気候ネットワークは排出量取引に関するパブリックコメント「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律施行規則及び脱炭素成長型経済構造移行推進機構の財務及び会計に関する省令の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募」に対し意見を提出しました。
今回の意見募集のように、日本のエネルギー政策の根幹に係る重要な7つもの省令や告示を一括で対象として意見募集を行うことは、個々の内容の理解に注力することを妨げ、論議の機会を削ぐものです。これらの対象案の中から2026年から義務化される排出量取引制度(以下、GX-ETSという)に関する法令案に対し、気候ネットワークが提出した意見と理由を以下に記します。
▼パブリックコメントはこちら(〆切:2月14日23時59分)
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595126002&Mode=0
▼対象の案はこちら
- GX推進法施行規則等を改正する省令等の一部を改正する省令
- GX推進法第三十二条第二項第四号イの主務省令で定める事業分野等に関する命令
- 実施指針
- 特別な配慮を必要とする者として輸送区分ごとに経済産業大臣及び国土交通大臣が定める者を定める告示
- 旅客輸送密度及び旅客営業キロの算定に関し必要な事項を定める告示
- GX推進法の規定に基づき参考上限取引価格及び調整基準取引価格を定める告示
- 脱炭素成長型経済構造移行推進機構金融支援業務に関する支援基準の一部を改正する告示
パブリックコメントの実施方法および制度決定プロセスについて
- 省令や告示の文章をパブコメにかけるのではなく、制度の基本的な考え方や選択肢を示し、国民的議論と十分な意見募集を経てとりまとめるべきである。
<理由>
今回のパブリックコメントは、2025年12月19日に示された排出量取引制度に関する「とりまとめ」を前提として、その内容を省令、実施指針および複数の告示という形に落とし込んだ文案について意見を求めるものである。しかし、本来、排出量取引制度(ETS)のように、日本のエネルギー政策および産業構造に長期的かつ重大な影響を及ぼす制度については、省令・告示等の具体的な文案が作成される前段階において、制度の基本的な考え方、選択肢、影響について国民的議論を行い、その上で意見募集を経て制度設計を行うべきである。
とりわけ本制度は、排出総量(キャップ)の考え方、削減率の設定、有償割当の時期と割合、価格調整措置、移行計画の位置づけなど、多くの論点について複数の政策上の選択肢があり得るにもかかわらず、それらの是非について十分な説明や比較検討がなされないまま、「とりまとめ」として事実上の政策方針が確定されている。その後に行われている今回の意見募集は、すでに方向性が固定された内容を、読みにくく専門的な条文や告示案の形で提示するものにとどまっている。
このような最終段階において、一般市民に対し、省令・告示の条文形式で意見を求めることは、制度の是非や基本設計そのものについて実質的な意見表明を行うことを困難にし、パブリックコメント制度本来の目的である「政策形成過程への国民参加」や「行政の説明責任」を十分に果たしているとは言い難い。
排出量取引制度は、企業行動のみならず、電力価格や産業構造、地域経済にも影響を及ぼす公共性の極めて高い制度である。したがって、今後の制度設計および見直しにあたっては、今回のような形式的な意見募集にとどまることなく、制度の基本的な考え方や選択肢を分かりやすく示した上で、国民的議論と十分な意見募集を経て決定されるプロセスを確保すべきである。
排出総量(キャップ)と国の削減目標(NDC)について
- GX-ETSに対しては日本の2030年の排出削減目標および、その後の国の削減目標(NDC)の達成に資する排出総量(キャップ)が設定されるべきである。
<理由>
GX-ETS制度は、国際的な排出量取引制度の前提である排出総量(キャップ)が設定されていないという、致命的な問題を抱えている。キャップが存在しない制度では、排出総量の管理ができず、排出削減の確実性を担保することはできない。この点で、本制度は国際標準のETSとは本質的に異なり、排出削減のための制度としての実効性が大きく制約されている。制度開始の段階から削減目標と整合するキャップを設定すべきである。
