【プレスリリース】国際協力銀行に対しベトナム・ブンアン2石炭火力への融資を行わないよう求める 要請書提出 - 公的資金で汚染を輸出しないで

本日、国内外の環境団体など30団体は、日本の公的金融機関である国際協力銀行に対し、ベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業への融資を行わないよう求める要請書を提出しました。事業予定地では既存の工場や発電所に起因する廃棄物で深刻な汚染問題が進行しています。

要請書を提出した環境団体の一つであるFoE Japanの深草亜悠美は「気候変動影響が深刻化し、日本でも大きな被害が出ている。一刻も早い脱石炭が求められる中、日本はいまだに石炭火力発電所の輸出を続けている。日本は、持続可能で地域住民の意思を尊重した支援を行うべき」とコメント。

また、環境団体Market ForcesのリーガルアナリストBernadette Maheandiranは、「ブンアン2の建設は、地域の人々の健康や生計手段を脅かし、排出を最小限に抑えなければいけないはずの温室効果ガスも大量に排出する。同事業への融資は日本の国際的な評価を下げるだけでなく、再生可能エネルギーの価格が下落しているベトナムにおいては事業が”座礁資産”になるリスクもあります。JBICはこの事業への融資を行うべきではありません」とコメントしています。

詳しくは要請書(PDF)をご覧ください。

要請書本文

国際協力銀行
代表取締役総裁 前田匡史様

ベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業に関する要請書

 ベトナム中部ハティン省の経済区に600メガワットの石炭火力発電所2基を建設するブンアン2石炭火力発電事業において、貴行及び大手民間銀行による協調融資の可能性が報道されています[1] 。また、日本貿易保険ならびに大手保険会社による付保の可能性も想定されます。同案件は、三菱商事の100%子会社であるDiamond Generating Asia Limitedが、CLP Holdings Limited(本社:香港) と共同出資するOneEnergy Limitedが行うものです。
私たち環境団体は同案件について以下に述べるような懸念を抱いており、貴行に対し、同案件はもちろんのこと、いかなる新規石炭火力発電事業への融資も行わないよう要請します。

気候変動による災害の深刻化
世界中で、また日本国内でも、気候変動の影響は目に見えて悪化しています。今年9月には日本でも、特に千葉県において、台風15号による大きな被害がありました。その災害の傷も癒えないまま、10月には巨大台風19号が襲来し、より広範囲で甚大な被害をもたらしたばかりです。これ以上の気候変動による被害を食い止めていくために私たちに残された時間はとても短く、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電から一刻も早く脱却する必要があります。
新規石炭火力発電所の建設がパリ協定の1.5℃目標に整合しないのは明らかですが、1.5℃目標を達成するためには既存の発電所も順次閉鎖していく必要があります。日本政府が先だって発表した気候変動長期目標(「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」)では、「海外におけるエネルギーインフラ輸出をパリ協定の長期目標と整合的に世界の CO2 削減に貢献するために推進していく」としています。そうであれば、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電所ではなく、環境負荷が小さく温室効果ガスの排出の少ない、分散型自然エネルギーや省エネルギー技術などを支援すべきです。

石炭ではなく持続可能なエネルギーへの支援を
気候変動とその影響への懸念が高まる中、化石燃料関連企業からのダイベストメント(投資撤退)が進んでいます。特に石炭火力発電事業および炭鉱開発事業については、石炭火力関連事業に関する与信ポリシーを変更する金融機関、保険会社らも増えてきました。
今年9月にカーボントラッカーが発表したレポートによれば、ベトナムにおいても2022年までに既存の石炭火力発電の操業コストより太陽光発電の建設コストのほうが安価になると分析されています[2] 。日本政府が2018年7月に策定した第5次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案(する)」と規定されています。また、「経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り(支援する)」としています。したがって、経済性の観点からも十分に合理的な代替案を有するベトナムに対して、これ以上の石炭火力発電事業を支援することは、基本計画に反しています。

複合汚染の深刻化
ブンアン2石炭火力発電所が建設される予定の地域には、すでにブンアン1石炭火力発電所や2016年に深刻な大規模海洋汚染を起こして魚の大量死を招いたフォルモサ社の製鉄工場、またフォルモサ社の発電所(石炭およびガス)が存在します [3]。これらの施設からの排水や排気、石炭灰による環境汚染が、すでに住民の健康被害につながっている可能性が多数報告されています [4]。
新規石炭火力発電事業への支援は、気候変動をさらに加速させ、発電所の周辺コミュニティに生計手段の喪失や、大気汚染の悪化などの影響をもたらします。 グリーンピースによるレポートでは、日本が海外に輸出するすべての石炭火力発電所で、日本では使用されていない低効率の技術や低レベルの汚染物質対策しか取られていないことが明らかになりました[5] 。
すでに現地では多大な環境汚染が進行しています。新たな石炭火力発電所を建設することは、地元にさらなる複合汚染を押し付けることになります。

以上のことから、貴行に対し、これ以上の石炭火力発電事業への融資を止めること、とくにブンアン2石炭火力発電事業においては融資要請に応じないよう求めます。
加えて、三菱商事はベトナム・ビンタン3石炭火力発電事業にも出資を行なっていますが、この案件に関しても、融資要請に応じないよう求めます。

以上

CC:
財務大臣 麻生太郎様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田篤郎様
三菱商事 代表取締役 社長 垣内威彦様
三菱UFJ銀行 取締役頭取執行役員 三毛兼承様
みずほ銀行 取締役頭取 藤原弘治様
三井住友銀行 頭取CEO(代表取締役) 高島誠様
三井住友信託銀行 取締役社長 橋下勝様
東京海上ホールディングス取締役社長 小宮暁様
MS&ADホールディングス 代表取締役 取締役会長 会長執行役員 鈴木久仁様
SOMPOホールディングス グループCEO代表執行役社長 櫻田謙悟様

[脚注]

  1. VNA “JBIC provides 200 mln USD credit for Vietnam’s energy projects” https://en.vietnamplus.vn/jbic-provides-200-mln-usd-credit-for-vietnams-energy-projects/155336.vnp 2019年7月1日
  2. Carbon Tracker “Here comes the sun (and wind) Vietnam’s low-cost renewables revolution and its implications for coal power investments” https://www.carbontracker.org/reports/here_comes_the_sun/ 2019年9月
  3. フォルモサの発電所・製鉄所はブンアン 2石炭火力発電所予定地から10キロメートル未満の場所に位置している。
  4. Mekong Eye ” Vietnamese provinces say “no” to coal plants―government and industry still want more” https://www.mekongeye.com/2019/03/07/vietnamese-provinces-say-no-to-coal-plants-but-the-government-and-industry-build-more/ 2019年3月7日
  5. Greenpeace South East Asia, Greenpeace Japan “A deadly double standard how Japan’s financing of highly polluting overseas coal plants endangers public health” 2019年8月

*賛同団体については、PDFをご確認ください。