「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
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メコン・ウォッチ
環境NGO5団体は、経済協力開発機構(OECD)の輸出信用部会において2021年11月に改訂された石炭火力発電事業への公的支援に関する新ルール(OECD輸出信用アレンジメント)について、既設石炭火力へのアンモニア・水素混焼導入支援を可能とする日本政府の解釈に抗議し、海外の既設石炭火力へのアンモニア・水素混焼導入支援を行わないよう要請する。
2021年12月23日に開催された第77回財務省NGO定期協議において、OECD輸出信用アレンジメントに関する財務省の担当者は「(石炭火力発電所の)延命や容量増大を伴わない限りにおいて、CO2の排出削減対策のための支援は可能だという合意になっている。その中ではアンモニアの混焼も、特定して何かを定めているというわけではないが、排除されてもいない。そのような枠組みの合意になっていると我々は理解している。したがって、現時点で一切できないという合意にはなっていない。」との見解を示した[1]。
しかし、OECD輸出信用アレンジメントのパラグラフ6のdでは、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)以外のCO2削減対策技術について、参加国の要請により今後議論の対象にすると規定している。つまり、既設発電所への支援(パラグラフ6のbに規定)におけるCO2削減対策技術はCCUSに限定されており、現段階においてはアンモニア・水素の石炭火力への混焼は支援対象外となっている[2]。したがって、既設石炭火力発電所へのアンモニア・水素混焼の導入支援が排除されていないとする日本政府の解釈は誤りである。
アンモニア・水素は燃焼時にCO2を排出しないため、石炭火力発電に混焼すれば発電時の排出量は削減される。しかし、現状ではアンモニア・水素は化石燃料から製造されるものが主であり、そうしたアンモニア・水素の製造時に発生するCO2は、製造国において排出されることになる。CO2を回収する方策として見込まれているCCS/CCUSが2030年までに商業的に実用化する見込みは非常に薄いことから、アンモニア・水素混焼は持続可能な解決策とはならない。削減効果も限定的で、化石燃料由来のアンモニア(ブルーアンモニア)を20%混焼した場合のCO2排出削減効果は4%程度にしかならないと算定されている[3]。
2021年5月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書[4]によれば、2050年までにネットゼロを達成するためには、世界全体で2040年までに発電セクターのネットゼロ達成が必須である。石炭火力事業からのフェーズアウトが急がれる中、石炭火力の延命策となるアンモニア・水素混焼技術への支援は、パリ協定の1.5度目標と整合せず、世界の気候変動対策と逆行するものである。
したがって、日本政府はOECD輸出信用アレンジメントの解釈を見直し、海外の既設石炭火力へのアンモニア・水素混焼導入支援を行わないことを表明するべきである。
脚注
- http://jacses.org/1599/
- https://www.oecd.org/trade/topics/export-credits/documents/Participants%20agreement%20on%20coal-fired%20power%20plants%20(02-11-2021).pdf
- https://www.kikonet.org/info/publication/hydrogen-ammonia
- https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
本件に関するお問い合わせ先
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、担当:田辺 tanabe@jacses.org