2026年9月1日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

2026年8月26日、政府は第17回GX実行会議においてエネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(パワーGX)を発表した。政府は、化石燃料の調達安定性の抜本的な向上と、GXの加速・強化を進め、アジアをはじめとするグローバルなエネルギー需給構造の強靱化を実現するとしている。

しかし、今回の「パワーGX」の方針は、化石燃料への依存そのものを減らすのではなく、化石燃料の調達・利用を長期にわたり維持・強化する方向性を強く打ち出している。これは、エネルギー需給構造の真の強靭化とは逆行し、新たな脆弱性を固定化しかねない。気候ネットワークは、「GX」の名の下に進められる化石燃料回帰を強く懸念する。

「GX」の名の下で火力発電を固定化

政府はこれまで、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を、化石燃料中心の経済・社会・産業構造からクリーンエネルギー中心の構造へ転換するものと説明してきた。 

ところが今回のパワーGXには、GX政策のロードマップ(分野別投資戦略)を見直し、加速・強化する施策として、火力発電の延命・固定化につながる以下の施策が含まれている。

  • 水素・アンモニアのサプライチェーン構築
  • 天然ガス火力等の供給力向上と最大限活用
  • CCS(二酸化炭素回収貯留)の事業環境整備
  • 発電用タービン供給能力倍増

水素・アンモニアのサプライチェーン構築、天然ガス火力等の供給力確保、CCS事業環境整備などは、これまでも「脱炭素への移行期に必要」として推進されてきた。今回、中東情勢の悪化を契機として、これらをさらに強化しようとしている。

しかし、これらの施策が具体化されれば、新たな天然ガス火力の建設を増やし、アンモニア混焼やCCSを前提として石炭火力すら延命させる恐れがある。

将来、水素・アンモニアやCCSによって脱炭素化するとして現在の火力発電設備への投資を正当化しても、それらが必要な規模・コスト・削減効果で実用化される保証はない。その一方で、今から建設される火力発電所は2030年代から数十年間稼働することとなり、2050年を越えて化石燃料利用を固定化するリスクがある。 

今回のエネルギー危機が改めて浮き彫りにしたのは、輸入化石燃料に大きく依存する日本のエネルギー構造そのものの脆弱性である。その化石燃料への依存をさらに固定化することは、 本来の意味での「グリーン・トランスフォーメーション」とは言えない。

2035年・2040年の排出削減目標との整合性を示すべき 

日本政府は、温室効果ガス排出量を2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%削減する目標を国際社会に提出している。ところが今回のパワーGXでは、天然ガス火力の供給力向上や最大限活用、発電用タービンの供給能力拡大などを進めることによって、2030年代から2040年代の温室効果ガス排出量がどのように変化するのか、その定量的な評価が示されていない。

新たな天然ガス火力や化石燃料関連インフラへの投資を拡大するのであれば、それが2035年度60%削減、2040年度73%削減、さらに2050年ネットゼロとどのように整合するのか、政府は追加的な排出量も含めて明らかにすべきである。

「将来的に水素・アンモニアやCCSで脱炭素化する」との期待だけでは、現在進める化石燃料投資が1.5℃目標と整合することの説明にはならない。

「調達先の多角化」ではなく、化石燃料需要そのものの削減を

パワーGXには原油等の調達多角化のための輸送コスト支援や、代替パイプラインの建設支援が含まれる。

中東情勢を受けて、短期的な供給途絶への備えや調達先の多角化が必要となる局面はある。しかし、中長期的なエネルギー安全保障政策として最も重要なのは、「化石燃料をどこから輸入するか」を変えることではなく、「化石燃料をどれだけ必要としない社会に変えるか」である。

調達先を変えても、国際的な価格高騰、輸送路の遮断、紛争、為替変動など輸入化石燃料に伴うリスクそのものをなくすことはできない。さらに、新たなパイプラインや輸送・受入設備などへの投資は、その設備を長期間利用することを前提とするため、化石燃料輸入を長期にわたって固定化することにもつながりかねない。エネルギー安全保障を本当に強化するのであれば、省エネによってエネルギー需要を減らし、国産の再生可能エネルギーを最大限導入し、電化や蓄電池、デマンドレスポンスなどを通じて化石燃料輸入そのものを削減することを最優先すべきである。 

