気候ネットワークは、株式会社JERAによる袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画に係る 計画段階環境配慮書に対し、意見書を提出しました。

資料閲覧や意見提出は以下リンク先へアクセスしてください(意見書の提出方法は郵送/提出期限は2025年12月5日消印有効)
(仮称)袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画 環境影響評価手続きについて

この計画の概要

  • 袖ケ浦火力発電所の既設1~4号機を段階的に廃止・撤去し、新たに最新の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備3基(新1~3号機)を設置する。
  • 運転開始時期は以下の通り
    • 新1号機:2032年
    • 新2号機:2033年
    • 新3号機:2041年
  • 水素・アンモニアの導入と段階的な転換、CCSやCCUS等の活用を検討するとしている。

【意見①】LNG火力発電所のリプレース(新規建設)に反対。気候科学の観点からみれば、地球温暖化を1.5℃の範囲に収めるためには、化石燃料インフラの新規建設の余地はない。

LNG火力は、再エネ100%を目指す過程での経過措置として一定数の既設の発電所が役割を果たしますが、新規建設を進めるべきではなく、段階的廃止を目指すべきです。

IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書(2022年4月公開)は、既存の化石燃料インフラが(2018年から)耐用期間終了までに排出する累積のCO₂総排出量を6,600億トン(報告書作成時点で計画されている化石燃料インフラからの累積総排出量を加えると8,500億トン)と予測しています。これは、同報告書において地球温暖化を50%の確率で1.5℃に抑えるための限度として示されたCO₂の累積総排出量である5,000億トンを既に大きく上回っています。つまり科学的な観点から見れば、既存の化石燃料インフラであっても耐用期間の終了を待たずに廃止する必要があり、ましてや新設の余地は残されていません。  

本計画では、最新の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備を設置するとしていますが、LNG火力である以上、それでも膨大な量の二酸化炭素を排出します。また、LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度とされており、これは国際エネルギー機関(IEA)が2023年9月に「Net Zero Roadmap」【注】で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.186kg-CO2/kWhと比べ約2倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかです。

【注】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

【意見②】化石燃料インフラの新設はG7合意など国際合意と矛盾する

2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。

また、IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃目標に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されています。 

本計画では、最新の高効率ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備を設置するとしていますが、LNG火力である以上、それでも膨大な量の二酸化炭素を排出します。また、LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度とされており、これは国際エネルギー機関(IEA)が2023年9月に「Net Zero Roadmap」【注】で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.186kg-CO2/kWhと比べ約2倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかです。

袖ケ浦火力発電所の新1号機が2032年、新2号機が2033年、新3号機が2041年に運転開始した場合、LNG火力発電所の運用年数を40年とすると、2050年を超えて大量のCO₂を排出することになるため、新1~3号機の建設は1.5℃目標やG7合意などの国際合意と矛盾することになります。

【注】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

【意見③】LNG火力インフラはライフサイクルで石炭火力よりも多くの温室効果ガスを排出する可能性がある

LNG火力は、石炭火力と比べれば燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、カーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されがちですが、ライフサイクルで見ると、LNG火力インフラからの温室効果ガス漏出量は石炭火力よりも多い可能性を指摘する研究結果が示されています。

天然ガスの主成分はメタンであり、二酸化炭素の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスです。「Environmental Research Letters」誌に掲載された論文【注1】によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性があります。また、2024年に「Energy Science & Engineering」誌に掲載された別の研究【注2】は、LNGは掘削作業によるメタン漏れが推定をはるかに上回っていることや、パイプラインによる輸送時の排出、液化・タンカーによる輸送を含めれば石炭よりもはるかに大きなエネルギーを要することなどを指摘し、20年間の温室効果ガス排出量を比較するとLNGが石炭よりも33%も大きいと明らかにしています。

こうした研究の指摘を考慮すれば、LNG火力の利用が地球温暖化対策になるとみなすことはできません。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおける環境破壊や人権侵害が大きな問題となっているだけでなく、脱化石燃料への動きも高まっています。 2030年以降に新規のLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、LNG火力はカーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主な要因の一つであることを忘れてはいけません。

【注1】Deborah Gordon et al [2023], “Evaluating net life-cycle greenhouse gas emissions intensities from gas and coal at varying methane leakage rates,” Environmental Research Letters, Volume 18, Number 8. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ace3db 
【注2】Howarth RW. [2024] “The greenhouse gas footprint of liquefied natural gas (LNG) exported from the United States,” Energy Sci Eng, Volume12, Issue1112: 4843-4859.
https://scijournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ese3.1934

