2003年6月5日

環境エネルギー政策研究所(ISEP)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
FoE JAPAN
WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
グリーンピース・ジャパン
<※以上7団体は、気候行動ネットワーク(CAN)に参加している>

気候変動に関する将来の枠組みは
「危険な気候変動を防止するため」のものに

京都議定書は、第1約束期間の削減目標を定めているが、それ以降(2013年以降)のあり方については何も決めていない。2005年から交渉を始めることになっており、一部では検討が始められつつある。

私たち7団体は、温暖化防止に取り組む世界のNGOのネットワーク「気候行動ネットワーク(CAN)」がCOP8でまとめたペーパー「危険な気候変動を防止するために」を改めて翻訳して供するとともに、今後の議論を次のような視点で進めていくことを提案する。(要約(2頁)のみ添付します。本文は8頁)

気候変動枠組条約の「究極の目的」を想起し、危険でない気候変動の水準についての検討を

今後の世界の地球温暖化対策を考えるにあたっては、気候変動枠組条約の「究極の目的」を思い起こさなければならない。条約は、危険でない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを「究極の目的(第2条)」としている。将来目標を設定する際には、生態系や人間社会が急激な気候変動によって深刻な影響を受けないような気候変動の「水準」について検討し、決定すべきである。

IPCCが示す温暖化予測を直視せよ

CANの見解に詳しく紹介されている通り、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、危険でない気候変動の水準を判断するための重要な情報を提供している。そこから、将来の地球温暖化は極めて深刻なレベルに到達する可能性が高いという事実が明らかとなっている。

  • 危険な気候変動は既に起こっており、今後大きな被害が予測される(異常気象頻発や海面上昇など)。
  • 全球で1~2℃の気温上昇の被害も莫大なものであり、生態系や途上国地域へ深刻な損害を引き起こす
  • 「CO2濃度を産業革命以前から2倍で安定化」ではもちろん、「450ppmで安定化」という野心的と考えられる目標でも危険な気候変動をもたらす

2℃未満の気温上昇に抑えても、危険の恐れはぬぐえない

以上のような事実から、近い将来(今後10~20年)に京都議定書を大幅に上回る排出削減行動を緊急に取らなければ、危険な気候変動を回避することはもはや難しいところにまで来ている。
 CANは、地球温暖化のピークを(産業革命以前のレベルから)2℃未満の気温上昇に抑え、それ以降は可能な限り急速に下げていくべきであり、そのためには、今後20年以内に地球全体での排出を減少に転ずる必要がある、という考えに達した(別紙要約参照)。しかし、それでも"安全"とは言いがたいのが現状だ。

地球温暖化防止は待ったなしである。京都議定書の次のステップでは、さらに大幅な削減を実現し、将来世代、途上国の人々との「公平性」を確保しなければならない。科学的の不確実性は残されているが、今後の温暖化対策は、

  • 予防原則に立って高い削減目標を設定し、行動を起こすこと
  • 地球温暖化をもたらした責任のある先進国がまず大幅削減をすること、を大前提とすべきである。

お問合せ先

気候ネットワーク(平田)TEL:03-3263-9210
WWFジャパン(鮎川)TEL:03-3769-3509

(日本語訳)

気候行動ネットワーク(Climate Action Network)
「危険な気候変動を防止するために」

【要約】

私たちCANは各国に、緊急に気候変動を抑制することを求めます

気候変動枠組条約には、危険な気候変動を防止するための「究極の目的」が定められているが、私たちは、各国がそれを見失っていることを懸念している。各国は、緊急に対応すべき問題として、危険な変化が起こらぬよう、気候変動の限度についての議論を開始すべきである。

危険な気候変動を防止することはすなわち、「公平性」を確保することである

危険な気候変動を防ぐことは、公平性の問題である。IPCC第三次評価報告書によれば、気候変動のリスクが最も高いのは途上国であり、これらの国は、たとえ温暖化が極めて低いレベルに止まったとしても、今後被害に苦しむことになる。
 またその被害は、気温が上昇するとともに急速に増大する。危険な気候変動をもたらす人間活動の多くは、豊かな先進国の消費水準と消費パターン、またそれに伴う生産に起因しているが、その影響は貧困な途上国に不均衡に降りかかっており、今後もまたそうなっていくであろう。したがって、気候変動を防止するため、高い削減目標を設定することは、現世代間においても将来世代との関係においても「公平性」を確保することである。

危険な気候変動はすでに起こっている

いくつかの地域、とりわけ島嶼国や高緯度の北極地域ではまさにすでに、人為的な気候変動の影響に苦しんでいる。アフリカ南部やインドの干ばつ、中国、ベトナム、その他のアジア地域、中央ヨーロッパにおける昨今の異常な洪水は、科学者らから人為的な気候変動との関連が指摘されており、これらは、今後一層の事態悪化をはっきり予兆している。

