我々につきつけるものである。

今回の特別報告は、昨年10月に発表されたIPCCの1.5℃特別報告に続く重要なもので、人間による土地利用のあり方が気候危機をさらに悪化させている事実や、気候変動によって土地がより一層劣化している現状に警鐘を鳴らしている。IPCCは、森林減少や農業などの土地利用によるCO2排出量は、世界の人為的な温室効果ガス総排出量の23%になるとしている。その土地への悪影響が適応の限界を超えると、場合によっては移住を強いられたり、紛争につながったり、貧困が悪化する恐れがある。土地には炭素を固定する吸収源としての機能もあるが、それが維持されるかどうかは、気候変動によって不確実なものになっている。また、IPCCは、気候変動対策の名目で大規模にバイオエネルギー依存を進めると、生物多様性への悪影響や土地劣化だけでなく、食料生産と競合しかねないとの懸念も示している。

さらに、新たな知見として、1.5℃の温暖化であっても、水不足、山林火災、永久凍土の融解、食料生産の不安定化といった、土地に関連する悪影響があることがあげられている。2℃の温暖化では、永久凍土と食料生産に非常に高いリスクがもたらされることになる。この間の科学的知見の蓄積から、人類社会がめざすべきは「1.5℃未満」であるとの認識がますます広がり、深まっているといえよう。気候変動を緩和し、気候災害の被害を最小化し、森林減少を食い止め、貧困や飢餓を撲滅するためには、食料生産や土地利用のあり方を見直すことが必須である。

他方、土地部門の対策だけでは気温上昇を1.5~2℃未満に抑制することは不可能であって、すべての部門で温室効果ガスを削減することが必要とも指摘している。気候変動対策の王道が、省エネの徹底と脱化石燃料、とりわけCO2排出量の多い石炭からの脱却、自然環境の破壊を最小限に抑えた持続可能な再エネ100%への転換のであることを改めて示唆するものである。日本政府は、9月下旬に予定されている国連気候サミットに向けて、ただちに、2030年の排出削減目標の引き上げに着手するとともに、これを可能にするため、脱石炭方針を決定し、そのロードマップを描く必要がある。それこそが、健全な自然環境と安定的な食料生産を可能にし、平和で持続可能な社会をつくる方途である。

以上

プレスリリース(PDF)

【プレスリリース】気候変動と土地に関するIPCC特別報告を受けて~食料危機や水不足の悪化を警告。政府は対策強化を急げ~(2019/8/9)