8月24日、気候ネットワークは、株式会社神戸製鋼所が計画している「神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画 環境影響評価準備書」に対する意見書を提出しました。

神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画 環境影響評価準備書に対する意見書

<気候変動/地球温暖化の観点から>
意見1:石炭を燃料とする問題について
 燃料を石炭にすることは、周辺への大気汚染に加え、CO2の大量排出によって気候変動に甚大な影響を及ぼし、施設の稼働そのものが著しく環境を破壊するものである。また、石炭火力発電は今後、気候変動対策の強化や市場動向の変化、再生可能エネルギーなどの他の電源との競争によって採算が取れなくなり、座礁資産となる可能性が指摘されている。
 2017年1月に関西電力が気候変動対策等を理由に兵庫県赤穂市の火力発電所の燃料を石炭に転換する計画を断念したことを受け、環境大臣がその決定を歓迎し、「石炭火力は将来性に乏しい」として他事業者にも石炭火力発電所建設の再考を促している。さらに2017年8月1日には、中部電力による武豊火力発電所の計画に対して事業の再検討を求めている。こうした状況からも、時代錯誤な石炭を燃料とする大規模な火力発電所を新たに建設することは認められない。

意見2:温室効果ガスの排出源単位について
 気候変動対策の観点から見れば、今後建設される発電所は、少なくともLNG火力は達成している約0.350kg-CO2/kWhの水準を満たすべきであるとともに、たとえLNG火力発電所であっても、建設は慎重に検討が行われる必要がある。ましてや、本計画は大量に温室効果ガスを排出する大規模な石炭火力所である。USCを採用することによってCO2の排出源単位を低減するとしているが、予測される原単位は0.760kg-CO2/kWhとLNGの約2倍にのぼる。さらに「低炭素社会実行計画」で示された「2030年度に排出係数0.37kg-CO/kWh」とする目標に対しても約2倍と大きく上回り、目標の達成を困難にするものである。
 このように本計画における排出原単位は非常に大きく、本計画が稼働すれば、準備書によれば年間約692万tものCO2が30~40年にわたって排出されることとなり、大量のCO2排出を固定化する事業は実施するべきではない。

意見3:「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について
 本計画では運転開始時期を2021年及び2022年とし、30年間に渡って関西電力に電力を供給する計画であり、2050年を超えてCO2排出を固定化させることになる。したがって事業者は長期的な視点でCO2排出削減を検討する必要がある。
 2016年11月、地球の気温上昇を2℃未満にすることを目標とし、今世紀後半にはCO2排出を実質ゼロにすることとしたパリ協定が発効した。本計画では、施設の稼働による温室効果ガス等への環境影響を低減するために環境保全措置を講じるとあるが、研究機関Climate Analyticsによるレポートでは、パリ協定の達成のためには、日本は2030年までに石炭火力発電所を無くす必要があるとされている。実際に、前田建設株式会社が大船渡市に計画していた火力発電所の燃料を石炭からバイオマスに変更すると先般発表したが、その理由として「パリ協定」に言及している。
 また日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。
 このように「パリ協定」の合意に反し、国の目標達成をも危うくする本計画の正当性は認められない。

意見4:低炭素社会実行計画との整合について
 事業者は、売電先である関西電力が電気事業低炭素社会協議会に参加し、「電気事業における低炭素社会実行計画」の目標達成を目指すことをもって、本計画は国のCO2排出削減の目標や計画との整合性があるとしている。しかし、これは自社の事業によるCO2排出の責任を他社に転嫁するものである。そもそも石炭火力発電を行うこと自体が、準備書に記載のある「実行計画実現に寄与できるよう取り組む」ことと反している。

意見5:事業者が記載したCO2総排出量削減策について
 環境影響評価方法書において兵庫県知事は、「二酸化炭素を大量に排出する施設の設置者として(中略)、総排出量の削減方策について、自ら行うものに売電先の対策を加えて定量的に明らかにすること」を求めている。これに対し、準備書p426において事業者の見解が示されているが、事業者の取組みとしては導入予定の発電プラントがUSCであることを述べているだけで、削減策は実質的に何も示していない。また、本準備書の審査の一環で2017年8月8日に開催された第157回神戸市環境影響評価審査会において、事業者は準備書p426に該当する内容を図示したものを「温室効果ガスへの対応について」として提出(審査会資料6)しているが、そこで示された「施設稼働に伴う増加分の削減策」も自社分の削減策は鉄鋼事業部門の上工程集約を示したのみで、単なる数字合わせにすぎない。
 事業者が、売電先(関西戦力)の対策として提示したものにも問題がある。LNG・重油を燃料とする既設設備の稼動抑制は、その分の発電をCO2排出原単位が高い石炭火力によって代替するに他ならず、同じ発電量であったとしても排出が増えることとなる。また、電力需要は減少傾向にあるものの、総需要が増えた場合には、既設火力からの排出が増えてしまう可能性もある。このため、関西電力が発電量に上限を設け、確実に示された数値を達成する保証をしなければ、実現性の極めて低い対策である。加えて、関西電力の再生可能エネルギー増加を全国平均の再エネ比率増から算出しているのも適切ではない。これは、兵庫県知事ならびに市民に誤解を与えるもので、極めて身勝手な説明である。このような積算を行う事業者の見識を疑うと共に「総排出量の増加がない」という事業者の説明は成り立たない。
 なお、事業者は上述の審査会において「関西電力の火力発電所老朽化に伴うリプレース計画の一環である」という認識を示した。であるならば、買い手である関西電力を伴って社会に説明をするべきである。こうした責任逃れの発言は、兵庫県知事・神戸市長意見ならびに市民に対して誠意ある対応とは言えない。発電所を建設・管理する事業者は、説明責任を果たす義務を負っており、改善することを強く求める。

