3月3日、気候ネットワークは、株式会社JERAが計画している「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画環境影響評価準備書」に対する意見書を提出しました。なお、気候ネットワークでは、解説書「環境影響評価準備書から読み解く(仮称)横須賀火力発電所新1、2号機建設計画」を発行しています。ぜひ意見書提出にあたって、こちらもご参考にしてください。

(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画環境影響評価準備書に対する意見書

1.石炭を燃料とする問題について

石炭を燃料とする大規模な火力発電所を新たに建設することは時代錯誤である。

燃料を石炭にすることは、周辺への大気汚染に加え、CO2の大量排出によって気候変動に甚大な影響を及ぼし、施設の稼働そのものが著しい環境破壊につながる。

石炭火力発電はLNGの約2倍のCO2を排出し、甚大な環境負荷をもたらす。事業者は、LNGを燃料とすれば大規模な工事が必要となり、工事に伴う環境負荷が増大することから石炭を選択したとしているが、事業者の資料「住民説明会でのご質問に対する回答」によると、本計画をLNGで行なったとすれば必要な建設工事を含めてもCO2排出量は年間410万tとなると示しており、この資料をもっても石炭を燃料とする合理的な根拠は全く示されていない。

2017年1月に関西電力が気候変動対策等を理由に兵庫県赤穂市の火力発電所の燃料を石炭に転換する計画を断念したことを受け、当時の環境大臣がその決定を歓迎し、「石炭火力は将来性に乏しい」として他事業者にも石炭火力発電所建設の再考を促している。また国際的には脱石炭の流れが加速している。また、石炭火力発電は今後、気候変動対策の強化や市場動向の変化、再生可能エネルギーなどの他の電源との競争によって採算が取れなくなり、座礁資産となる可能性が指摘されている。環境的にも経済的にも合理的な選択とは言えない。

2.温室効果ガスの排出源単位について

 気候変動対策の観点から見れば、今後化石燃料の火力発電所を建設することはありえず、化石燃料から再生可能エネルギーへと大転換する必要がある。ましてや、本計画は大量に温室効果ガスを排出する大規模な石炭火力所である。USCを採用することによってCO2の排出源単位を低減するとしているが、予測される原単位は0.749kg-CO2/kWhとLNGの約2倍にのぼる。さらに電気事業低炭素協議会の掲げる「低炭素社会実行計画」で示された「2030年度に排出係数0.37kg-CO/kWh」とする目標に対しても約2倍と大きく上回っている。事業者は、同会には参画していないが、大手電力会社として同会に参加し、排出係数の目標達成を目指すべきである。

 このように本計画における排出原単位は非常に大きく、本計画が稼働すれば、準備書によれば年間約726万tものCO2が30~40年にわたって排出されることとなり、大量のCO2排出を固定化する事業は実施するべきではない。

3.CCSおよび長期的な二酸化炭素削減について

 事業者JERAは、本計画と同社が有するその他3つの発電所の熱効率・稼働率から算出した省エネ法におけるベンチマーク指標は2030年における目標値を達成する見込みであるとしている。ここには、親会社である東京電力や中部電力が所有する既設発電所が含まれておらず、既存の火力発電所に新規の発電所が加わればCO2排出量は増加するだけである。ここでは、親会社や共同火力などの関連会社の持つ発電所をすべて含めて、長期的なCO2削減をどのように達成するのか全く示されていない。

 またCCSについては現時点で技術オプションとして選択することは不可能と述べており、削減対策とはならない。

4.「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について

 本計画では運転開始時期を2023年及び2024年とし、2050年を超えてCO2排出を固定化させることになる。
2016年11月、地球の気温上昇を2℃未満にすることを目標とし、今世紀後半にはCO2排出を実質ゼロにすることとしたパリ協定が発効した。本計画では、施設の稼働による温室効果ガス等への環境影響を低減するために環境保全措置を講じるとあるが、研究機関Climate Analyticsによるレポートでは、パリ協定の達成のためには、日本は2030年までに石炭火力発電所を無くす必要があるとされている。実際に、前田建設株式会社が大船渡市に計画していた火力発電所の燃料を石炭からバイオマスに変更すると先般発表したが、その理由として「パリ協定」に言及している。
また日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。「パリ協定」で合意している2℃目標をどのように達成するか、企業方針を示すべきである。