AI・データセンター等による需要増を所与とすべきではない 

政府は、AI・データセンター等による今後の電力需要増への対応も、天然ガス火力等の供給力向上やタービン供給能力拡大の理由としている。しかし、「電力需要が増えるから発電所を増やす」という発想に固執すれば、気候変動対策として逆行する。

データセンター等についてはエネルギー効率の向上、再生可能エネルギーとの同時導入が不可欠である。高い電力需要予測を所与として火力発電所を新設すれば、「需要増を想定して火力を建設し、その巨額の投資を回収するために長期間稼働させる」という化石燃料ロックインを自ら生み出すことになる。   

原発依存もエネルギー安全保障上の新たな脆弱性をもたらす

パワーGXでは、原発の建て替えを2040年代2~5基、2050年代11~14基進めるとの見通しの下で原子力を最大限活用する方向性も示されている。しかし原発は重大事故が発生した場合の被害が極めて大きく、長期間にわたる避難や環境汚染をもたらす。 また、近年の国際紛争では軍事的な攻撃の対象となった事態も生じており、安全保障上・防衛上の脆弱性が極めて高い。さらには巨大な発電所への依存を高めることは設備停止時の影響も大きく、バックアップとして火力発電の稼働につながり気候変動対策にもならない。

公的資金で化石燃料依存を固定化してはならない

天然ガス火力、水素・アンモニア、CCS、化石燃料の新たな輸送・調達インフラなどに巨額の公的資金を投じることは、気候変動対策として問題があるだけでなく、エネルギー安全保障上のリスクを残し、将来にわたる国民負担を増大させるおそれがある。

さらに、こうした政策を「アジアのエネルギー需給構造の強靭化」として海外展開すれば、ガス火力、水素・アンモニア混焼、CCSなどへの長期投資を支援先国にも拡大し、各国の再エネへの移行を阻害する可能性がある。

日本がアジア諸国に提供すべきは、化石燃料を長く使い続けるための技術ではなく、各国が化石燃料への依存そのものを低減できる技術と制度への支援である。

ICJ勧告的意見が示した国家の気候変動対策上の義務との整合性も問われる

2026年5月20日に国連総会は、国際司法裁判所(ICJ)による「気候変動に関する国家の義務」についての勧告的意見を歓迎する決議を採択した。ICJは、国家が化石燃料の生産や消費、化石燃料補助金などについて適切な措置をとらず、その結果として気候システムに重大な損害をもたらす場合に国際法上の国家義務の違反となりうることを示した。

こうした中で、政府が公的支援によって新たな化石燃料利用や関連インフラへの投資を促進するのであれば、その政策が日本の温室効果ガス削減義務や1.5℃目標とどのように整合するのかについて、これまで以上に厳格な説明が求められる。 

化石燃料からの脱却こそが、気候危機とエネルギー危機の双方への対策

気候変動による被害は世界各地で一層深刻化しており、8月27日に発生したネパール・チベットの壊滅的な洪水や、欧州で広がる熱波や森林火災など、人々の命や社会基盤を脅かしている。日本でも熊本地震の被災地での熱波に続き、千葉県、石川県、福井県と豪雨による甚大な被害が連日発生している。気候危機そのものが、今や社会とエネルギーシステムに対する重大な安全保障上のリスクである。温室効果ガス排出を増加・固定化させる政策を「エネルギー強靱化」と位置付けることには根本的な矛盾がある。 

ホルムズ海峡封鎖が始まって以降、多くの国々はIEAが整理しているように再エネ・省エネ・電化の取り組みを深化させた。日本も脱炭素政策の基本に立ち返り、再エネを最大限に導入し、電力システムの柔軟性向上と省エネを抜本的に進めるべきである。

今求められているのは、化石燃料を安定的に確保して長く使い続けるための「パワーGX」ではない。 化石燃料からの脱却こそが、日本のエネルギー安全保障を真に強化する道である。

参考

音声解説

今回の分析について、より手軽に内容を理解できるよう、AIによる音声解説を用意しました。
音声解説は以下からお聴きいただけます。
※AIによる音声は、一部に日本語の読み間違いがあることがあります。

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