すでに起こってしまうことが確実な温暖化によって途上国が最も大きな被害を受ける

過去から現在にかけ温室効果ガスが排出されてきたこと、および排出を一日にしてゼロにはできないという事実から、将来の温暖化と海面上昇はもはや確実に起こってしまうことがわかっている。この避けることのできない気温上昇によって、疾病、飢餓、水不足、沿岸域の洪水の危険がより高まることになる。地球温暖化の速度や程度によるが、何千万から何十億人という人々がこれらの影響を被ることになるだろう。。そして、地球温暖化 の結果として起こる健康や食糧、水供給、暴風雨、海面上昇の悪影響 を最小限にするためには、適応措置への大変な努力が必要になるだろう。

地球温暖化のピークを2℃未満の気温上昇に抑え、それ以降は可能な限り急速に下げるべきである

私たちは、全球平均気温のピークを(産業革命以前のレベルから)2℃未満の上昇に抑え、このピーク以降は、可能な限り急速に気温を下げていく必要があると考えている。

気温上昇のピークを2℃未満に抑えても大きな被害は防げない。しかし1℃以上の気温上昇はもはや確実である

1~2℃の気温上昇による被害は莫大なものとなるが、仮に温室効果ガスの大気中濃度を現在のレベルで抑えられたとしても、1℃もしくはそれ以上の気温上昇はもはや避けられそうもない。この確実に起こってしまう温暖化は、固有の生態系へ取り返しのつかない被害をもたらし、そこに棲息する地域特有種の絶滅を引き起こすことになるだろう。また、途上国地域における農業生産への深刻な損害や水不足の拡大、健康リスクの増大なども引き起こすだろう。これは「受け入れられる」という言葉のどんな定義に照らしてみても、「受け入れられる」ことはできない。

海面上昇を止めることは難しいが、唯一、その可能性があるのは気温を急速に下げることだけである

(2℃未満の上昇のピーク後)気温を可能な限り早く下げることができれば、数世紀にわたる海面上昇を50センチ程度に抑え、また、海面上昇を止めることさえできるかもしれないが、それも保障はできない。気温を可能な限り急速に下げたとしても、西部南極の氷床が崩壊を始め 、何世紀にわたって数メートルもの海面上昇が起こる可能性も残っている。1℃の全球気温上昇ですら、今後数世紀のうちにグリーンランド氷床の大規模な後退や消失を招き、大規模な海面上昇を引き起こす可能性がかなり高いと考えられている。

CO2濃度を「産業革命以前のレベルから2倍」にする目標、「450ppmvで安定化」する目標は、いずれも危険な気候変動をもたらす

CO2の大気中濃度を(産業革命以前のレベルから)2倍に制限するという長期的な気候目標は、CO2以外の温室効果ガスを考慮に入れれば、3℃を大幅に上回る気温上昇を引き起こすであろう。また、IPCCの新しい"低"濃度シナリオでは、CO2の大気中濃度は450ppmvとなり、他の温室効果ガスも含む大気中濃度は産業革命以前のCO2レベルのおよそ2倍に相当する。これによる長期的な気温上昇は、(IPCCが成しうる気候感度の見積もりによると)2.5℃、気候感度がより高い場合はさらに高くなる。気候変動に関する科学的な影響評価が正しいならば、こうした気温上昇は、地球上の人口の大部分に深刻な影響を与えることとなるだろう。今後2~3世紀の間に起こる海面上昇で、太平洋、インド洋、その他の島嶼国の全てが海の中に消え去り、バングラデシュも海に飲まれ、低い沿岸域に住む人々が底知れぬ損害と苦しみを経験するだろう。これらの被害は、我々の認識しうる時間の範囲内では修復しうるものではない。「産業革命以前のレベルから2倍」「450ppmvで安定化」という2つの目標は、正式には何の根拠も示されずに、経済の文献においてしばしば"安全"な目標として引用されるが、もちろん、安全でないことは明らかである。

緊急な行動がとられなければ、2℃の気温上昇を回避する選択肢は10年ほどで失われる

IPCC第三次評価報告書からも明らかなように、京都議定書で合意された第一約束期間の削減をさらに上回る排出削減行動が緊急に取られなければ、気温上昇を2℃未満に抑えるという選択肢すら今後20年以内に政策メニューから失われてしまうだろう。

地球全体での排出は今後20年以内に減少に転ずる必要がある

気候系には慣性があるため、地球の平均気温の上昇を2℃以内に抑えるためには、世界全体の温室効果ガスの排出を今後20年以内に減少に転じさせ、その後急速に削減していくことが必要である。