<プレスリリース>
IPCC第六次評価報告書統合報告書発表にあたって
1.5℃目標達成と気候危機回避に向けて、
今すぐ、でき得る限りの気候変動対策を
2023年3月23日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
3月13日から17日、スイス・インターラーケンでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第58回総会が開催され、第六次評価報告書統合報告書が3月20日に発表された。2014年11月に発表された第五次評価報告書統合報告書から約8年半ぶりとなる本報告書は、この間発表された、第1~第3作業部会の報告書、および1.5℃、土地関係、海洋・雪氷圏に関する特別報告書、2019年方法論報告書を総括する形でまとめられた。
IPCCは本報告書で用いられたモデルの分析はほぼすべてのケースにおいて、産業革命前からの気温上昇を1.5度以下、もしくは2度以下に抑える場合であっても、2020年代中に急速で徹底した排出削減を即時に行う必要があることを示したとしている。具体的にはパリ協定の1.5度目標の達成のためには温暖化ガス排出量を2035年に19年比で60%、40年に69%、50年に84%減らす必要があるとした。一方で2021年10月時点で各国が提出した「国が決定する貢献(NDCs)」に基づく削減量では、21世紀の間に地球温暖化が1.5℃を超える可能性が高いとしている。これらの分析結果を受けて、本報告書では、「全ての人々にとって住みやすく、持続可能な将来を確保するための機会の窓は急速に閉じられて」おり、「この10年の選択や行動は、現在から数千年先にまで影響する」と警告した上で、今すぐ、でき得る限りの気候変動対策を講じる必要があることを強調している。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、3月20日のIPCCの記者会見でのビデオメッセージにおいて、「人類は薄氷の上にあり、その氷は急速に溶けている」との現状認識を示し、本報告書は「人類にとってのサバイバルガイド」であるとした。そして先進国に対しては2040年に最大限近づける時期においてネットゼロを達成すること、OECD加盟国に対しては2030年には新規の石炭火力発電を取りやめ、既存の石炭火力をフェーズアウトさせること、全ての先進国が2035年にはネットゼロ発電を確実なものとすることなどを求めている。なお、石炭火力発電については、本報告書においては排出削減対策が講じられているとされるためには90%以上の回収がなされることを前提としている点に留意する必要がある。
翻って日本政府の対応を見ると、今回IPCCの示した方向性から逆行した対応に終始していると言わざるを得ない。今年2月に閣議決定されたGX実現に向けた基本方針(案)やGX脱炭素電源法案は「次世代革新炉」計画や原発稼働期間の延長等を通じて温暖化対策とはならない原子力発電による電気供給体制を福島事故以前に逆戻りさせるものであり、前述した排出削減対策が講じられていると認められる90%以上の削減が全く見込めない火力発電における水素・アンモニアの活用、CCSの事業化といった、緊急に求められている気候変動対策に逆行する不確実な技術の開発、導入を中心とするものである。
これらの取組はパリ協定・グラスゴー気候合意と整合せず、脱炭素経済社会の実現に貢献しないばかりか、種々の重大な課題を抱えた原子力を維持・拡大し、早期廃止が求められている石炭火力を延命させ、再生可能エネルギーの拡大など必要な気候変動対策の促進を妨げ、ひいては産業競争力を低下させ、電力コストの上昇などによる国民負担を増加させるものである。
今回のIPCC第六次評価報告書統合報告書の発表を受け、日本政府に対しては原発依存・化石燃料依存の気候変動・エネルギー政策を根本から見直し、再生可能エネルギーの大幅な導入と大胆な省エネの推進政策に転換して実行すること、そして1.5℃未満の目標を達成するための2035年の削減目標(NDC)を強化し、先進国としての責務を果たすことを求めたい。
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【プレスリリース】IPCC第六次評価報告書統合報告書発表にあたって 1.5℃目標達成と気候危機回避に向けて、今すぐ、でき得る限りの気候変動対策を(2023年3月23日)
参考
IPCC第6次評価報告書統合報告書
Climate Change 2023:
https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/
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