政府が実施している「国際情勢を踏まえた資源・エネルギーの安定的な確保のための構造的対応に関する論点整理案」についての意見募集に対し、気候ネットワークは以下の意見を提出しました。

意見1 論点整理案の全体に対して

【該当箇所】

論点整理案の全体に対して(総論)

【意見内容】

今般の国際情勢の変化、特に中東情勢の緊張等を背景としたエネルギー安全保障強化の必要性については深く認識します。しかしながら、真のエネルギー安全保障とは、化石燃料サプライチェーンの維持・強靭化を図ることではなく、「省エネルギーの徹底」と「再生可能エネルギーの導入加速」により、海外に依存する化石燃料への依存度そのものを早期かつ劇的に低減させることです。

パリ協定の1.5℃目標の達成、および我が国の「2050年カーボンニュートラル」目標との整合性を図るためには、本論点整理案が示すような「化石燃料の将来にわたる有効利用」や「化石燃料サプライチェーンへの新たな公的資金の投入」は極めて慎重であるべきであり、脱炭素化のロードマップと整合した施策とする必要があります。

意見2 化石燃料サプライチェーン強靭化に伴う支援制度およびインフラ投資について

【該当箇所】

  • 『原油等の調達先や輸送経路の多角化に向けた構造的対応に関する論点整理(案)』「3.原油等の調達先や輸送経路の多角化に向けた今後の検討の方向性と論点」における、特定のチョークポイントを経由しない原油・ナフサの輸入にかかる輸送費等をJOGMECが支援する仕組み、および全輸入業者からの納付金を原資とする制度の導入 
  • 『国際情勢を踏まえた資源・エネルギーの安定的な確保のための構造的対応に関する論点整理案』p.4「(2)今後の検討の方向性と論点」における「代替輸送経路となるパイプラインの建設・増築等事業への参画に向けた環境整備」

【意見内容】

有事の安全保障上の観点からこれらの一時的な支援が不可避とされる場合であっても、支援の対象期間・数量・予算を厳格に限定し、化石燃料の輸入量全体の段階的削減につながる明確な出口戦略を法的に規定することを求めます。

【理由】

化石燃料へのロックイン効果と座礁資産化リスク: 

パイプラインのような大規模インフラ投資は、数十年にわたる投資回収期間(耐用年数)を前提とするため、将来の化石燃料需要の固定化(ロックイン効果)を招きます。これは国際的なエネルギー機関(IEA)が示す「2050年ネットゼロ排出(NZE)シナリオ」(新規の化石燃料インフラ投資の停止が必要とされる)に逆行するものです。また、脱炭素化が進む世界市場において、これらのインフラは将来的に価値を失う「座礁資産」となり、結果的に国民負担や投資損失に跳ね返るリスクが極めて高いと言えます。

価格シグナルの歪曲と再エネ・電化移行の阻害: 

全輸入業者から納付金を徴収して代替輸送の追加コストを補填する(平時のリスク・コストの平準化)という仕組みは、化石燃料の使用に伴う本来の市場コストを人為的に低く抑えることになります。化石燃料の価格高騰や調達リスクこそが、産業界や消費者に対する「省エネルギーの徹底」や「電気自動車(EV)・ヒートポンプ等の電化」、さらには「再生可能エネルギーへの転換」を強く促す価格シグナルとして機能します。これを公的に平準化することは、構造的な脱炭素化への投資を著しく遅延させる結果を招きます。

意見3 既設火力の最大限活用およびCCS(二酸化炭素回収・貯留)コスト差支援について

【該当箇所】

  • 『国際情勢を踏まえた資源・エネルギーの安定的な確保のための構造的対応に関する論点整理案』p.5-6「②CCS」における「既設火力を最大限活用しつつ電力供給力を増強していく必要があり、その脱炭素化の手段としてCCUSの活用も重要な選択肢」という記述
  • 同「②CCS」における「CCSコストと排出事業者が負担するCO2対策コストの差に着目した支援(CCSコスト差支援)の実施」および「JOGMECの知見を活かしたCCS支援措置の運用・執行体制の構築」という検討の方向性

【意見内容】

「既設火力発電の最大限活用」や「化石エネルギーの将来にわたる有効利用」を大前提とし、その延命・温存の手段として「CCSコスト差支援」を電力分野等に導入することに反対します。

CCSへの公的資金支援(コスト差補填やJOGMECによるリスクマネー供給等)の適用は、既存プロセスの延命策として安易に認められるべきではありません。 鉄鋼・セメント・化学等の「回避困難とされるセクター(Hard-to-Abateセクター)」であっても、まずは水素還元製鉄や再生可能エネルギー電力の直接利用、燃料・原料転換といった徹底した代替技術の導入・開発を最優先とすべきです。 公的支援の対象は、これらの技術的代替策を最大限講じてもなお回避不能な極めて限定的な炭素排出のみとし、適用範囲を厳格に限定することを求めます。 

また、地下資源開発を主な専門知見とするJOGMECが、CCS支援措置の運用・執行体制の中心となる方針について懸念を表明します。化石燃料インフラの維持と利害が一致しやすい体制を避け、再エネ最優先原則や公正な脱炭素移行の評価を行える中立的な第三者機関が関与する執行体制とすることを求めます。

【理由】

火力発電の温存と1.5℃目標との乖離: 

論点整理案では「化石エネルギーの将来にわたる有効利用を可能とすることで、エネルギー関連投資を下支えする」(p.5)と明記されていますが]、これは化石燃料関連ビジネスの延命を主目的としていると捉えざるを得ません。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)等の科学的知見によれば、世界の温室効果ガス排出量を急速に削減するためには、電力セクターの脱炭素化を最優先で達成する必要があります。CCS付きであっても化石燃料火力を温存することは、実質的な排出削減を遅らせる懸念があります。

CCS技術の不確実性と過大な公的資金投入による機会損失: 

CCSは世界的に見ても未だ商用スケールでの経済性・技術的な確立度(長期の貯留安定性や漏洩リスクの抑制)が極めて低く、依然として高コストです。このような不確実な技術に対して、CO2排出の対策コストとの「差額」を公金等で支援する仕組み(CCSコスト差支援)を構築することは、莫大な国民負担(または電気料金等への上乗せ)に繋がります。限られた公的リソースやGX投資資金は、すでに技術的に確立されており、確実に直接的な削減効果が得られる「再生可能エネルギーの送配電網(系統)強化」「蓄電池の導入促進」「省エネルギー技術の社会実装」等に最優先で集中投資すべきです。

JOGMEC主導による利害関係の偏りと公正な移行への懸念 : 

JOGMECは元来、石油や天然ガスの開発・生産支援等(上流開発・利権確保)をミッションとして活動してきた機関です。同機関にCCS支援の強力な運用・執行体制を担わせることは 、既存の化石燃料開発事業者や業界インフラを保護・優先する歪んだバイアスが働く懸念を排除できません。脱炭素移行の審査においては、気候科学や再生可能エネルギー、公正な移行の専門家による独立した第三者評価を必須とすべきです。

以上。

特定非営利活動法人 気候ネットワーク

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