<大気環境の観点から>
意見 6 :発電所の立地と大気汚染について
 準備書によれば、発電所の建設地周辺には、保育園・幼稚園・こども園が122箇所、小中学校が65箇所、医療施設や高齢者福祉施設が723箇所も存在し、さらに最寄りの住宅地からはわずか400mしか離れていない。この極めて特異な立地条件にあることは、既設の140万kWの発電所建設時から再三に渡って市民から懸念の声が示されている。このような場所であらたに130万kWの事業を行うことは、地元有力企業であるにも関わらず、環境改善を求める声を無視する行為である。かつての大気汚染地域において、大規模汚染源を追加すること自体、立地上の問題があり、事業を中止すべきである。

意見7 :大気汚染の評価方法について
 高炉を休止することにより、周辺における大気環境への影響は低減されると評価・説明している。しかし、これは高炉の稼働が含まれた値をバックグラウンド濃度と設定して算出した結果である。本来であれば、現状の高炉と発電所の運転による影響を含んだ値から、高炉休止を差し引いた値を設定した上で寄与度を算定しなければ、新設計画における環境影響、寄与は明らかにされないと考えられる。このことから、バックグラウンド濃度の算定をあらためた上で、評価をやり直すことを求める。
 また予測評価地点が一般局しかないが、自排局を含めて評価すべきである。国道43号線沿いに居住する市民も少なくないことから、地域の事情を踏まえ、自排局も含めて予測・評価すべきである。

意見8:大気汚染物質の増減の評価について
 事業者は、本準備書で、高炉を休止することで発電所を新設しても大気汚染物質の排出は減少すると記載し、さらに説明会でも同様の説明を行った。その際、市民の側からの、大気汚染物質の濃度ではなく「総量」を示すように求める声に対し、環境濃度が環境基準を超えないので問題ないと回答した。
 しかし、事業者が神戸市に提出した「環境保全協定報告書H27年度」を基にNOX、SOX、ばいじんの排出量を推計した数値は下記になる。

現状 *は推計値本計画実施後  *は推計値
NOX1,316t
 神戸製鋼所*         306t
 神戸発電所*       1,010t
 神戸製鉄所火力発電所    -
2,216t
 神戸製鋼所<廃止>    0t
 神戸発電所*         1,010t
 神戸製鉄所火力発電所*   1,206t
SO485t
 神戸製鋼所*    97t
 神戸発電所*   388t
 神戸製鉄所火力発電所    -
1,417t
 神戸製鋼所<廃止>  0t
 神戸発電所*        388t
 神戸製鉄所火力発電所*   1,029t
ばいじん54t
 神戸製鋼所*    3t
 神戸発電所*   51t
 神戸製鉄所火力発電所    -
158t
 神戸製鋼所<廃止> 0t
 神戸発電所*         51t
 神戸製鉄所火力発電所*   147t

 上記の推計では、仮に高炉が休止されたとしても、新設される発電所によってNOXの排出量は1,000t、SOXは900t、ばいじん100t程度の増加する恐れがある。これでは、大気汚染は改善されるどころか悪化する可能性がある。市民を誤信させる恐れがあることから、準備書には大きな欠陥があると言わざるをえない。このことから、仮に本計画を継続する場合は、準備書手続きをやり直し、説明会等を開催し市民に説明すべきである。

