みずほフィナンシャルグループが気候方針改定
新規の石炭関連企業向け取引を行わないと明示するも、
未だパリ協定1.5℃目標と整合せず

国際環境NGO 350.org Japan
気候ネットワーク
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ

5月17日、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)が「サステナビリティアクションの強化について」を発表しました。

環境NGOは、今般のみずほFGの気候方針改定における一定の前進を歓迎するものの、下記に示す通り、依然としてパリ協定1.5℃目標に照らして不十分であることから、さらなる方針の強化を求めます。

国際環境NGO 350.org Japanのシニア・キャンペーナーの渡辺瑛莉は、次のようにコメントしました。
「みずほFGが石炭火力発電および一般炭採掘を主たる事業とする新規顧客と取引を行わないとの方針を掲げたことは邦銀として初です。企業融資の制限に踏み込んだ点は評価できますが、パリ協定の目標達成のために、2030年に先進国で、2040年に世界全体で石炭火力の稼働をゼロにするという気候科学が示す道筋と整合しているとは言えません。移行リスクセクターの方針を明示したことも他行に先駆けた取り組みですが、現状としてパリ協定との整合性を担保できるものではありません。また、方針の適用範囲にも懸念が残ります。ネットゼロ実現のためには新規の石炭火力、炭鉱、ガス・油田の開発の余地はなく、多くの建設中のLNG設備も必要ないとするIEAのネットゼロシナリオに従い、早急にさらなる方針強化を行うべきです。」

みずほFGの新方針のポイントと問題点

①石炭火力発電
従来の「石炭火力発電所の新規建設・既存発電所の拡張を資金使途とする投融資等は行わない」という方針の抜け穴であった既存発電所のリプレースメント案件を除外し、さらに「石炭火力発電事業を主たる事業とする企業について、現在〈みずほ〉と与信取引がない企業とは、与信取引を開始しない」との方針を追加しました。石炭火力企業の新規顧客との取引を禁止したことは、邦銀として初めてであり、評価できます。
一方で、既存の顧客においても、石炭火力の新規事業計画のある顧客や、一定の基準を超えて石炭ビジネスに従事する顧客との取引を行わない方針を掲げる海外の数多くの先進事例と比べると、さらなる取り組み強化が求められます。
また、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が今春の改定で、石炭火力発電の2040年フェーズアウト目標に、従来のプロジェクトファイナンスに加え、設備紐付きのコーポレートファイナンスを含めたのに対し、みずほFGはこの点での進展がありません。(参考1、2)

②炭鉱採掘
従来の「新規の炭鉱採掘(一般炭)を資金使途とする投融資等は行わない」 に加えて、「一般炭採掘事業を主たる事業とする企業について、現在〈みずほ〉と与信取引がない企業とは、与信取引を開始しません」との規定を追加しました。一般炭採掘企業の新規顧客との取引を禁止したことは、邦銀として初めてであり、評価できます。一方で、既存の顧客との取引においては、石炭火力発電の方針と同様の問題を抱えており、さらなる方針の強化が求められます。
また、既存案件の拡張については、「温室効果ガス排出量を2050年にネットゼロとする目標を掲げる国のエネルギー安定供給に不可欠な案件に限り、慎重に検討の上、対応する可能性があり」としており、既存案件の拡張や関連インフラ事業への支援を禁じたSMBCグループの新方針と比べて、この点では劣っています。

③石油・ガス
従来、環境・社会リスク評価を実施するとしていた、「北極圏での石油・ガス採掘事業」、「オイルサンド」、「シェールオイル・ガス事業」に加えて、「パイプライン事業」を加えましたが、支援の禁止には至っておらず、こうした非在来型の石油・ガス開発への支援を禁じている海外の多くの金融機関と比べ、依然遅れを取っています(注1)。また、在来型も含めて新規の油田・ガス田の開発の余地はないとする、国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロ排出シナリオとも整合しません。