【意見④】不確実で合理性のない水素・アンモニア燃料の導入やCCS・CCUSの活用を前提に、化石燃料インフラに投資すべきではない

本計画では、「脱炭素技術の着実な進展と経済合理性並びに政策との整合性及びその実現下における事業環境を前提に水素・アンモニアの導入と段階的な転換、CCSやCCUS等の活用を進めていくための課題について検討を進めていく」[配慮書p.19]としていますが、発電における水素・アンモニアの利用は、気候変動対策の面でも発電コストの面でも望ましくありません。

袖ケ浦火力発電所で将来の利用を想定しているのは水素燃料だと考えられますが、現状では商用発電に利用可能な水素のほとんどは、化石燃料から生成する「グレー水素」であり、水素の製造時や輸送時の温室効果ガス排出量まで含めて考慮すれば、地球温暖化対策として有効に機能するとは言えません。水素燃料は、どのように作られたのかまで含めたライフサイクル全体での削減効果について定量的に評価することができなければなりません。さらに、大規模火力発電所の需要を賄える量の水素燃料を供給できる見通しは立っていません。

再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造すれば、その水素は理論上、CO2を排出しない「グリーン水素」燃料と言うことができますが、これが実現できるのは再生可能エネルギーによる電力が有り余っていることが前提となります。それだけの量の再生可能エネルギーがあれば、それを直接、電力として利用した方が高効率で低コストであり、わざわざ水素に変換して発電に用いる合理性はありません。

水素燃料は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされています。 2023年のG7広島サミットにおいても、水素・アンモニアの利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではありません。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘しています【注1】。

また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されています。一方で、水素やCCS・CCUSは実証段階であり、削減貢献度は低いとされています【注2】。

貴社は水素・アンモニアの導入と段階的な転換、CCSやCCUS等の活用について、「脱炭素技術の着実な進展と経済合理性並びに政策との整合性及びその実現下における事業環境を前提」に検討すると述べていますが[配慮書p.19]、これは現時点で本発電所の脱炭素化に関する具体的な計画が存在しないことを自ら認めているに等しいのではないでしょうか。技術の実現や経済合理性等の条件が整わなかった場合の想定リスク・代替策が言及されておらず、化石燃料利用による運転が長期化する可能性を含めて説明責任が果たされていません。

貴社が行おうとしているのは、「新規LNG火力発電所の建設」という、後戻りできない化石燃料への巨額投資であり、不確実な未来技術への期待を根拠に、確実なCO₂排出源を固定化(ロックイン)する行為は無責任であると考えます。

【注1】IRENA “Geopolitics of the Energy Transformation: The Hydrogen Factor” (2022 年1月) https://www.irena.org/publications/2022/Jan/Geopolitics-of-the-Energy-Transformation-Hydrogen
【注2】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

【意見⑤】計画段階環境配慮事項の項目に温室効果ガスの排出を含めるべき

計画段階環境配慮事項の項目[配慮書p.236]に、二酸化炭素等の温室効果ガスを含めるべきです。

気候変動による被害が激甚化するなか、世界はパリ協定とグラスゴー合意の下で、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑えることを目指しています。そのためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を2050年に実質ゼロにするだけでなく、2030年までに半減させなければなりません。IPCC第6次評価報告書によれば、1.5℃目標達成までの残余のカーボンバジェットは限られており、残された選択肢や時間はわずかであることが明らかになっています。一方で、国連環境計画(UNEP)が2024年10月に公表した「排出ギャップ報告書2024」【注1】では、世界の温室効果ガス排出量は増加し続けており、現在のような排出が続けば、今世紀中に地球の平均気温は最大3.1℃上昇する可能性が指摘されています。

こうした危機的な現状において、個別の発電所が排出する温室効果ガスは、気候変動の加速、さらには人々の生活環境に対し多大な影響があると考えるべきです。最新式のガスコンバインドサイクルであっても1.5℃目標に整合する二酸化炭素排出係数の約2.5倍の排出があり(IEAが報告書【注2】で示した1.5℃シナリオで求める2030年の排出係数は0.186kg-CO2/kWhだが、LNG火力の排出係数はガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度)、LNG火力インフラのライフサイクルを考慮すると石炭火力よりも多くの二酸化炭素を排出する可能性も示されています。本計画の実施による二酸化炭素等の温室効果ガス排出量やその影響は配慮事項に含まれるべきであり、二酸化炭素の排出係数すら示されていないことは問題です。 