意見9:適用されるべきNO2環境基準値の値
 準備書p750第12.1.1.1-77表は環境基準の年平均相当値として0.030ppmを用いており、同表注3の関係式によれば、上記相当値は、環境基準の上限・日平均98%値0.06ppmを適用した値であると考えられる。
 しかし、環境基準告示(昭53環告38)は、「二酸化窒素について、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域にあっては、原則としてこのゾーン内において現状程度の水準を維持し、又はこれを大きく上回ることとならないよう努めるものとする」と規定されている(現状非悪化の原則)。事業予定地域付近では、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にある地域が広がっている。このような地域において新たに建設される巨大汚染源の汚染影響を評価するものであり、環境基準の下限日平均98%値0.04ppm(注3関係式によれば、年平均相当値は0.019ppmとなる)に照らした評価をするべきである。準備書p750に示されているように、事業予定地に近い灘浜局のNO2のバックグラウンド濃度は、この基準を既に超えている。そうすると、環境基準告示に照らして事業者は調査・予測・評価しなければならない。NO2の環境基準を、1時間値の1日平均値0.06ppmと定めて環境影響評価を行った本準備書は、不十分な評価となっている。
 ゾーン内における新たな大規模発生源の建設に対してまで、NO2環境基準の上限を適用するのであれば、上限までの汚染を許容することとなり、大気汚染の改善を遅らせてしまうことになる。現状非悪化の原則に照らして考える必要があることから、現状よりも悪化させる恐れがある本計画については事業の見直しが必要である。
 事業実施地域は自動車NOX・PM法の指定地域となっており、総量規制のもとで削減努力を積み重ねてきた地域である。しかし、新設される発電所の稼働によってNOXの総量は増加すると推定され、自動車排ガス対策による効果を全て打ち消すという大きなマイナス効果がもたらされる可能性がある。これは自動車部門における削減努力にタダ乗りすることになるもので、看過できない。
 この他、光化学オキシダントとPM2.5については環境基準が未達成であるにもかかわらず予測や評価がされていないことから、周辺大気環境への影響を考慮すると、本計画は立地上の瑕疵がある。
 以上の事由から、計画を根本から見直すことを強く求める。

<水環境の観点から>
意見10:排水処理設備の発生汚泥や排水について
 準備書においては、排水処理設備がどのような方式なのか、特に水銀等の処理について、説明が不十分である。周辺沿岸域は市民が釣りを楽しむ場でもあり、釣った魚を食べる機会も多いことから、十分な説明・検証が必要であると考える。具体的には次の2点の説明を要求する。
① 脱硫装置の排水は総合排水処理設備で処理されると思われることから、排水及び汚泥に含まれる水銀等重金属類の濃度と量を明らかにすること
② 処理設備出口直後での水質管理項目と評価基準値を示すこと

意見11:温排水の環境への影響について
 既設発電所を合わせると、温排水の量は膨大なものになる。準備書において125m3/秒とされているが、淀川の平水流量193m3/秒の3分の2に相当する規模となる。そのような大量の温排水を閉鎖性の高い海域に大量に放流することになる。
 また、拡散予測に基づく18.1k㎡という範囲の信憑性についてモデルの妥当性が検証されておらず、不十分である。仮に事業者の示す範囲であったとしても、水質や水生生物に与える影響が検証されるべきであり、影響が少ないと評価することは妥当ではないと考える。
p1016の図によると、表層水の温度が広範囲にわたって3℃上昇し、六甲アイランド南岸まで到達するとされている。3℃海水温が上昇することで生態系が変わり、市民のレクリエーションの場が失われる可能性があり、さらなる検証が必要である。

意見12:3次元モデルの検証結果について
 環境影響評価方法書において兵庫県知事意見は、水質について「施設の稼動に伴う排水(温排水)について、(中略)生態系を考慮した3次元モデルによる流動・水質シミュレーション解析を実施し、この結果を検証のうえ水温を含めた水質に関する予測及び評価を適切に行うこと」を求めているが、事業者は検証を行ったとは記載しているものの準備書には3次元による評価については記載しておらず、「本計画の実施による環境への影響はほとんどないことを確認しております。」と記載しているのみである。検証結果は、市民を含む第三者が確認できるようにすることが必要であり、説明が不十分である。

<その他>
意見13:情報公開のあり方について
 環境アセスメントにおいて公開される準備書は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。そもそも環境アセスメントは住民とのコミュニケーションツールであり、できるかぎり住民に開かれたものであるべきである。縦覧期間後の閲覧を可能にするほか、縦覧期間中もコピーや印刷を可能にするなど利便性を高めるよう求める。「無断複製等の著作権に関する問題が生じないよう留意する」ことは、ダウンロードや印刷を禁じる理由とはならない。

意見14:提出データの検証について
 事業者による工場の環境データ改ざん事件が2006年に明らかになっていることを踏まえると、事業者は公開データに不正がないことを第三者にチェックさせた上で公表する体制を整え、発電所稼働中にその運用に責任をもつべきである。チェックは、事業者の不正行為の前歴があることを踏まえた、万全の体制とする必要がある。また、この過去の経緯から、事業者が行う環境影響評価は中立的な機関に委託するのが望ましいと言える。しかし、p1473に記載されている環境影響評価を委託した事業者の名称などによると、自社の関連会社や、電力の売り先である関西電力の関連会社に調査を委託している。これでは、事業者の社会的信用度からすると信頼を得ることは難しく、本準備書の第三者機関による検証が必要であると考える。準備書手続きのやり直しを強く求める。

意見書

神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画 環境影響評価準備書に対する意見書

関連図書

神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置に係る環境影響評価準備書の届出・送付及び縦覧・説明会について