2000年8月8日

吸収源についてのデータ提出について(コメント)
-情報提出の遅延と政府の計算手法案提出を受けて-

気候ネットワーク 代表 浅岡美恵

京都議定書第3条第3項、第4項の定義をめぐる議論は、二重の意味で京都議定書 の地球環境保全の性格を規定するものである。その一は、京都会議のテーマであった各国の第1約束期間の削減数値を実質的に確定するものであること、その二は京都メ カニズムの対象範囲に重大な影響を及ぼしかねないものであり、仮に吸収源がクリーン開発メカニズムの対象プロジェクトに加えられ第3条第4項の第1約束期間への適用されるならば、京都議定書は排出削減議定書としての性格を失いかねないことにおいてである。

ところで、IPCCの特別報告を受けて、第12回補助機関会合で合意された方式による 第3条第3項第4項に関するデータの提出期限が8月1日と定められていたが、省庁間の見解の対立から既に1週間が過ぎるという異例の事態に至っている。

 1.プロセスの問題-情報非公開と対策後延ばしの姿勢

日本政府は、COP3後に決めた吸収源で3.7%という数字を含む6%削減の内訳につ いて根拠も示さないまま今も固持し続けている。環境NGOは、決定のプロセスと根拠のない数字の内訳の問題を指摘し続けてきたが、これまで見直されることはなかっ た。本来ずっと以前に再検討すべきだったことが、今回皮肉にも、気候変動枠組条約事務局へデータの形で情報を提出するという手続きを経なければならなかったことを 通じて、国内でその根拠を隠蔽し続け対策の見直しを野放しにしてきた問題が顕在化したのである。

3.7%という数字は、「2010年頃における我が国全体の森林等における純吸収量が 3.7%程度と推計される」というところに依拠しており、今回選択すべき4つの算定方式いずれによるものでもない。つまり3.7%の数字に合わせようとするのはつじつ ま合わせに他ならない。8月1日に提出すべきデータは日本の削減目標数値に直接関わる問題であり、早晩検証されるべきデータであるのであるから、提出に先立ち根拠 とともに国民に公開され討議されるべきであったが、不透明な省庁間の交渉によって決定されようとしている。この構図は京都会議前と何ら変わっていない。

 2. 政府が提出した計算手法提案の問題

第1段として4日に条約事務局に提出された文書によれば、第3条第3項FAO 活動 ベースの定義を採用すべきであるとしている。これは植林だけをカウントし、その前の伐採を考慮外におくもので膨大な吸収量が生じるものであり、IPCCによって吸収量 と実際の森林に貯蓄された炭素量の変化に整合性がなく科学的に不適であるとされた手法である。日本の場合、IPCCの定義によれば、第3条第3項は0.2%程度排出とな り、FAO活動ベースによれば0.3%程度吸収側となるとの試算もある。これらを明らかにするために、求められている4つの方式すべてについて、データ提出を行うべきで ある。

さらに、第4項について、広範かつ各国の自在な定義を導入することを提唱してい るが、これは定義を放棄するものと言って過言ではない。つまるところ、京都会議直後に密室での省庁間協議で国内温暖化対策の割り振りの基礎として設定した3.7%に 達するまで、科学的根拠の有無にかかわらず吸収源活動の積み上げを図ることに固執する通産省と、FAO活動ベースによっても3.7%は説明がつかないとする環境庁や林野 庁との、ともに京都議定書における削減目標策定の経緯やその意義を無視した論外の対立である。

 3.過去の交渉の経緯に見られる問題

 日本は京都議定書採択に至る過程で、吸収に関する科学的データが十分でなく検証 性も乏しいこと、及び本音として、人為的排出量に対する吸収量が比較的少ない国であることから、基準年と目標年の両方で、人為的排出量から吸収源による吸収分を差 し引くネット方式やグロスネット方式に強く反対してきた。そこには日本の林業へのインセンティブを配慮するとの姿勢は全く見られなかったことは記憶に新しい。

その後、京都会議の途中で一転して、予定を超える数値目標を吸収分のカウントに よって相殺することに期待し、第3条第4項にいう追加的活動をめぐる交渉において日本の吸収源の総量にあたる3.7%の確保に努めるという、条文上ありえない立場を 執拗に展開してきた。今や日本は京都議定書の抜け穴拡大の先頭に立ち、国際的信用をも失いかけている。

日本が提起している方式は、京都会議前の二酸化炭素の国内での削減計画を変更す ることなく第1約束期間の目標を達成するために作り上げた国内削減の割り振りを正当化するために最も好都合であるというものに過ぎない。このシナリオに固執するこ とによって、日本は結果としてアメリカなど他の先進国に比べて極めて不利な条件下におかれるだけでなく、国際競争力をも失うという不利益を被るだけである。

京都議定書の命運がかかるCOP6まで残された時間はわずかである。京都会議の議 長国として、京都議定書の名誉ある発効のために日本はリーダーシップを発揮し、京都議定書を温暖化防止対策を推進するための制度作りと必要な国際的取組の推進に貢 献すべきである。

 

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