<プレスリリース>

長期戦略の閣議決定

パリ協定の1.5℃目標と脱炭素社会づくりと整合を図り、
石炭火力全廃・再エネ100%に向け、直ちにNDC見直しに着手を

2019年6月11日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

本日6月11日、パリ協定において策定が求められている「長期低排出発展戦略」が閣議決定された。4月24日に示された「政府案」から改善されることなく、「非連続のイノベーション」という言葉が繰り返し強調され、化石燃料や原発利用を継続させながら、CCS(炭素回収・貯留)やCCU(炭素回収・利用)、宇宙太陽光や次世代原子力といった、実用化のめどが立たず問題の多い技術によって、あたかもすべてが解決されるかのような戦略だ。そして、長期的に「脱炭素社会」を目指すとしながらも、再生可能エネルギーや省エネルギーなど現在すでに世界で導入されている現実的で実効性のある解決策に欠けており、将来世代に大きなツケを回すものだと指摘せざるを得ない。安倍首相は「環境と成長の好循環をしっかりとつくり上げることで、世界における環境政策のパラダイム転換を、我が国がリードする」と述べているが、世界が化石燃料から再エネにダイナミックにシフトする中、いまだに原発や石炭の維持を図る「戦略」は、到底国際社会から受け入れられるものではない。さらに、この長期戦略は、「脱石炭」の方向性も示していないなど、パリ協定と整合しない。原発や火力など旧来型のエネルギーになお固執しており、国際社会の中での日本のプレゼンスをこれまで以上に低下させることになりかねない。この長期戦略によって「日本は持続可能なエネルギーの未来への転換に踏み出していない」という受け止めが広がり、ESG投資や投資家による化石燃料ダイベストメント(投資撤退)の潮流も相まって、日本の産業界にとっても大きなダメージとなるだろう。

長期戦略に求められているのは、パリ協定に基づく1.5℃目標の達成や、「脱炭素の経済社会」への転換を目標に据えて、多数の国内石炭火力発電所の建設計画を止め、既存の石炭火力発電所を含めることである。遅くとも2030年までに国内のすべての石炭火力発電を廃止すること、脱原発、再エネ100%にダイナミックかつ公正に移行する道筋を描くこと、そして、すでに利用可能な省エネ・再エネ技術をさらに拡大させる対策を加速することに尽きる。

長期戦略の今後については、「6年程度を目安としつつ情勢を踏まえて柔軟に検討を加える」としている。IPCC1.5℃特別報告書が指摘するように、今後10年の取組が極めて重要とされ、2020年までに2030年目標の引き上げが求められているとき、かかる不十分で旧来型の方針を6年間も固定化し、2020年の目標引き上げや2023年のグローバル・ストックテイクといった野心引き上げを考える機会を逃すことは許されない。

今後は、1.5度目標と整合させるために、日本の温室効果ガス排出削減目標である「2030年26%削減」、「2050年80%削減」の深掘りに向けたプロセスを早急に開始する必要がある。2030年までの排出削減目標については、早急に見直しに着手し、IPCC1.5℃特別報告を踏まえて45~50%削減の水準まで引き上げ、パリ協定のもとの国別約束(NDC)に位置づけ直し、2020年中に国連に再提出をする必要がある。長期戦略の発表に際し、その意思を明確に示してこそ、G20サミット議長国としての責任が果たせると言える。

参考)パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai40/pdf/senryaku.pdf

プレスリリース(印刷用・PDFデータ)

【プレスリリース】長期戦略の閣議決定 パリ協定の1.5℃目標と脱炭素社会づくりと整合を図り、 石炭火力全廃・再エネ100%に向け、直ちにNDC見直しに着手を(2019/6/11)

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