NGO共同声明:
G7サミットでインドラマユ及びマタバリ2石炭火力を含む
海外化石燃料事業への公的支援をやめるよう日本政府に要請

※ 6月7日の発表後、NRDC(アメリカ)、FoE US(アメリカ)、Jubilee(オーストラリア)、The Law and Policy of Sustainable Development Research Center(ベトナム)の4団体からの署名が加わり、賛同団体の数は計14カ国、39団体となりました。

6月11 - 13日、英国コーンウォールで開催されるG7サミットに首脳が集まり、「気候変動への取り組みと地球の生物多様性の保全(※1)」を含む優先課題が議論されます。本書簡に署名した14ヵ国の39団体は、日本政府に対してG7サミットで気候変動に関する強いリーダーシップを発揮し、国際協力機構(JICA)の支援が見込まれているインドネシアのインドラマユ石炭火力発電事業(インドラマユ)およびバングラデシュのマタバリ石炭火力発電事業フェーズ2(マタバリ2)を含む、全ての化石燃料事業への公的支援をやめるよう求めます。

先月5月18日に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」によれば、2021年時点で既にコミットされている事業以外に、新たな石油・ガス開発を承認する余地はなく、新たな炭鉱開発や炭鉱拡張も必要ないとされています(※2)。電力部門に関しては、発電部門からのCO2排出量を先進国では2030年代に、新興市場および発展途上国では2040年頃に正味ゼロにするべきであると提案しています(※3)。したがって、新たに化石燃料ベースの発電を支援することは、2050年までのネットゼロ排出目標と矛盾することになります。

IEAの報告書に続き、G7気候・環境大臣は5月21日にコミュニケを発表し、脱炭素対策が講じられていない石炭火力発電への国際的な投資を今年末までに停止し、限られた状況以外では、炭素密度の高い化石燃料エネルギーに対する政府の新たな国際的な直接支援をフェーズアウトしていく(※4)と合意したことを表明しました。本合意は一定の前進ではありますが、G7各国政府は重要な気候目標を達成するためには、石油およびガスを含む全ての化石燃料事業への資金支援を直ちに停止する必要があります。

仮に、全ての石炭火力発電所への公的資金を停止する方針が表明されたとしても、私たちは、その方針に構わず日本政府がインドラマユおよびマタバリ2への支援を継続して行う可能性を強く危惧しています。私たちは、日本政府がこれらの海外石炭火力発電事業2案件を支援しないことを直ちに発表するよう求めます。

日本の化石燃料への継続的な支援は、各国のクリーンエネルギーへの移行に向けた取り組みを弱体化させています。例えば、インドネシアはカーボンニュートラルの目標を達成するため、2023年より後は新たな石炭火力発電所の建設を停止する予定にも関わらず(※5)、日本政府はインドラマユへの融資を計画しています。2021年2月、バングラデシュ政府は輸入石炭のコスト上昇および海外の投資家からの財政支援の減少により、9つの新規石炭火力発電所(発電容量計7,461MW)を廃止することを決定しました(※6)。しかし、日本政府はマタバリ2への公的支援を計画しています。他方、在バングラデシュ中国大使館は、バングラデシュ財務省宛てに書簡で「炭鉱や石炭火力発電事業など大気汚染を招く事業への投資は検討しない」との意向を伝えました(※7)。インドラマユおよびマタバリ2においては、パリ協定の長期目標との不整合性、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、すでに様々な問題があります。

また、両案件ではJICAの「環境社会配慮ガイドライン」が遵守されていません。インドネシアでは、住民の生活の糧が奪われ、また大気汚染が悪化することから、現地の農家らが5年以上、インドラマユ事業に強く反対しています。これは、JICAのガイドラインの要件の一つである「社会的合意」の欠如を明確に示すものです。同事業に対して反対の声をあげた複数の農民が捏造された罪で不当逮捕され、5~6ヶ月間収監されるという深刻な人権侵害も起きました(※8)。バングラデシュでは、アクセス道路の工事に伴い、環境アセスメント報告書では想定されていない工事の影響、浚渫土の投棄により川が埋め立てられる事態も生じており(※9)、川漁に従事する現地の漁師の生計が失われています。