GX-ETS対象事業者の排出枠の割当について
(対象の案:実施指針別表第1(第5条関係))
- GX-ETSの対象事業者の排出枠の割当の根拠となる排出目標量の設定については本来、策定議論の前提となる情報を公開した上で再検討されるべきである。
- ベンチマーク対象業種の排出目標量は省エネ法ベンチマーク制度における、累積活動量上位15%の事業者の排出原単位を基準に設定されるべきであり、グランドファザリング方式の削減率(5年間で8.5%)を上限として設定することは見直されるべきである。
<理由>
本来、GX-ETS対象事業者の排出目標量の設定に際しては、省エネ法ベンチマーク制度の基準である、累積活動量上位15%の事業者の排出原単位が用いられるべきである。しかし本制度の制度設計において、排出量取引制度小委員会は、累積活動量上位50%(平均)との乖離が大きい業種が存在することを理由に、2030年までは上位15%と50%の中間である「累積活動量上位32.5%」を採用した。この事自体も問題であるが、同小委員会の議論において累積活動量上位32.5%を採用した場合の業種別削減率は、今日に至るまで公表されていない。
本来のベンチマーク方式は業種間の排出原単位の差を踏まえ、より高い削減率を設定する仕組みである。しかし同小委員会は、「公平性」を理由に、石油からガスへの燃料転換に10年を要するという、省エネによる削減を全く考慮しない前提の元に設定されたグランドファザリング対象業種の削減率(年率1.7%、5年間で8.5%)を上限として設定した。その結果、本来累積活動量上位32.5%を採用した場合でも8.5%以上の削減率が求められる業種の削減義務が緩和されることになる。
このような議論の前提となるべき基礎的な情報を公開せずに議論され、誤った前提の元に設定されたGX-ETS対象事業者の削減率上限(5年間で8.5%)は見直されるべきである。
特にその影響が大きい業種については、各割当年度において当該特定事業活動の目指すべき排出原単位の水準は以下のとおりとすべきである。
(t-CO2/t-製品)
| 特定事業活動 | FY2026 | FY2027 | FY2028 | FY2029 | FY2030 |
| 洋紙製造業 (第2条第2項第1号) | 0.8364 | 0.7498 | 0.6632 | 0.5766 | 0.4900 |
| ソーダ工業 (第2条第2項第3号) | 1.4771 | 1.3203 | 1.1636 | 1.0068 | 0.8500 |
| 有機化学工業製品製造業(第2条第2項第5号) | 0.05931 | 0.05732 | 0.05533 | 0.05334 | 0.05135 |
| 石灰製造業(第2条第2条第11号) | 0.2044 | 0.1838 | 0.1632 | 0.1426 | 0.1220 |
| 製鉄業(第2条第2項第17号) | 0.06698 | 0.06331 | 0.05964 | 0.05597 | 0.05230 |
発電部門の排出枠の割当について
(対象の案:実施指針別表第1(第5条関係))
- 発電部門のベンチマークについては、第6次エネルギー基本計画で示された2030年の全電源平均排出係数0.25 kg-CO₂/kWhを採用すべきである。
- 2026年の第2フェーズ開始時点から、発電ベンチマーク水準の20%は全電源ベンチマーク水準とし、2030年には全電源ベンチマーク100%で値を電力業界が目標としている排出係数0.25 kg-CO₂/kWhとすべきである。
<理由>
本制度案では発電部門のベンチマークについては、2028年度までは燃料種別に上位32.5%の排出係数を用いるとし、2029年度は排出枠の20%分を全火力平均の排出係数で、2030年度は40%分を同全火力平均の排出係数で計上し、2030年度においても再エネを含む全電源でなく「火力発電」の排出係数を基準とすることとしている。これでは、石炭火力の退場を迫るどころか、経済産業省が決定した非効率石炭火力の2030年休廃止の実現を図る削減目標の達成すらできない。LNGに至っては約2割の増加が容認されるものとなっている。
