<プレスリリース>

IPCC特別報告書「1.5℃の地球温暖化」の公表を受けて

-日本は削減目標の引き上げとエネルギー政策の転換を-

2018年10月9日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美惠

2018年10月8日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって、地球平均気温が産業革命前から1.5℃上昇した場合の影響や排出削減のあり方などをまとめた特別報告書(以下「1.5℃特別報告書」という)が発表された。

1.5℃特別報告書では、現在の地球の平均気温が、産業革命前に比べてすでに約1℃上昇していることを確認した。気温上昇幅が「2℃」と「1.5℃」の場合を比べると、「陸域、淡水、及び沿岸域の生態系が受ける影響」「海水温の上昇、並びにそれに関連する海洋酸性度の上昇」「海洋酸素濃度水準の低下」「海洋生物多様性、漁業資源、及び生態系、またそのサービス機能」「健康、生計、食料安全保障、水供給、人間の安全保障、及び経済成長に対する気候関連のリスク」などにおいて、「2℃」の方がより悪影響が大きくなることを指摘している。オーバーシュートなしに地球温暖化を1.5℃に抑えるためには、世界のCO2排出量が、2010年比で、2030年までに約45%減少し、2050年頃には実質ゼロに至ることが必要である。この場合、石炭利用が急減していることが必要であることが示されている。

1.5℃特別報告書によれば、1.5℃の気温上昇であっても、厳しい悪影響がある。産業革命前からの地球平均気温上昇が約1℃の現在においても、今夏の異常気象のような極端な悪影響と被害がすでに発生しているのが現実である。また、かねてより、各国が現時点で掲げている排出削減目標は、すべて達成されたとしても約3℃の気温上昇を招くと科学者が指摘してきている。パリ協定がめざす「1.5℃」を達成するため、そして気候変動リスクを最小化するためには、排出削減目標の引き上げと脱炭素、とりわけCO2排出量の大きい石炭からの脱却が緊急に必要であるということを認識しなければならない。

日本の2030年の排出削減目標は「2013年比26%削減」に留まり、「1.5℃」に抑えることのできない低い水準である。また、2012年以降50基に及んだ石炭火力発電所の建設計画は、7基は中止となったものの、8基が稼働し、約35基はなお、計画・建設段階にある。このままでは、不十分な2030年の削減目標にも及ばないことは明らかである。このような石炭火力発電所計画を止められない政府のエネルギー・気候変動政策は、およそパリ協定とは整合しないというほかない。

持続可能な開発、貧困撲滅及び不公平の是正への気候変動の悪影響を回避するためにも、日本も、「1.5℃目標の達成に向けた道筋」を描く必要がある。これを実現していくため、日本政府には、次の対応をするよう求める。

1.2030年削減目標「2013年度比26%」を見直し、1.5℃目標に沿う水準に引き上げること

2.上記目標に向けて、脱原発を前提に2030年電源構成における石炭火力発電をゼロとする道筋を描くこと

3.脱炭素経済への道筋を確立するために、大幅な省エネと大胆な再生可能エネルギー導入を進めるとともに、効果的なカーボンプライシングを導入すること

以上

参考

1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC特別報告書(2018年10月8日)

プレスリリース(印刷用PDF)

【プレスリリース】IPCC特別報告書「1.5℃の地球温暖化」の公表を受けて-日本は削減目標の引き上げとエネルギー政策の転換を-(2018/10/9)

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