また、「脱炭素技術の着実な進展と経済合理性並びに政策との整合性及びその実現下における事業環境を前提に水素・アンモニアの導入と段階的な転換、CCSやCCUS等の活用を進めていくための課題について検討を進めていく」[配慮書p.19]と記載していることを踏まえ、水素・アンモニア燃料の導入開始時期や、導入後の推定温室効果ガス排出量、さらにCCS・CCUSの運用開始時期や推定の二酸化炭素回収量・貯留量を公開すべきです。

【注1】UNEP “Emissions Gap Report 2024” (2024年10月)https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2024
【注2】IEA “Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach”(2023年9月)https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-c-goal-in-reach

【意見⑥】複数案の検討が不十分。再エネを含む複数の燃料種やリプレースを伴わない廃止についても検討すべき。

気候変動対策として化石燃料からの脱却が急務とされている状況下では、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの転換や、リプレースを伴わない既設1~4号機の廃止についても複数案として検討すべきです。

本事業の目的として「将来にわたる電力の持続的な安定供給や環境負荷低減のためには、高経年化を迎えている低効率な発電設備を廃止し、高効率な設備に更新して電源の新陳代謝を図っていく必要がある」[配慮書p.3]と説明されていますが、今後も世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、カーボンプライシング導入のことも鑑みたとき、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想されます。すでに太陽光発電や風力発電の発電コストが火力発電よりも安くなる中、LNG火力で採算をとることは厳しいだけでなく、日本のエネルギーの安定供給や安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には多くの不安要素があります。

また、RE100や気候変動イニシアティブ(JCI)、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)等に加盟する多くの日本企業が、競争力確保のためにも再生可能エネルギーの拡大を要望していることを踏まえれば、化石燃料によって作られた電気の需要は減少し、その経済性は悪化する可能性があります。

よりエネルギー安全保障に寄与し、発電コストが安く需要が高まると考えられる太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの導入を含めた複数案の検討を求めます。

【意見⑦】第7次エネルギー基本計画や日本政府の温室効果ガス削減目標を事業の正当性の根拠とすべきでない

貴社は、「第一種事業の目的」[配慮書p.3-4]において、2025年2月に閣議決定された地球温暖化対策計画や、第7次エネルギー基本計画を紹介したうえで、袖ケ浦火力発電所新1~3号機建設計画が国のエネルギー政策に合致することを、本計画の正当性の根拠として挙げています。

しかしながら、これらの政府目標は、国内外の科学者コミュニティから一貫して「不十分である」と指摘されてきました。国際的な研究機関コンソーシアムであるClimate Action Trackerの報告【注1】によれば、日本がパリ協定の1.5℃目標と整合する排出削減を達成するためには、2013年比で2030年までに66%、2035年までに78%の削減が必要とされています(LULUCF部門の吸収量を除く)。これに対し、日本政府が掲げる2030年度46%、2035年度60%、2040年度73%削減(いずれも2013年度比)の目標は、先進国としての責任を果たすには不十分であり、国際的な水準と比しても野心性を欠いています。

さらに、第7次エネルギー基本計画は2040年時点においても化石燃料への依存を前提としており、IEAの「Net Zero by 2050」シナリオが示す「天然ガスによる発電量を2030年にピークとし、2040年までに90%削減する」という方針【注2】や、G7が合意した「2035年までの電力部門の脱炭素化」とも整合していません。

以上の点から、本事業の根拠とされる国の方針そのものが、1.5℃目標および国際的な科学的要請から乖離しており、これをもって新規LNG火力発電所の建設を正当化することはできないと考えます。

また貴社は、「発電事業者として『エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律』に基づく電力供給業に係るベンチマーク指標を達成していくことで、国のエネルギーミックスと整合を図っていく」[配慮書p.19]と述べていますが、国のエネルギーミックス自体が1.5度目標と不整合である現状において、その達成手段である「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(改正省エネ法)に基づくベンチマーク指標を用いることは、本計画による大量のCO2排出を容認する「隠れ蓑」に過ぎず、事業者による気候変動対策の責任を放棄するものです。改正省エネ法は、水素・アンモニアを非化石エネルギーと位置付けることによって、化石由来のグレー水素・グレーアンモニアを燃料として火力発電の利用を継続させる道を開いており、制度設計上の問題点があります。

【注1】Climate Action Tracker ”As the climate crisis worsens, the warming outlook stagnates” (2024年11月)https://climateactiontracker.org/press/release-as-the-climate-crisis-worsens-warming-outlook-stagnates/ 
【注2】IEA “Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector” (2021年5月)https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050