5.発電所の立地と大気汚染について

 準備書によれば、発電所の建設地周辺には、保育園・幼稚園が9箇所、小中学校が8箇所、医療施設や高齢者福祉施設が9箇所存在し、最寄りの施設からはわずか700mしか離れておらず、さらに石炭輸送等で使用する港湾設備は住宅地に近い。東京湾沿いには他に複数の石炭火力発電所建設計画との複合汚染も懸念されるが、その評価はされていない。

 また、2009年に稼働を開始した磯子火力発電所新2号機の大気汚染物質排出濃度は本計画を下回り、本計画において最善の大気汚染対策が取られたとは考えにくく、水銀などの重金属の年間総排出量の記載がない点も問題である。排煙処理を行ったとしても石炭に含まれる水銀の3割程度は大気中に放出されるため、計画段階から評価することが必要である。

6.既存の発電所との比較及び合理化ガイドラインについて

 準備書では既設の6基とガスタービン稼動時を「既設稼働時(現状)」と記して新設する2基を比較している。しかし既存の設備のうち1、2、5、6 号機は2001年から長期計画停止となり、2002年に7、8号機、2010年には3、4号機が停止し、その後東日本大震災時に一部が運転を再開したものの2014年4月以降再び全基とも稼働していない。このような状況にも関わらず、全基が稼働した状態を「現状」とするのは、大気汚染物質などの排出を低減するような印象を与え、事実を著しく誤認させるものである。事業者は、準備書内の比較表などにおいても現状は全基稼働停止している状態であることを明記し、正しい情報提供に努めるべきである。

 また、事業者は本計画を、既存の設備を更新させるリプレースであると位置付けて「火力発電所リプレースに係る環境影響評価手法の合理化ガイドライン」を適用し、環境アセスメント手続きを簡略化しているが、上記のように既存の設備が長らく停止していたことを鑑みれば本計画は新規建設も同然であり、事業者の言い分は受け入れがたい。事業者は、正規の環境アセスメント手続きを踏むべきである。

7.神奈川県知事等意見への対応について

 神奈川県知事は方法書への意見において、石炭を燃料として選択したことなどに対する十分な説明がないことや、環境アセスメント手続きにおける知事意見等に対する事業者の対応を踏まえ、「環境保全上の見地から強く懸念せざるを得ない」と述べている。事業者は知事意見を真摯に受け止め、計画を再考すべきである。

8.バイオマス混焼について

 本計画ではバイオマス混焼が計画されているが、具体的な調達計画についての言及はなく、持続可能性を担保した調達がなされるか不明である。森林伐採や輸送時のCO2につながる懸念もあり、かえってCO2排出増加を招く可能性もあり、また、バイオマスを混焼することによって、大気汚染物質が増加することも考えられるが、こうした評価は一切かかれていないので問題である。

9.石炭灰について

 石炭の燃焼によって排出する石炭灰の全量をセメント原料などに利用する計画とされているが、石炭灰は現在でも処理先がなくなっている状態で、本計画の発電所が稼働する2023年以降のセメント需要はさらに不透明である。また石炭灰に混ざった水銀など有害物質は、そのままセメント原料にするとの説明があり、水銀の移動や拡散につながりかねず大変問題である。

10.情報公開のあり方について

 環境アセスメントにおいて公開される準備書は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。そもそも環境アセスメントは住民とのコミュニケーションツールであり、できるかぎり住民に開かれたものであるべきである。縦覧期間後の閲覧を可能にするほか、縦覧期間中もコピーや印刷を可能にするなど利便性を高めるよう求める。「無断複製等の著作権に関する問題が生じないよう留意する」ことは、ダウンロードや印刷を禁じる理由とはならない。