2024年12月20日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
12月17日、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第67回会合)において、第7次エネルギー基本計画の事務局原案と、2040年度におけるエネルギー需給の⾒通しの参考値が提示された。原案には、経団連が要望していた「わが国の特性を踏まえたベストミックスの追求」「原子力の最大限活用」「トランジション期の火力の活用」「(2035年ではなく)2040年のエネルギーミックス」の提示など、国民的に議論が大きく割れる論点もほぼ全て反映された。現段階では暫定値とされているが、「意見箱」などを通じて示された脱原発や気候変動対策としての科学に基づく国際目標である1.5℃目標との整合を求める市民の声は無視されている。
まず、国際社会が目指す1.5℃目標との整合性とは、IPCC第6次評価報告書統合号報告書において示されたオーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を1.5℃に抑える削減経路との整合性である。その内容は、温室効果ガスについて2019年比2030年43%、2035年60%、2040年69%の削減(CO2ではそれぞれ、48%、65%、80%削減)である。COP28でもこの削減経路の必要性が確認され、G7合意などの前提ともなってきた。これは世界全体であり、先進国日本は衡平の観点からより深堀りが求められている。大きくオーバーシュートする経路も1.5℃と整合する経路だと強弁するRITEのシナリオは論外であるが、審議の過程で増井委員が提起したように、限られたオーバーシュートで1.5℃に抑える場合の残余のカーボンバジェットのうち、日本が排出できる量を検討し、その実現の経路が議論されるべきであるが、そうした議論には踏み込まれなかった。
原案における電源構成は、「エネルギー安定供給と脱炭素を両立する観点から、再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指す(P26)」などが基本的考え方として示され、具体的には電力需要を現状(2023年)の9854億kWh から、1.1〜1.2兆 kWh程度に増加すると見積もり、原発を2030年目標から据え置きの2割程度、再エネ4-5割程度、火力を3-4割程度としている。
再エネは、2040年に最大でも5割程度の導入は「最大限導入」とは言えず、世界が2019年比で2030年までに3倍を目指すとした観点からも外れる。第6次エネルギー基本計画で参考値として2050年の再エネを50~60%とすることが記述されたが、今回、2040年目標を4~5割程度とすることで、これを既定値として固定することも意味している。これまでも再エネ導入拡大には「最優先で」取り組まれてこなかったが、第6次エネルギー基本計画で示された「最優先の原則の下で」との文言が消されたことで、一層、消極的な取り組みとなることが懸念される。
火力では電力需要が1~2割増加するとの見通しのもとに、石炭・LNG・石油の内訳を示さず4割程度とするもので、高コストの水素・アンモニア混焼やCCSがどのように具体的に導入され、2030年目標(石炭19%、LNG20%、石油2%)からどのように排出量が削減されるのかも明らかでない。国際社会から強く求められている石炭火力からの脱却についても「非効率な石炭火力のフェードアウト」をあげるのみであり、石炭火力の廃止には全く言及していない。また、CO2を大量に排出するLNG火力を「LNG専焼火力の新設・リプレース」していくとするもので、国際社会で先進国が目指すべきとされる2035年の電力の脱炭素化の要請からかけ離れたものである。
原子力については、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故をうけて第4次エネルギ―基本計画以来示されてきた「原子力依存の低減」が削除され、原子力を脱炭素電源のひとつと位置づけ、今後のリプレースをより積極的に推進し、「原子力の最大活用」として2040年に2割程度と現状から大きく増やし、既設原発の再稼働、長寿命化に加え、新設を前提としている。福島事故の反省を全くふまえておらず、国民の生命を甚大なリスクに晒す内容だと言わざるをえない。さらに、原子力2割程度はきわめて非現実的な「目標」であり、その不達成分を火力が補う形になることは明らかで、結果的にCO2排出の増大をもたらすこととなる。
また、「次世代エネルギー」として、水素・アンモニアなどコストが非常に高い燃料を積極的に導入する方針を第6次エネルギー基本計画の時以上に強く打ち出し、これまでに制度化してきた水素社会推進法などでの値差支援や拠点整備の事業を活用するとしており、化石燃料からの脱却が容易な電力分野での利用を継承している。また、こうした高コストの火力や原子力の推進のために、事実上再エネが対象外の長期脱炭素電源オークションや、既存の原発や火力を維持温存する容量市場を「着実に運用」するとしている。長期脱炭素オークションや水素社会推進法による価格差補填制度は第6次エネルギー基本計画にはなかったものである。原子力についても、同様に推進策をとっていくことを求める委員の声があることに注意が必要である。
いずれも、第6次エネルギー基本計画において2050年の電源構成の「参考値」として盛り込んだ再エネ比率50~60%とすることを事実上、既定値とし、第6次エネルギー基本計画の決定以降につくられたGX推進基本方針に示された既定路線をさらに強固にしようとするものであり、そこでとられようとする対策も、気候変動対策とグリーン経済に基づく経済成長を目指す観点からはかけ離れている。
さらに、今回の原案提示に至るプロセスは、第7次エネルギー基本計画の議論の開始前に先行的に原子力と火力依存の継続のための経済的支援策を導入し、それらを前提に既定方針を確認するものに過ぎず、事務局原案の最後にある「政策立案プロセスの透明化と双方向的なコミュニケーションの充実」とはかけ離れた結論ありきのプロセスである。今、ようやく審議会の実情に国民の目が注がれ、このことが国民の前に明らかになりつつある。危険な気候変動は国民の生命や生活基盤そのものを脅かすものであり、同時に、日本の経済にかかる問題である。国民的熟議のプロセスを経た上でゼロベースで見直すことを求める。
参考
【意見書】日本のNDC(国別削減目標)のとりまとめに対する意見 ~温室効果ガスの2035年目標は2013年比80%削減に~(2024年12月3日)
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