12月10日(木)、気候ネットワークは関西電力(株)が計画している赤穂発電所におけるボイラー・燃料設備改造に係る環境影響評価概要書に対して意見書を提出しました。
意見書の主なポイントは以下の通りです。
1.石油から石炭に転換する問題について
- 2015年6月にドイツで開催されたG7サミットでも、気候変動が最重要課題の一つと位置づけられ、「脱炭素化(decarbonization)」をめざすことが首脳宣言に盛り込まれた。そのような状況の中、天然ガス(LNG)発電の約2倍の CO2を排出する石炭火力を新設することは、将来の気候変動へ甚大な環境影響を及ぼすことになる。よって、そのことを無視した本事業の実施には反対する。
- SC(超臨界圧)を採用し、約0.80kg-CO2/kWh、総排出量は年間約670万トン-CO2としているが、最新のLNG火力の約2倍にも及ぶCO2排出量であり、拡大によって追加的に排出される膨大なCO2による影響への配慮が全く見られないことは問題である。
2.本計画の環境影響評価のあり方について
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「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議とりまとめ」との整合性について
「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議とりまとめ」におけるBAT(Best Available Technology)を参考とすると、本事業の60万kWにおいて採用するボイラーはUSCでなければならないとされている。本計画において、事業者が導入を計画しているものはSCであり、通常の環境アセスメントの手続き上では許可されない可能性が高い。そうした状況を踏まえると、本改造計画は十分に環境影響について配慮されているとは言えない。
また、新設の計画においては、2015年6月12日、環境大臣は西沖の山発電所(仮称)の計画段階環境配慮書に対する意見として、電力業界全体が温室効果ガス削減に取り組む枠組みが未構築であること、環境対策が明らかにされていないことを問題視している。2015年7月17日には電力業界の自主的枠組みが構築されたが、その実効性は疑問が持たれている。その後も、環境大臣は4つの計画(合計5件)に対して電力業界の自主的枠組みの実効性が疑わしいことから、「是認できない」と意見している。本概要書においても、自主的枠組みのもとで目標の達成へ取り組みを進めると書かれているが、これまでの環境大臣の意見を踏まえると、本事業の社会的正当性が確保されているとはいえない。 -
世界動向を踏まえた事業判断について
2015年11月17日、OECD輸出信用・信用保証部会の会合において、海外の石炭火力発電事業に対する公的支援の規制が合意され、国際的に石炭火力発電に対する規制が強まってきている。本合意においては、途上国に対する亜臨界圧や超臨界圧(SC)の石炭火力発電事業に対する支援を原則禁止するものである。なかでも本事業(60万kW×2基)との関連で言及すれば、50万kW以上であれば、SCは禁止となっていることである。電力供給が逼迫している途上国への建設支援においても規制対象とされている技術を使って、国内で建設しようとする本計画は、国際的にも認められないものである。よって本事業の社会的正当性は確保されておらず、中止することを求める。 -
環境影響評価の進め方について
本改造計画は、現在の環境影響評価法(以下、環境アセス)においては、「発電設備の新設を伴う火力発電所の変更の工事」と規定されており、原動力設備のみの変更(ボイラーの改造等であって、石炭、石油、液化ガス等の燃料の種類の変更を含む)は環境影響評価法の対象とならないため、自主的に環境影響評価を行うとしている。しかし、60万kW×2基の大規模な発電所であり、かつ燃料種を変更することから、排出される汚染物質も異なる。こうしたことを踏まえると、通常の環境アセスメントと同様の手続きを行い、細心の注意を払う必要がある。よって、「新設」と同様のアセス手続きを行うことを求める。
3.環境影響評価の項目について
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大気環境・大気質について
1)硫黄酸化物
石炭種により汚染の度合いが異なることが考えられる。低品炭を使用すると高濃度になる可能性があるので、使用する可能性のある品種ごとに評価を実施するべきである。事前に考えられる多くの石炭種別にアセスを実施する必要がある2)窒素酸化物