発電部門のベンチマークについては、2026年度の第2フェーズ開始時点から、発電ベンチマーク水準の20%を全電源ベンチマーク水準とし、2030年度には「全電源ベンチマーク100%(0.25 kg-CO₂/kWh)」とすべきである。全電源ベンチマーク100%(0.25 kg-CO₂/kWh)は2013年の「東京電力の火力電源入札に関する局長級会議取りまとめ」の趣旨に基づき、2021年10月の第6次エネルギー基本計画の閣議決定を受けて、2022年6月に電気事業者低炭素社会協議会が2030年の全電源平均の排出係数として自ら定めた目標である。第6次エネルギー基本計画時点で設定されていたベンチマーク水準を、本制度案のような水準を採用することでなし崩しにすることは許されない。
本制度案では発電部門のベンチマークとして8区分で示されているが、いずれも問題がある。石炭火力については、経済産業省の政策で廃止方針を示している非効率石炭火力、すなわち亜臨界圧、超臨界圧、加圧流動層式には排出枠を配分すべきではない。算定式は、「第3欄に掲げる割当年度における当該特定事業活動の目指すべき水準に、超々臨界圧とIGCCの発電所排出量合計を当該区分の合計排出量で除したものをかけ、当該年度における当該特定事業活動の基準活動量を乗じて得た量」とすべきである。2030年については先に述べたように第6次エネルギー基本計画の電力排出係数目標(全電源原単位)をGX-ETSでも用いるべきである。LNG火力については、先に述べたように第6次エネルギー基本計画の電力排出係数目標(全電源原単位)をGX-ETSでも用いるべきである。
沖縄については再生可能エネルギーのポテンシャルに恵まれ、速やかに再エネへの移行が可能であることから、火力の縮小、順次廃止が可能である。沖縄の地理的特性を理由としての火力事業への配慮は再エネ移行の妨げとなることから行うべきではない。沖縄の石炭火力、LNG火力については、日本の他の地域と同様の目標が用いられるべきである。
よって発電事業における各年度の CO₂ 原単位の目指すべき水準は以下のとおりとすべきである。
(kg-CO₂/kWh)
| 発電事業 | FY2026 | FY2027 | FY2028 | FY2029 | FY2030 |
| 石炭 | 0.6991 | 0.5868 | 0.4746 | 0.3623 | 0.2500 |
| LNG | 0.3587 | 0.3315 | 0.3044 | 0.2772 | 0.2500 |
| 石炭(沖縄) | 0.6991 | 0.5868 | 0.4746 | 0.3623 | 0.2500 |
| LNG(沖縄) | 0.3587 | 0.3315 | 0.3044 | 0.2772 | 0.2500 |
グランドファザリング対象業種の排出枠の割当について
(対象の案:実施指針別表第2(第5条関係))
- グランドファザリング対象業種については、省エネを想定せず、燃料転換を10年もかけて行う前提となっている。しかし、省エネ法ではGX-ETSの対象となる事業者よりも排出規模の小さい事業者や事業所にも省エネ、すなわち年1%のエネルギー効率改善を求めており、それよりも排出規模の大きな事業者に求めないことは合理的ではない。
- 燃料転換は従来の経済産業省による自主的取組に依存した対策の元では進捗が遅かった。今回義務化をすることで対策を加速できると考えられることから、5年で達成するものとして以下の基準年排出量に対する指数を目指すべき水準として排出枠を配分するべきである。
| FY2026 | FY2027 | FY2028 | FY2029 | FY2030 | |
| エネルギー起源CO₂ | 0.9578 | 0.9157 | 0.8736 | 0.8315 | 0.7893 |
グランドファザリング対象業種の早期対策について
(対象の案:実施指針別表2(備考)➃⑤⑥)
- グランドファザリング対象業種の早期対策は、生産量点検をせずに追加排出枠配分を試みるもので、生産減自然減と区別することが不可能であることから削除すべきである。
グランドファザリング対象業種のリーケージ対策について
(対象の案:実施指針第6条)
- 第6条はリーケージ(事業者の国外移転)対策として行われているものであるが、排出枠を水増しし、対策をせず高い光熱費支払いを維持することは国際競争力向上に逆行するので削除されるべきである。
排出枠の有償割当について
(対象の案:実施指針第5条、第7条)
- 発電事業者については2033年を待たずに有償割当を導入し、2030年には10%以上、2033年には50%以上を有償割当とすべきである。
- 生産変動(第5条)、研究開発(第7条)などの「配慮事項」による排出枠の追加割当ては原則行うべきではない。
