
「Kiko」は、温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。
会議場通信 Kiko ベレンNo.2(2025年11月15日)
公正な移行作業計画の早期「実施」に向けて
公正な移行はCOP30における目玉議題の一つだ。今年6月に行われた補助機関会合で合意された非公式ノートをもとに公正な気候作業計画(JTWP)の議論が進められる。COP30で具体的な行動計画への合意が期待されている。
火曜日に始まった交渉であるが、各国の意見の隔たりが見られるのが、非公式ノートのパラグラフ28に残るオプションの取り扱いだ。このパラグラフでは、公正な移行作業計画を具体的に進めるための手順について議論が行われている。発展途上国の多くの国が、新たな制度的枠組みを取り入れることに賛成の意向を示す一方で、イギリスをはじめとした先進国は、既存の手順を用いて作業計画を進めることに固執している。これは、新たな制度的枠組みが既存の手順と重複することなどを懸念してのことである。しかし、一部の途上国は先進国の意見に対して、各国のキャパシティに差異があることを考慮すると、既存の手順ではすべての国が同じように作業計画を進めることは出来ないと指摘したうえで、新たな制度的枠組みの採択を訴えた。
CANをはじめとする市民社会の多くは、この新たな制度的枠組みにベレン行動メカニズム(BAM)を提唱し、力を入れている。BAMは知識及び技術サポート、ベストプラクティスの共有やヘルプデスクの機能を備えたメカニズムである。11月12日には、交渉の足を引っ張った国に送られる「本日の化石賞」がイギリスに送られた。公正な移行作業計画の議論において、新たな制度的枠組みの採択に反対しているからだ。一方で、G77+中国などBAMに賛同している交渉グループもある。
公正な移行作業計画では、他にも貿易に係る一方的な制限的措置や化石燃料からの脱却に関する議論などにおいて意見の相違が見られるが、COP29での合意見送りから1年、COP30での具体的な行動計画の採択が目指される。公正な移行作業計画の早期の「実施」のためにも、この意見の隔たりをどのように取りまとめるのか、議長のスキルも問われる。
アマゾン川でのボートパレード - People’s Summit の報告
COP30と並行して、11月12日から16日まで、市民社会・NGOによるPeople’s Summit がベレンで開催されている。今回の People’s Summit には、ブラジル国内外から1200団体以上が参加した。アマゾン地域の先住民コミュニティも多数参加した。開催場所はCOP30会場から少し離れたパラ州立大学だ。12日には、200隻近いボートや船舶に5000人程の参加者が乗り込み、大学脇を流れるアマゾン川をパレード航行した。
数多くの団体やコミュニティがそれぞれの要求をチャントやバナーを用いたアクションで示した。先住民とその土地の保護を主張する団体は、バナーを掲げながら伝統音楽を披露し人々の注意を引いた。森林破壊の進むアマゾンの搾取に警笛を鳴らし、そしてその土地に住む先住民の権利を守るためのこのアクションは、COP30への対抗措置としてのメッセージとなりえるだろう。

日本が「本日の化石賞」を受賞
11月13日、COP30で日本が「本日の化石賞」を受賞した。「本日の化石賞」は、世界130カ国、1800以上の環境NGOのネットワークClimate Action Network(CAN)が主催する、気候変動交渉・対策の足を引っ張った国に毎日贈られる賞である。受賞国に対する批判と改善への期待が込められている。
日本が受賞した理由としては、化石燃料の延命を推進、先住民の権利侵害、そして公正な移行の交渉に消極的なことが挙げられた。日本パビリオンにおいてCCSやアンモニア混焼を「解決策」として持ち出し、推進する展示物が飾られている。さらに、オーストラリアの巨大ガスプロジェクトに巨額の投資を行い、その地に住む先住民の文化や生活に影響をあたえている。また化石燃料を東南アジアへ転売している。CANは、これらの行為は化石燃料の一時的な延命策に過ぎず、先住民の権利侵害含め、公平性を欠くものであると指摘する。公正な移行作業計画における議論でも日本は新たな制度的枠組を取り入れることに難色を示しており、「化石賞」の受賞対象となった。

※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。
BAMbassadors(BAM大使)を求む!(ECO抄訳11/11)
ECOは、公正な移行の呼びかけを支持する多くの締約国の声を耳にするが、具体的なフォローアップを伴わない曖昧な支持表明では、野心的で包括的かつ社会的に公正な気候行動を推進するための公正な移行は達成できない。だからこそ、ECOが真に求めるのはBAM(ベレン・アクション・メカニズム)の実践だ!
BAMとは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の新たな制度的枠組みの提案であり、現在の世界的な公正な移行の取り組みにおける断片化と不十分さに対処することを目的としている。
BAMでは、既存の公正な移行イニシアチブをマッピングし、公正な移行の取り組みがパリ協定の目標および「共通だが差異のある責任および各自の能力(CBDR-RC)」の原則に沿うことを確保させる調整と整合の機能を持ち、またベストプラクティスの共有、政策立案につながる新たな知識の創出を推進する機会を提供する。さらに、ヘルプデスクを通じた各国への直接支援、プロジェクトと資金提供者のマッチングに取り組む。
BAM大使になる準備はできているか?全ての国々が公正な移行計画を実行できるよう公正な移行を実現するために、今すぐ応募してほしい。

空席と空約束:米国州政府はベレンで真の気候リーダーシップを発揮するべきだ(ECO抄訳11/12)
COP30でのアメリカ代表団不在は多くのことを物語っている。米国政府が地球を見捨てる中、複数の州のトップが現地入りした。
しかし、もし彼らが真の気候変動対策の支持者であると認められたいなら、自国での行動が国際舞台での主張と一致していなければならない。カリフォルニア州のニューサム知事は、自州で石油大手企業に立ち向かってきた実績があるが、自らの気候変動対策公約の多くを撤回しており、石油掘削許可の拡大や水素・炭素回収・バイオ燃料といった危険で誤った方向に気候変動対策を進める策を支持し、化石燃料の延命を図っている。ニューメキシコ州のグリシャム知事は新たな石油・ガス開発を承認し続けている。
両知事は、国内でこうした言動をしておきながら、国外では「気候変動対策のリーダーシップ」をアピールしている。気候変動対策のリーダーを自称する者たちは、ベレンを舞台にBAMと世界的な公正な移行を支持するのか、それとも自国・自州で新たな石油掘削を承認しながらアマゾンで記念写真を撮るだけなのか?
真の気候変動対策のリーダーシップとは、ブラジル行きの飛行機に搭乗することではない。帰国後に何に許可を与え、資金を提供し、何のために戦うかから始まるのだ。
※ECOは、気候変動問題に取り組むNGOの国際ネットワークClimate Action NetworkがCOPなどで発行しているニュースレターです。
会場通信Kiko COP30 CMP20 CMA7 No.1
2025年11月15日 ブラジル・ベレン発行
執筆・編集:浅岡美恵、鈴木康子、菅原怜、榎原麻紀子、森山拓也、田中十紀恵、中西航

