<プレスリリース>
環境省 石炭火力新設を容認せずとの新方針
アセス中・アセス完了・建設中案件も中止すべき
2019年4月2日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
環境省は28日、「電力部門の低炭素化に向けて~新たな3つのアクション」を発表し、3つのアクション、「1:石炭火力発電からの確実な排出削減に向けて~環境アセスメントの更なる厳格化~」「2:地域での再生可能エネルギーの拡大に向けて~経済産業省との連携チームの立ち上げ~」「3:炭素循環の実現に向けて~CCUSの早期の社会実装に向けた取組の加速化~」を開始する方針を打ち出した。
環境大臣と経済産業大臣は、2016年2月、電力部門対策について、自主的枠組を基本として、省エネ法等の現行施策の実効性を進捗評価するにとどめ、石炭火力発電の新設を事実上容認してきた。他方で、環境省は、2016年以降、毎年「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価」(3月23日発表)を行ってきたが、2018年度の評価において、電力業界の「自主的枠組みの実効性に疑問」があり、現行の「省エネ法ベンチマーク指標に基づく取組の課題が顕在化」しているとして、目標達成の道筋が準備書手続きの過程で明示されていない案件は是認できない(中止を求める)とすることを明らかにしたものである。
原田大臣による上記環境アセスの厳格化の方針は、気候変動対策において最も喫緊の課題である石炭火力発電所のアセス手続きにおいて、今後、環境大臣意見を述べる機会がある石炭火力発電所の新設計画の歯止めとなりうるものであり、その方向性は評価される。しかし、パリ協定の下で先進国の多くが2030年までに石炭火力発電の廃止を決定しているなか、環境省の今回の3つのアクションには脱炭素・再エネ100%に向けての具体的方策がなく、かつ、CCUSにより石炭を消費続けることを容認したもので、課題も多い。
また、今回の対象案件は残り1件(西沖の山2基・山口県)のみとなっており、遅きに失したものである。しかも、2016年合意以前にも、「是認できない」との環境大臣意見が複数回提出されたが、それによって経済産業大臣が建設計画を中止させることはなかった。気候ネットワークがウォッチしてきた2012年以降に計画された50基の新規計画のうち、事業者が自主的に中止した13基(703万kW)を除き、既に、多くの案件が既に稼働、建設中、またはアセス完了の段階に進んでいる。我が国では脱炭素に向けた実効性ある対策がとられてこなかった証左といえる。
今回の環境大臣のアクションを、新規石炭火力発電事業の確実な中止につなげるものとしなければならない。対象案件の建設を確実に中止させるだけでなく、少なくとも下記の案件の設置・稼働を中止させるべきである。
【計画された50基の状況】
状況 |
基数 |
設備容量 |
アセスメントの厳格化の適用 |
運転中 |
12 |
130万kW |
(アセス終了またはアセスなし) |
建設中 |
15 |
858万kW |
(アセス終了またはアセスなし) |
アセス完了(横須賀×2、秋田×2、西条) |
5 |
310万kW |
(アセス終了またはアセスなし) |
アセス手続き中(西沖の山×2) |
2 |
120万kW |
環境大臣意見が予定されている |
計画中/アセスなし |
3 |
200万kW |
- |
計画中止 |
13 |
703万kW |
(アセス終了またはアセスなし) |
【環境大臣が「是認できない」と意見した計画の変遷】合計5件
・西沖の山発電所(仮称)新設計画
設備容量:120万kW(60万kW×2基)
事業者:山口宇部パワー株式会社(大阪ガス、電源開発、宇部興産)
計画段階配慮書 「是認しがたい」(2015年6月12日)
→現在、環境影響評価準備書手続き中。
・武豊火力発電所5号機 リプレース計画
設備容量:107万kW
事業者:中部電力→現在、JERA
アセス:計画段階配慮書「是認できない」(2015年8月14日)
環境影響評価準備書「再検討」(2017年8月1日)
→2017年10月13日経産大臣確定通知。2018年4月18日 着工を発表。現在、建設中。
・(仮称)千葉袖ケ浦火力発電所1,2号機建設計画
設備容量:200万kW(100万kW×2基)
事業者:出光興産、東京ガス、九州電力
計画段階配慮書「是認できない」(2015年8月28日)
→2019年1月31日 石炭火力での事業を断念しLNG火力として検討すると発表。
・市原火力発電所建設計画
設備容量:100万kW
事業者:東燃ゼネラル石油、関電エネルギーソリューション
計画段階配慮書「是認できない」(2015年11月13日)
→2017年3月23日 事業者が計画中止を発表。
・秋田港発電所(仮称)建設計画
設備容量:130万kW(65万kW×2基)
事業者:丸紅、関電エネルギーソリューション
計画段階配慮書「是認できない」(2015年11月13日)
環境影響評価準備書「再検討」(2018年9月28日)
→2018年12月21日 経産大臣より確定通知。環境影響評価書を終了。
【環境大臣が「再検討が必要」と意見した計画の変遷】合計7件(武豊、秋田港含む)
・(仮称)蘇我火力発電所
設備容量:107万kW
事業者:千葉パワー株式会社(中国電力、JFEスチール)
計画段階配慮書「再検討が必要」(2017年3月10日)
→2018年12月27日 石炭火力での事業を断念し、LNG火力として検討すると発表。
・三隅発電所2号機建設計画
設備容量:100万kW
事業者:中国電力
環境影響評価準備書「再検討が必要」(2018年1月12日)
→2018年4月11日 経産大臣より確定通知。2018年11月1日に着工を発表。現在、建設中。
・神戸製鉄所発電所(仮称)設置計画
設備容量:130万kW(65万kW×2基)
事業者:コベルコパワー神戸第二(神戸製鋼所子会社)
環境影響評価準備書「再検討が必要」(2018年3月23日)
→2018年5月22日 経産大臣より確定通知。2018年10月1日に着工を発表。現在、建設中。
・(仮称)横須賀火力発電所 新1-2号機建設計画
設備容量:120万kW(65万kW×2基)
事業者:東京電力→JERA
環境影響評価準備書「再検討が必要」(2018年8月10日)
→2018年11月30日 経産大臣より確定通知 アセス終了。
・西条発電所1号機リプレース計画
設備容量:50万kW
事業者:四国電力
環境影響評価準備書「再検討が必要」(2018年11月30日)
→2019年2月19日 経産大臣より確定通知 アセス終了。
リリース本文(PDF)
【プレスリリース】環境省 石炭火力新設を容認せずとの新方針 アセス中・アセス完了・建設中案件も中止すべき
参考
環境省「電力部門の低炭素化に向けて~新たな3つのアクション」(2019年3月28日)
http://www.env.go.jp/press/106574.html
環境省「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価」(2019年3月28日)