<プレスリリース>

児童の権利委員会
日本政府に対し気候政策と石炭火力融資の見直しを勧告

2019年2月10日
NPO法人 気候ネットワーク

 

国連の「児童の権利に関する条約」に基づいて設置される「児童の権利委員会」(※1)は、日本政府に対し、子どもの権利保護の観点から気候政策と石炭火力政策の見直しを勧告した。

同委員会は、定期的に実施する条約の義務の履行の審査を行っているが、2月1日、政府が提出した「第4・5回日本政府報告」に関する検討を行い、その勧告を報告書(Considering Observations)にとりまとめ発表した。その中で、日本政府に対し、

温室効果ガス排出削減を含む気候政策が国際協定と整合するものであることを確保すること

政府による、他国の石炭火力への公的融資を見直し、持続可能なエネルギーへ転換することを確保すること

を勧告に盛り込んだ。同委員会が、日本政府に対して、子どもの権利保護の観点から気候政策と石炭火力政策の実質的な見直しを勧告したのは初めてのことであり、気候変動対策を怠ることは、子どもの権利を侵害するものであるということを知らしめることとなった。日本の2030年の温室効果ガス排出削減目標(2013年度比26%削減)は低い水準に留まっており、パリ協定の達成には全く整合しないものであるため、勧告は、さらなる引き上げが必要と指摘していることに等しい。また、石炭火力発電所への公的融資方針を再検討するよう勧告していることは、石炭火力発電が、膨大な温室効果ガス排出をもたらし、気候変動を深刻化させるものであり、子どもの権利の保護の上からも見直しが必要であることを明らかにするものである。

オランダの気候訴訟を実施するウルゲンダ・ファウンデーションの法律顧問であるデニス・ヴァン・ベルケル氏は、「委員会の日本に関する報告書の内容は明白だ。日本の気候変動及び石炭火力発電所の政策は、人権に甚大な影響を及ぼすものだということだ。今回の報告書は、同委員会がこれまで行ってきたどの勧告よりも、気候変動や石炭火力政策が子どもの人権保護の義務と一致させる必要性について最も具体的に踏み込んでいる。今、世界各地で子どもたちが、気候変動に対する十分な行動が取られていないことを深く懸念して、町にくり出し、声を上げている(※2)。本報告書は、政府が気候変動対策への行動を緊急に強化しなければ、彼らの権利が侵害されるということを意味している」と述べている。

同委員会は、審査のプロセスにおいて、日本政府に対する質問の一つに、日本の現在の気候政策と国内外の子どもの健康・食料・良好な生活水準などにおける権利保護との整合性について説明するよう求めていた(質問8)。これに対し政府は、2030年26%目標への取り組みや、途上国との二国間クレジット制度の利用などを日本の対策として回答していた。

一方、国際環境法センター(Center for International Environmental Law; CIEL)と、経済・社会・文化的権利のためのグローバル・イニシアティブ(Global Initiative for Economic, Social and Cultural Rights (GIESCR))は、気候ネットワークとともに、審査のプロセスにおける市民社会からの情報を提出し、日本の温室効果ガスの目標の不十分さや石炭火力推進の問題を指摘していた。

今回の勧告によって、日本政府が、子どもの権利という観点から気候変動への対応の必要性を十分に認識しておらず、そのことが現行の気候政策を不十分な水準に止め、石炭火力推進を野放しにしているという現実が浮き彫りになった。本勧告を受け、政府は、気候政策及び石炭推進政策を、子どもの権利の保護という観点から、速やかに見直しを実施するべきである。

(※1)児童の権利委員会は、児童の権利条約に基づいて設置された委員会で、18人の独立した専門家で構成される。定期的に開催され、条約による義務の実施について締約国が行った進捗状況を審査し、これらの義務をいかに果たすかについて政府に勧告する。

(※2)スウェーデンの16歳の少女が一人で始めたストライキが、スイス、ベルギーやオランダなどで、数千・数万の中高生の行動に広がっている。

Concluding observations on the combined fourth and fifth periodic reports of Japan, CRC, para 37.

(該当箇所の気候ネットワーク仮訳)

子どもの権利に対する気候変動の影響

37. 委員会は、持続可能な開発目標の13.5への注意を喚起し、政府に対し以下を勧告する。

(a) 気候変動や災害リスクマネジメントに関する政策やプログラムを開発する際には、子どもの特別な脆弱性・ニーズ、視点を確保すること

(b) 学校のカリキュラムや教員のトレーニングプログラムに組み込むことを通じて、気候変動や自然災害への子どもの意識と準備を向上させること

(c) 国際・地域・国の政策や枠組、合意を形成するために、子どもが直面する様々な災害のリスクのタイプを特定するデータを収集すること

(d) 気候を緩和する政策が、条約と整合的であることを確保すること。中でも、温室効果ガス排出削減は、国際協定と一貫性を持ち、子どもの行使、特に健康・食料・良好な生活水準の確保の権利を脅かすような水準を回避するものであること。

(e) 他国における石炭火力発電所への政府の公的融資を再検討し、それらが徐々に持続可能なエネルギーを利用した発電所へと更新されることを確保すること

(f) これらの勧告を実施する上で、二国間・多国間・地域・国際間の協力を模索すること

本文

プレスリリース「児童の権利委員会 日本政府に対し気候政策と石炭火力融資の見直しを勧告

英語版プレスリリース

参考資料

日本政府「児童の権利に関する条約 第4・5回日本政府報告 (日本語仮訳)」2018年6月(外務省ホームページ)

CIEL・GIESER・気候ネットワーク「Briefing Note to the CRC Committee, in response to the List of Issues for Japan」2018年

CRC「Concluding observations on the combined fourth and fifth periodic reports of Japan」2019年2月1日

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