2002年3月19日
新しい「地球温暖化対策推進大綱」について
19日、地球温暖化対策推進本部によって新しい「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。
「新大綱」は、
- 最後まで密室で議論され決定された。実施主体となる市民が関与出来ないこのような密室での意思決定により対策を一方的に押しつけるやり方は、実効性が極めて疑わしい。極めて重要な中身をこのような密室の不透明なプロセスで決めてしまったことに、改めて強く抗議する。
- 旧大綱の「6%削減の割り振り」の大枠を踏襲し、見直し・強化を図るべきところの変更を一切行わなかった。見直し作業は、大枠を動かさずにつじつま合わせに費やされただけである。削減の実を上げられなかった地球温暖化防止行動計画や旧大綱の検証は行われなかった。
- 追加施策を盛り込んだ政策メニューは、そもそも実現不可能であることが明らかな施策(原発発電量3割増など)を盛り込んだり、削減を担保する政策・措置なしで非現実的な削減量を積み上げている(個人に依存する省エネ行動・エコドライブなど)一方で、実効性の高い政策・措置(炭素税、工場・建築物の効率規制強化、自然エネルギー固定価格買取法など)の導入を先送りしている。これでは、京都議定書の目標達成は極めて困難であることは明白である。直ちに見直しが必要である。
この「新大綱」が今後数年間の政府の政策とされれば、日本の地球温暖化対策が大きく遅れることは明らかである。これは極めて危険なことであり、避けなければならない。
そのためには、今国会に提出される改正地球温暖化対策推進法によって策定される「京都議定書目標達成計画」については、問題だらけの新大綱にとらわれることなく、市民参加の開かれたプロセスで十分に議論し、実効性のある中身を策定すべきである。この点を強く求める。
以下、詳しく問題点を見ていく。
1.「6%割り振り」の旧大綱からの変更点
新大綱は、旧大綱の6%削減の大枠を踏襲し、本来見直し・強化が必要な点についても変更を行わなかった。これは大綱策定作業の中での省庁間の押し付け合いを反映したものと考えられる。
(1)エネルギー起源CO2の削減率の内訳【大枠は±0%(旧大綱)⇒±0%(新大綱)と変更なし】
旧大綱 |
新大綱 |
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【解説】大綱には十分なデータ(BAU(自然体ケース)が不明、エネルギー転換部門の排出量が不明など)が示されていない。各部門の削減量の合計が旧大綱より小さいこと(大きくなっていないとおかしい)、民生部門の削減率が変わったのに全体の大枠は変わらないこと、など、いくつもの疑問点がある。政府は直ちに全体像を明示すべきである。
なお、旧大綱でここの民生・運輸部門に含まれていた「国民のライフスタイルの抜本的変革」による削減が、下記の(2)に移された。
(2)革新的技術と国民各界各層の活動【大枠は-2%(旧大綱)⇒-2%(新大綱)と変更なし】
旧大綱 |
新大綱 |
内訳なし |
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【解説】もともと(1)に含まれていた「国民のライフスタイルの抜本的変革」による削減分をここに移し、削減量を積み上げている。
(3)吸収源【-3.7%(旧大綱)⇒-3.9%(新大綱)】
旧大綱 |
新大綱 |
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【解説】 この-3.9%という数字は、極めて怪しげなものである。これまで政府は、「全森林」の純吸収量が-3.7%としてきたが、2001年11月の吸収源対策合同検討委員会では、いつのまにか「森林全体の7割」の森林増加量を吸収に換算したら確保できる量という説明になった。「3.7%」「3.9%」という数字の十分な根拠は今でも示されておらず、ただ、国際的に定められた上限値(1300万トン・3.9%分)を使い切ろうという意図がうかがえる。
実現可能かどうかわからない吸収分を、上限値ぎりぎりまで6%削減に盛り込むことは極めて危ういものである。
(参考)
- 1997年12月 京都会議以降 -3.7%?
「2010年頃における我が国全体の森林等による純吸収量」 - 2000年 8月 条約事務局への情報提出 -3.7%?
◇植林・再植林・森林減少(3条3項) -0.3%?
(※のちの交渉でこの算定に基づく定義が採用されず、国際ルールでは逆に+0.2%の排出になる。)
◇森林管理等(3条4項) 全森林対象 -3.4% / 育成林対象-2.9% - 2001年11月 吸収源対策合同検討委員会 -3.9%?