石炭種により汚染の度合いが異なることが考えられる。低品炭を使用すると高濃度になる可能性があるので、使用する可能性のある品種ごとに評価を実施するべきである。事前に考えられる多くの石炭種別にアセスを実施する必要がある。3)浮遊粒子状物質
本概要書に示された大気質の状況によると、微小粒子状物質(PM2.5)は、一般局4局の内、年間有効測定日数以上の1局では環境基準の長期基準、短期基準ともに適合していない。本事業による追加的な汚染物質の排出による影響がないかどうかについて確認を実施するべきである。4)粉塵について
石炭の粉塵については、「石炭は屋内貯炭場に貯蔵され、飛散防止が図られているため評価対象項目として選定しない」としているが、石炭搬入の際は開口部などが完全密閉にはならないので飛散の評価を実施すべきである。また石炭の種類によっては、低品位炭の使用があれば高濃度になる可能性があるので、主要石炭種類ごとに評価を実施すべきである。5)重金属の有害物質について
水銀をはじめ、考えられる物質を広範囲に評価し、その排出が限りなくゼロになるような具体的な除去技術を複数手段、比較検討すべき。石炭種類、低品位炭使用などがあれば高濃度になる可能性があるので、主要石炭種類ごとに評価を実施すべき。6)大気全般について
環境基準を満たしていない項目もあることから、現状よりも周辺環境を悪化させることがないよう調査・評価を実施するべき。7)評価範囲について
当該地域は、大阪、尼崎、神戸、加古川、姫路、相生、赤穂において固定発生源が多数あり、幹線道路もあることから複合汚染になる可能性が高く、一つの汚染源から周囲20kmまで飛散するという単純な予測モデルで考えるのは実態に合わない可能性が高い。例えば、微粒子のPM2.5であれば周辺国からも飛散することを考えると、発電所から20kmを超えて飛散することは容易に想像できる。そうした点も考慮し、評価対象範囲を拡大するべきである。 - 水環境について
1)有害物質について
施設稼働時の水質評価について、有害物質が評価項目とするべきである。長年気付かずに汚染物質を排出していたケースも報告されており、万全の体制とする必要がある。また工事中の沈殿池についても、局地的な集中豪雨等も頻発していることから、考慮する必要がある。2-1)温排水について
「蒸気タービン、復水器及び取放水設備は既設の設備を使用し、復水器冷却水の使用量、放水流速、取放水温度差を変更しないため評価対象項目として選定しない。」とある。しかし、石油火力から石炭火力に転換することで、ベースロード電源として高稼働率になることから、発生する排熱は全く異なるはずであり、これまでと同じとすることには無理がある。2-2)温排水について(水生植物)
水生植物についても、「赤穂発電所の運転開始前後で大きな変化がみられないため評価対象項目として選定しない。」としているが、海水温の上昇は瀬戸内海でも確認されており、それに伴い植生なども変化していることが考えられる。したがって、温排水による水生植物への影響も瀬戸内海の事情に詳しい専門家の意見を仰ぎ、影響の有無について検証をするべきである。3)底質について
底質について、有害物質による影響を評価すべきである。海域工事を行わないとしても、排煙や排水に重金属や有害物質が含まれる可能性も否定できない。また、貯炭場から粉塵が飛散して底質に貯まる可能性もある。したがって、評価項目として加えるべきである。 -
土壌汚染
工事の際の造成等の施工による一時的な影響のみを評価するとなっているが、排煙からの水銀などの重金属や、有機汚染物質の排出可能性もあり、評価対象にすべきである。また、石炭種によって汚染の度合いも異なることから、使用する可能性のある石炭種全てを考慮して評価を行うべきである。 - 廃棄物
工事の際の造成等の施工による一時的な影響のみを評価するとなっているが、排煙からの水銀などの重金属や、有機汚染物質の排出可能性もあり、評価対象にすべきである。また、石炭種によって汚染の度合いも異なることから、使用する可能性のある石炭種全てを考慮して評価を行うべきである。 -
情報公開のあり方について
概要書などの資料は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。また、期間中においても、印刷が可能にするなど利便性を高めるよう求める。改善が必須である。
関西電力・赤穂発電所におけるボイラー・燃料設備に係る環境影響評価概要書に対する意見
- 赤穂発電所におけるボイラー・燃料設備に係る環境影響評価概要書に対する意見 (2015年12月10日、PDF)