気候非常事態および新型コロナウイルスに直面し、地球が健康であることと心身・社会的な良好は相互に結びついていることが顕著になりました。私たちが切実に必要としている気候変動対策を日本政府が妨害することは容認できません。したがって、私たちは日本政府に対し、G7サミットで気候変動に関する強いリーダーシップを発揮し、インドラマユおよびマタバリ2を含む全ての化石燃料事業への公的支援をやめるよう求めます。

脚注
  1. https://www.g7uk.org/policy-priorities/
  2. International Energy Agency (IEA), (2021), Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector, pp. 21, IEA, Paris, https://iea.blob.core.windows.net/assets/0716bb9a-6138-4918-8023-cb24caa47794/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf.
  3. Ibid., pp. 114.
  4. https://www.env.go.jp/press/files/jp/116310.pdf (暫定仮訳)
  5. https://news.mongabay.com/2021/05/indonesia-says-no-new-coal-plants-from-2023-after-the-next-100-or-so/?utm_medium=Social&utm_source=Facebook&fbclid=IwAR1v9nsyna52Hjt3HkIl9KbijEh0qRn1qJQ7NnHJeZ5bFU9h3uNMMjqs38g#Echobox=1620825089
  6. https://www.climatechangenews.com/2021/02/25/bangladesh-scraps-nine-coal-power-plants-overseas-finance-dries/
  7. https://www.ft.com/content/30840645-58d2-4da5-be05-f476623677d2
  8. https://www.climatechangenews.com/2020/11/11/java-japanese-financed-coal-plant-threatens-health-livelihoods
  9. https://www.thedailystar.net/frontpage/news/the-killing-kohelia-2033253

本件に関するお問合せ先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、担当:田辺 tanabe@jacses.org

署名グループ・団体一覧

  1. Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES), Japan
  2. Kiko Network, Japan
  3. Friends of the Earth Japan, Japan
  4. Mekong Watch, Japan
  5. 350.org Japan, Japan
  6. Greenpeace Japan, Japan
  7. Asian Peoples Movement on Debt and Development, Asia
  8. 350.org Asia, Asia
  9. Friends of the Earth Australia, Australia
  10. Jubilee Australia, Australia
  11. Change Initiative, Bangladesh
  12. CLEAN (Coastal Livelihood and Environmental Action Network), Bangladesh
  13. VOICE, Bangladesh
  14. Urgewald, Germany
  15. Environics Trust, India
  16. Growthwatch, India
  17. AEER (Action for Ecology & People Emancipation), Indonesia
  18. WALHI, Indonesia
  19. WALHI Jawa Barat, Indonesia
  20. Trend Asia, Indonesia
  21. Srikandi Lestari, Indonesia
  22. Society of Indonesia Enviromental Journalist, Indonesia
  23. BEM FMIPA UI, Indonesia
  24. JATAYU, Indonesia
  25. 350 Indonesia, Indonesia
  26. Market Forces, International
  27. Human Rights Watch, International
  28. Oyu Tolgoi Watch, Mongolia
  29. Asian Energy Network (AEN), Philippines
  30. People of Asia for Climate Solutions, Philippines/China
  31. Solutions for Our Climate, South Korea
  32. Both ENDS, The Netherlands
  33. Coal Action Network (UK), United Kingdom
  34. Mighty Earth, United States
  35. Oil Change International, United States
  36. Natural Resources Defense Council, United States
  37. Friends of the Earth United States, United States
  38. Green Innovation and Development Centre (GreenID Vietnam), Vietnam
  39. The Law and Policy of Sustainable Development Research Center, Vietnam