【意見書】「西沖の山発電所(仮称)新設計画 環境影響評価準備書」に対する意見

2018年11月9日

特定非営利活動法人気候ネットワーク

1.石炭火力発電所を新たに建設することに対して

石炭を燃料として、2基合わせて120万kWもの大規模な火力発電所を新たに建設することは時代錯誤である。準備書では、エネルギー基本計画において石炭がベースロード電源とされていることを理由とし、USC の採用に加えて設備の維持管理などの対策を実施することにより、実行可能な範囲で環境負荷が低減されると評価している。しかし、石炭のCO2の量はLNGの2倍であることには変わりなく、本計画では2基合わせて年間約786.2万tにものぼる膨大なCO2が排出されると見込まれている。

気候変動への対応が喫緊性を増し、先月発表されたIPCCの「1.5℃特別報告書」では、早ければ2030年には産業革命前に比べて1.5℃上昇に到達するとされており、ただちに人為的な温室効果ガスの急速な削減が必要とされた。2026年に稼働を開始しようとする本計画はCO2排出を増加させるもので、気候変動対策に真っ向から反する。

また、硫黄酸化物、窒素酸化物、PM2.5などの大気汚染物質も大量に排出し、環境影響上の問題は非常に大きい。以上のことから、計画自体を撤回すべきである。

2.温室効果ガスの排出源単位

本事業の排出原単位は 0.748kg-CO2/kWh とあり、「低炭素社会実行計画」の中で目標とされる「2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWh」の約2 倍にのぼる。

準備書では、「低炭素社会実行計画」の目標達成に向けて取り組むことを環境負荷低減措置の一つにあげているが、目標の2倍にものぼるCO2を排出しながらどのように相殺するのかを示す具体的な方法や根拠がない。 このように原単位が大きく、長期間にわたって膨大なCO2を排出する事業は実施するべきではない。

3.「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について

2016年11月、地球の気温上昇を2℃未満にすることを目標とし、今世紀後半にはCO2排出を実質ゼロにすることとしたパリ協定が発効した。また、2018年4月に閣議決定された第五次環境基本計画には、第四次に続き、2050年に80%削減を目指すことが記されている。

しかし、本計画が実現すれば2050年にも稼働している可能性が高く、長期間にわたって大量排出を固定化することになる。このように「パリ協定」の合意に反し、国の目標達成をも危うくする本計画の正当性は認められない。

7.発電所の立地と大気汚染について

準備書によれば、発電所の建設地周辺には、保育園・幼稚園、小中学校、医療施設や高齢者 福祉施設など、環境保全に特に配慮が必要な施設が多数存在する。しかし、こうした施設に集まる子どもやお年寄りなどに対する健康影響によるリスクは高まるが、そのような影響評価はなされていない。石炭の燃焼による汚染に脆弱な子どもや病人が恒常的に集合している施設もあることを考慮すると、適切に調査・評価すべきである。

また、2009 年に稼働を開始した磯子火力発電所新2号機の大気汚染物質排出濃度は本計画 を下回り、本計画において最善の大気汚染対策が取られたとは考えにくく、水銀などの重金属の年間総排出量の記載がない点も問題である。排煙処理を行ったとしても石炭に含まれる水銀 の3割程度は大気中に放出されるため、計画段階から評価することが必要である。

8.石炭灰について

本計画による石炭灰の量は年間約41万トンとされており、莫大な量である。準備書ではこれらのうちほぼ全量を会場埋め立てやセメント原料などに利用する計画とされているが、石炭灰は現在でも処理先がなくなっている状態で、本計画の発電所が稼働する2026年以降のセメント需要はさらに不透明であり、実際に再利用が可能であるか懸念が残る。

9.情報公開のあり方について

環境アセスメントにおいて公開される準備書は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。そもそも環境アセスメントは住民とのコミュニケーションツールであり、できるかぎり住民に開かれたものであるべきである。縦覧期間後の閲覧を可能にするほか、縦覧期間中もコピーや印刷を可能にするなど利便性を高めるよう求める。「無断複製等の著作権に関する問題が生じないよう留意する」ことは、ダウンロードや印刷を禁じる理由とはならない。