電力市場に関するパブリックコメントへの意見

電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第二次中間とりまとめ」への意見

 

2019年7月2日

 

「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第二次中間とりまとめ」のパブリックコメントに際して、気候ネットワークとして、次の意見を用意しました。

 

政府ウェブサイト「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会第二次中間とりまとめに対する意見公募」

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620219006&Mode=0

 

気候ネットワーク意見

【該当箇所】全体 新たな市場整備の方向性について

【意見】現在示されている市場整備の方向性は、再生可能エネルギー主力電源化、脱炭素社会・持続可能社会の構築、電力自由化、公平・公正な電力システムからかけ離れたもので、このような政府の方向性でいくと、再生可能エネルギーの普及を阻害し、既存の原発や石炭火力さえ「容量市場」という名の新たな補助金制度で温存させ、不公正な電力市場を構築することになる。したがって、非化石電源価値取引市場、ベースロード電源市場、容量市場の議論は、当面凍結させ、拙速に導入すべきではない。電力システム改革貫徹小委員会の意図する「電力市場の競争の深化や、環境適合、安定供給などの公的課題」という方向にもそぐわない方向性であると指摘せざるを得ない。

また、「中間とりまとめ(案)」において、この検討期間中におきた出来事として北海道胆振東部地震によるブラックアウトを例にあげ、容量市場の早期導入が必要だなどとしているが、全く意味不明である。最大電力需要時でも電力予備率が30%程度もある北海道でブラックアウトが起きたのは、大規模集中型電源の被災が原因であり、容量市場があれば回避できた類のものではない。むしろ今回のような大規模停電は、小規模地域分散型のエネルギーシステムで、かつ本州との北本連系線を強化されていれば、回避できた可能性は高かった。今後の方向としても、小規模分散型電源にすることで、電力インフラシステムのレジリエンスを高め、再生可能エネルギー大量導入の方向性にも整合する。

さらに、現状の問題として、スポット価格で100円/kWhという史上最高値を記録し、卸電力市場(JEPX)の価格の乱高下への対応が必要だとしているが、その対応策としてやるべきは、まずは電源開発の電力をJEPXに開放すること、地域間連系線の強化すること、などを最優先課題として対応すれば、現状のような価格の乱高下は回避できるはずである。

電力市場の整備において、こうした本来まず対応すべきことに手を付けず、自由化とは真逆の容量市場など複雑な市場を消費者の理解も進まない状況で構築することは社会を混乱させることになりかねない。また、原発や石炭を低減させるという「エネルギー基本計画」に示された方向性にも整合しない。全面的な見直しが不可欠である。

 

【該当箇所】P3 開かれた検討プロセス

【意見】この検討プロセスについて「開かれた検討プロセスを構築してきている」と表記されているが、電力市場の新たな創設については国民の大半が理解していない状況である。電力システムについては、国民の費用負担に直結する重要な問題であり、また環境面で持続可能な電力システムが構築できるか、世代間公平性の観点から適正であるか、といった幅広い議論が不可欠で、電力業界の関係者間だけで議論すべき問題ではない。国民の理解が進まないまま、原発や石炭火力を温存するしくみに莫大な国民負担が課せられ、原発・石炭などの電力が一方で安価で売買され、再生可能エネルギーの普及を妨げる電力市場が構築されることはあってはならない。少なくとも、国民がこの内容を理解し、国民的議論を深めた上で、導入すべきか否かを決定するべきである。

 

【該当箇所】P1~ 2030年エネルギーミックスを前提とすることについて

【意見】「中間とりまとめ(案)」では、「2030年のエネルギーミックスの着実な実現」や「エネルギー供給構造高度化法の2030年目標に向けての着実な進捗を促す」ために、電力市場の「具体的措置」を示したとされる。しかし、エネルギーミックスを強引に実現させるための電力市場を構築することは、電力競争の自由化とは完全に矛盾している。そもそも、2030年のエネルギーミックスで示された再生可能エネルギー22~24%、原発20~22%、石油3%、石炭27%、石炭26%という構成が再生可能エネルギーを主力電源化し、原発や石炭の低減という政策的方向にもそぐわない。原発の20~22%は到底実現不可能な破綻した数字であることは明白であり、また石炭の26%という高い数字もパリ協定の「1.5度目標」とは整合しない。今回の制度化のそもそもの前提から見直すべきである。

 

【該当箇所】P5~ 非化石価値取引市場について

【意見】非FIT非化石証書は不要である。その理由は以下のとおりである。

①現在、「RE100」への参加が拡大し、再エネ100%を目指す企業が増える中で、再エネに関しては“環境価値”が高まり相対取引が進んでいる。

②つまり、現実的には非FIT非化石価値は原発に追加的な価値をつける制度であることは明白で、そもそも原発による電気に「環境価値」相当の価格をつけること自体がおかしい。

③小売事業者に2030年の非化石価値44%を義務付けたとしても、原発20~22%の実現が不可能であることは変わらず、すでに制度の破綻が目に見えている。

④またこの制度は、既存の「非化石電源」である原発や大規模水力をかかえる旧一般電気事業者にとって有利な制度だが、そもそも総括原価方式の制度下で原資を回収している電源に新たな価値をつけることは競争上公正とは言えない。

 

【該当箇所】P56~ ベースロード電源市場

【意見】既存の火力や水力を保有する大手電力会社に対して新電力が十分な競争力を有していないということから、極めて限定的だったアクセスを開放し、小売事業者間の競争を活性化することを目的に「ベースロード電源市場」を創設することとされている。しかし、こうした目的を達成するため、わざわざベースロード電源市場という新たな市場を創設するのではなく、現状では60万kWに制約されている民営化前の電源開発の電源(主には石炭火力と水力発電)を卸電力市場に切り出しすれば解決する問題である。「ベースロード」という24時間フル稼働させることを前提とするような電源は再エネ主力電源化とは相容れないもので、そのような考え方をネーミングにした市場をつくるべきではない。

なお、既存の火力や水力を卸電力市場に切り出す場合であっても、火力についてはパリ協定に整合する炭素税をかけCO2コストを内部化することが不可欠である。

 

【該当箇所】P66~ 容量市場

【意見】容量市場の創設に反対である。その理由は、動いてもいない既存の原発や石炭火力を温存することにつながり、1兆4000万円とも言われる新市場の創設で、すべての電力ユーザーがその負担を負わされる不条理な制度だからである。脱原発や老朽火力の早期廃止の政策に逆行するものだ。

なお、不測の事態で電力が逼迫した場合の備えとしては、電力の地域間連系で融通するしくみを構築することが先決で、それによりこの先10年はいずれの地域も電力予備率8%を超えることが予測されているため、容量市場の早期導入は不要である。また、本来まずやるべきは省エネであり、国内の最大需要時にあわせて設備容量を確保するというのは、再生可能エネルギーを大幅に増やす政策にも合致しない。