2025年8月20日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
気候ネットワークでは、2025年7月23日に国際司法裁判所(ICJ)が国連総会の要請(国連総会決議77/276)に応じて発出した「気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見(原題:Obligations of States in respect of Climate Change)」に注目し、7月25日付けのプレスリリースで紹介しました。
今回、世界の最高位の国際司法機関で権威をもって示された意見の内容は、気候変動や人権に係る国際条約などの条約及び国際慣習法から導かれる国家の義務(その中心は緩和の義務)であること、その内容と履行についてはデューデリジェンス(相当の注意)をもって対処すべき義務であること、さらに、これらの義務の履行を怠った場合の国家が負う責任の帰結についてを明らかにしたものです。ここで示されたことは、世界の市民社会が長年、訴え続けてきたものであり、ICJがそれを、国家の法的な義務と認めたことは重要です。さらに、各国の野心の引き上げおよび重大な被害に対する各国の課題にも言及しており、COP30での議論の進展を後押しすることになることでしょう。
そこで、このたび、暫定訳ではありますが、ICJによる7月23日付のプレスリリースと、140頁に及ぶ勧告的意見全文の和訳を作成致しました。なお、今回の意見に頻繁に登場する「デューデリジェンス(due diligence)」に対応する適切な日本語がありません。今回の暫定訳では一般的に使われている「相当な注意」としていますが、デューデリジェンスには「それを尽くすために行うさまざまな行為」を含むものであることに留意が必要です。
とりわけ、気候変動対策に多くの重大な課題を残している日本にとって、極めて重要な指針を提供するものですので、今後の議論にご活用いただければ幸いです。
ICJ勧告的意見における日本の気候変動対策にとっての重要ポイント
- 地球温暖化による気候変動の影響は深刻かつ広範囲におよび、あらゆる生命体と地球の健康を脅かす、惑星の存亡にかかる問題であること(パラグラフ456など)
- 気候変動は人権の享有を著しく損なうもので、清浄で健康的かつ持続可能な環境は、多くの人権を享受するための前提条件であること(パラグラフ393)
- すべての国に、気候変動に関連する条約、人権条約、国際慣習法から、気候系の保護のために適切な措置を講じる義務があること(パラグラフ409)
- パリ協定に基づく世界の平均気温の上昇を抑制するための温度目標は、COP26(2021年)決定で示された「1.5℃」であること(パラグラフ224)
- 締約国のNDCは、「その締約国が達成できる最高水準の野心」を反映しなければならないこと(パラグラフ242)
- 各国のNDCは、時間の経過とともに、より厳しいものになる必要があること(パラグラフ241)
- 各締約国がNDCを策定する際の裁量権は限定的であること、その裁量権を行使するにあたり、相当な注意(due diligence)を払う必要があり、地球の平均気温上昇を工業化前に比べて1.5°C未満に抑えるとの温度目標を達成し、温室効果ガス濃度の安定化という全体目標を達成することを確保しなければならないこと(パラグラフ245)
- 国の相当の注意(due diligence)とは厳しいもので、その管轄下にある公的および民間事業者の活動を規制し、その実施を確保するための効果的な執行・監視メカニズムを伴うべきこと(パラグラフ282、403、427~429)
- 国の措置には、化石燃料の生産、化石燃料の消費、化石燃料の探査許可の付与、化石燃料補助金の提供を含むこと(パラグラフ42、428)。環境影響評価も対象となること(パラグラフ298)
- 義務の履行に違反した国は不法な行為を中止し、個別事案では損害賠償が認められる可能性があること
- 不法行為と損害との間に「十分に直接かつ確実な因果関係」が存在するという法的基準は、気候変動という現象に関連する課題に対処するのに十分な柔軟性があるとの見解を明記したこと(パラグラフ438)
暫定訳
ICJによる勧告的意見 プレスリリース暫定訳(PDF)
ICJによる勧告的意見 本文暫定訳(PDF)
参考(ICJウェブサイト)
ICJによる勧告的意見 プレスリリース
The Court gives its Advisory Opinion and responds to the questions posed by the General Assembly
ICJによる勧告的意見 本文
OBLIGATIONS OF STATES IN RESPECT OF CLIMATE CHANGE
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