「森林全体の約7割(3条3・4項対象森林)の森林資源増加分の吸収量」
(4)代替フロン等3ガス【2%増(旧大綱)⇒2%増(新大綱)で変更なし】
代替フロン等3ガス(HFC・PFC・SF6)は、業界が98年に策定した自主行動計画を積み上げると約0%程度(HFC等3ガスでは95年比4%の微増)になるとされたのに、2%排出増加(HFC等3ガスで95年比50%増に相当)という下駄をはかせた割り振りはそのままにされてきた。実際2000年の排出量は、6ガス全体からみて1%削減(HFC等3ガスでは26%削減)しており、現状の排出削減状況と全く乖離した「2%増」がまたもや踏襲されてしまうことは全く理解できない。
(5)京都メカニズム【(-1.8%)(旧大綱)⇒(-1.6%)(新大綱)(明記なし)】
他の割り振り分を差引きすると-1.6%になる。単に吸収源を増やした分が減っただけである。
2. 新大綱のアプローチの問題点 ―極めて実効性を欠く政策・措置―
(1)全体に実効性を大きく欠く政策・措置
新大綱では、定量的基準の達成が法的に担保されている政策・措置は全体の2割未満にすぎないと見られ、実効性は期待できそうもない。また、削減量全体の約4割は、定量的な達成基準を持たず、普及啓発などのみによって実現されることが期待されている。また、削減量全体の3割は業界団体の自主的な取り組みに依存しており、これも削減量を担保するものではない(下表)。
構成比 |
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定量的基準の達成が法的に担保されている |
17% |
定量的基準と普及促進施策がある、又は自主的取組が行われている うち行政目標 うち業界自主計画依存分 |
42% 12% 29% |
普及促進施策(助成措置等)がある |
20% |
その他(基本的に啓発が主で効果は利用者に依存、現時点で実用段階ではなく今後の技術開発等に依存) |
21% |
合 計 |
100% |
※新大綱に削減量が示されている政策・措置を計算したもの
なおこの政策・措置の評価は、2000年12月に中央環境審議会企画政策部会「地球温暖化防止対策の在り方の検討に係る小委員会」が現大綱の政策・措置の評価を行った際の方法を踏襲した。当時同小委は「定量的基準の達成が法的に担保されている対策は全体の20 %未満であり、目標値を持たない対策が40%以上あることが明らかとなっている」と述べていたが、新大綱も基本的に変わっておらず、強化されたとは到底言えない。
(2)各部門の政策・措置の問題点
A.エネルギー起源CO2
○エネルギー需要面の対策
(産業部門)
・産業部門の対策の大半は経団連自主行動計画に依存している。
【解説】
・産業部門のCO2削減は90年比7%削減を想定しているが、その大半を90年比±0%の経団連計画に依存しており、追加対策を大幅に強化しない限り産業部門の7%削減は困難なはずである。にも関わらず追加対策はほとんどなく、7%削減の裏付けが見えず、大いに疑問である。
・製造業はこの間エネルギー多消費の素材系製造業を中心に生産減が続いているが、2000年のCO2排出量はほぼ90年レベルと推定され、生産量あるいは生産高あたりのCO2は大幅に増加(効率が悪化)しており、逆に大きな削減余地があることを示している。
(民生部門)
・今国会で予定されている業務部門対策の省エネ法改正は、旧大綱で見込んでいた削減量に比べ政策・措置が弱いと指摘されていた部分を補強しただけであり、これで旧大綱から追加的な削減を見込めるものではない。
・民生・運輸部門では、機器の省エネ基準の多くは2003~06年までであり、その後のもう一段の強化が可能なはずだが、効率強化は(機器の対象拡大以外には)行われなかった。また新築住宅・建築物の省エネ基準を100%義務化すれば大幅な削減が可能であるが、これも盛り込まれていない。
(運輸部門)
・自動車の燃費規制以外は実効性に欠ける。しかも2010年と遅いガソリン乗用車の燃費改善目標(既に相当程度達成されている)も前倒しされずそのままである。
・またもや、かえってCO2排出を増やす道路整備が盛り込まれているのは問題である。
○エネルギー供給面の対策
・原発の発電電力量の2000年度比3割増は、原発に必然的に伴う放射能という環境負荷の問題がある上に、最近の原発建設の進捗状況からして全く現実性がない。
・「新エネルギー」について、いわゆる「RPS法」を政策の軸に想定しているのは問題である。風力・太陽光などの自然エネルギーについては、「RPS法」で目標量を実現できるとは到底考えられず、むしろ拡大を妨げ廃棄物発電を促進するだけと見られる。自然エネルギーの普及拡大にはドイツ型の固定価格買い取り制度が最も実効性がある政策・措置であり、これを盛り込むべきである。
B. 革新的な環境・エネルギー技術の研究開発の強化
・革新的技術開発の0.6%削減分は全て今後の技術開発に依存しており、目標達成のための数値として盛り込むのは不適切である。あくまで6%の上乗せ(プラスアルファ)とすべきである。
C. 国民各界各層による更なる地球温暖化防止活動の推進
・ここで挙げられている削減行動(下記に例を示す)は、普及啓発のみに依存した全く裏付けのない行動の羅列に過ぎず、そもそも政策・措置によって削減量を見込む性質のものではない。
(例)
・家族が同じ部屋で団らんし、暖房と照明の利用を2割減らす(341~467万トン)
・冷蔵庫の効率的使用(15~28万トン)
・急発進、急加速をしない運転を心掛けるなどエコドライブの実践等(81~162万トン)
・事務所の一旦消灯の実施(昼休み等)(18~31万トン) など
【解説】
・民生・運輸部門で機器・自動車や建物の省エネ基準強化など実効的な政策・措置を盛り込まず普及啓発のみを行うのは、あえて浪費型製品(含む建物)を容認しつつ市民に対し我慢を求める矛盾したやり方であり、実効性は期待しにくい。
・市民の取り組みを奨励することは重要であるが、数量的に見込むことは困難であり、6%の上乗せ(プラスアルファ)とすべきである。
(参考)例えばイギリスでは、目標達成のために、さまざまな施策で確実に削減できるもののみで数値を積み上げており、ライフスタイルの転換による削減分は、それに上乗せする形で余裕をもたせて計画を立てている。気候ネットワークの政策提言でも同様に、国民のライフスタイルの転換などで削減できる部分は、6%削減の上乗せ分とすることを提案した。
・また、消費者に経済的インセンティブを与える施策(例えば炭素税など)の導入が必要である。
問合せ
URL:http://www.kikonet.org/