④移行リスクセクター
移行リスクセクターの対象として、従来の「石炭火力発電、石油火力発電、ガス火力発電、石炭鉱業、石油・ガスを主たる事業とする企業 」に「鉄鋼、セメント」を加え、同セクターへの対応方針を明示しています。
昨年の方針改定で加えた移行リスクセクターについて、基準の明確化を行うように、NGOからみずほFGに継続的に働きかけを行ってきました。今回、エンゲージメントの目的や内容、またエンゲージメントの結果、みずほFGがどのように対応するかについて、記述がなされたことを歓迎します。一方で、「上記に基づくエンゲージメントを初めて行った時から、1年を経過しても、移行リスクへの対応意思がなく移行戦略が策定されない場合(※) 、取引継続について慎重に判断」、「(※)移行戦略が策定されない場合とは、移行リスクへの対応方針や目標等が一切ない場合を指す」としている点は懸念です。移行戦略がパリ協定の目標と必ずしも整合していない、あるいは方針や目標を掲げたものの進展していない顧客に対しても支援が継続できると見られることから、移行リスクへの対応をパリ協定との整合性を基準にし、実施状況を踏まえての判断とするなど、より踏み込んだ対策が求められます。

なお、ガバナンスの項目中に「今般の本方針の改定について、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、米州みずほは、本方針の運用体制を整備し、2022年7月1日より運用を開始」とあることから、他のみずほFGの子会社・関連会社には適用されない可能性がある点も懸念が残ります。また、適用範囲は、株式を保有する関連会社にも広げなければ抜け穴であり続けます。例えば、みずほ銀行はベトナムのべトコムバンク(Vietcombank)の15%の株式を保有していますが(注2)、みずほFGが2020年4月の方針改訂で「石炭火力発電所の新規建設を資金使途とする投融資等は行なわない(運用開始日以前に支援意思表明済みの案件は除く)」とし、さらに2021年5月の改訂で、運用開始日以前に支援意思表示済みの案件は除くという部分を削除し方針強化したあとの2021年6月に、新規であるクアンチャック1石炭火力発電事業の融資を締結しています。(注3)

⑤電力セクターの中期(2030年)目標設定
ファイナンスを通じた温室効果ガス(GHG)排出の中期目標として、電力セクターの2030年度目標を、138~232kgCO2/MWhと設定しました。下限値はIEAのNZEシナリオ、上限値はIEAのSDSシナリオ(注4)をベンチマークとしています。MUFGが156~192gCO2e/kWh、SMBCグループが138~195gCO2e/kWh(注5)としている水準と比べて幅が大きく、低い水準となっています。また、MUFG、SMBCグループと同様に、炭素強度(排出原単位:発電量あたりのGHG排出量)で目標設定しており、GHG排出量が総量で増えても目標達成が可能なことから、3社とも同様の問題を抱えています。(参考1、2)したがって、GHG排出の絶対量の目標設定が必要です。
また、石油・ガスセクターの2030年目標を設定したMUFG、エネルギーセクター(石油ガス、石炭)の2030年目標設定を8月に公表するとコミットしたSMBCグループと比べると、みずほFGはこれらのセクターの目標設定で遅れていると言えます。

参考リンク

(1)【共同プレスリリース】MUFGが気候関連ポリシー改定と電力・石油ガスセクターの2030年脱炭素目標を公表(2022年4月1日)(リンク
(2)【プレスリリース】三井住友フィナンシャルグループの新たな気候方針はパリ協定1.5℃目標に未だ整合せず 気候変動対策の強化を求める株主提案は継続(2022年5月16日)(リンク

脚注
  1. 例えば今年3月時点で、66の金融機関・機関投資家が、オイルサンド、北極圏、シェールオイル・ガス、超深海など、非在来型の化石燃料セクターへの支援を制限する方針を有し、14の金融機関が在来型の化石燃料も含めて支援を制限するセクター方針を持つが、こうした方針を有する日本の金融機関はない。
    https://world.350.org/ja/press-release/20220322/
  2. https://www.verac-vn.com/company/company_information_bank.php?c=VCB
  3. https://en.evn.com.vn/d6/news/EVN-and-Vietcombank-signed-a-credit-contract-to-finance-Quang-Trach-I-Thermal-Power-Plant-Project-66-163-2387.aspx
  4. IEA Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)は1.5℃シナリオ、 IEA Sustainable Development Scenario (SDS)は2℃シナリオ。
  5. 1gCO2e/kWhは1kgCO2/MWhと実質的に同じ。ただし、MUFGとSMBCグループの目標で使われているCO2eは、CO2換算のため、CO2以外のガスも含まれていると解釈できる。

お問い合わせ

国際環境NGO 350.org Japan
渡辺瑛莉、japan@350.org