- バンキング(排出枠の繰越)(第5条)には制限を設けるべきである。
<理由>
排出枠の有償割当の早期導入は、国内での炭素価格形成を促し、企業の脱炭素投資を後押しすることで、国際的な規制環境に適応する力を高める。発電部門は日本全体の排出量の約4割を占め、最速・最優先で脱炭素化すべき部門である。しかし現行案では、発電事業者への有償割当が2033年以降とされており、石炭火力の利用抑制に必要な価格シグナルが2030年まで十分に働かない。2030年時点で少なくとも10%以上の有償割当を導入し、2033年には50%以上とすることが必要である。これにより、石炭火力の稼働抑制と再エネ投資の加速が現実的に可能となる。
また、本制度では、生産変動、カーボンリーケージ対策、研究開発などの「配慮事項」による追加割当が予定されている。本制度案では、カーボンリーケージ対策だけでも「対象事業者排出量の2〜3%」の追加枠を想定している。しかし、このような追加割当が行われれば、実質的に排出削減がゼロ、あるいは排出枠が2023年度よりも増加する可能性すらあり、EU-ETSや韓国ETSで経験したような過剰な排出枠の割当となる可能性がある。しかも、バンキング(排出枠の繰越)に制限がないため、余剰の支出枠が大量に市場に滞留し、価格低迷と制度の歪みを招くリスクが高い。
参考上限取引価格・調整基準取引価格について
(対象の案:GX推進法の規定に基づき参考上限取引価格及び調整基準取引価格を定める告示第二条)
- 参考上限取引価格(上限価格)および調整基準取引価格(下限価格)を引き上げるべきである。
<理由>
排出枠取引市場の上下限価格については、2026年度の参考上限取引価格が4,300円、調整基準取引価格(下限価格)が1,700円と設定された。この上下限価格については非公開の委員会(排出量取引制度小委員会第7回)での議論で決定されており、決定プロセスの透明性が著しく欠如している。本パブリックコメントはこの委員会で提示されたの議事録を公開した上で募集されるべきである。
これらの価格は、韓国や中国など近隣諸国の低い炭素価格を参照したものと考えられるが、炭素価格の低さを見直そうとしている韓国の制度改善の取り組みは反映されていない。10年遅れて開始する本制度が問題を指摘されている先例に追従するのを避けるためにも、排出枠の上下限価格は引き上げられるべきである。このような低価格では、脱炭素投資を促す経済的インセンティブとして機能しない。
上限価格については、非公開で行われた委員会の事務局作成資料3において、石炭から天然ガスへの燃料転換コストの水準を踏まえて決定とある。しかし燃料転換の対象として想定されているのは発電効率40%の非効率石炭火力から、発電効率54.9%の高効率LNG火力への転換という、これ以上ないほど転換コストが低くなるものが選ばれている。このような事例のみを参照して、上限価格を設定するのは不適切である。工場における燃料の石炭からLNGへの転換、石炭火力から同程度の発電効率のLNG火力への転換、自家用蒸気の石炭からLNGガスへの転換等の事例を考えれば、最低でも13,000円/t-CO2とすべきである。
下限価格についてはJ-クレジットの現行価格よりも低く、国際的な炭素価格と比較しても極めて低水準であり引き上げられるべきである。
移行計画について
(対象の案:GX推進法第三十二条第二項第四号イの主務省令で定める事業分野等に関する命令)
- 移行計画における設備投資計画・実績、①実施する削減対策、②対象となる工場等、③実施時期、④脱炭素効果(t-CO₂/年)は公開とされるべきである。
<理由>
排出量取引制度は排出量を金銭的価値に変換する制度であることを踏まえれば、排出実績に関する正確なデータの提出とその検証は不可欠である。しかし、必要な情報が非公開とされているため、第三者による実効性の検証が不可能となり、グリーンウォッシュを助長する懸念が大きい。制度の信頼性を担保するためには、透明性を高め、詳細な情報を公開すべきである。
参考
- 日本版排出量取引制度の制度設計にあたっての提言(2025年8月18日)
- 日本版排出量取引制度の制度設計にあたっての提言2(2025年11月5日)
- 日本版排出量取引制度の制度設計にあたっての提言3 (2025年12月30日)
- 日本版排出量取引制度の検証(2026年1月15日)
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