日本の温室効果ガス排出の実態が明らかに
~パリ協定「1.5~2℃目標」への道筋はパラダイムシフトを念頭にした制度強化が鍵~
2018年11月22日
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
気候ネットワークは、政府の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による情報開示請求を行い、「日本の大口排出源の温室効果ガス排出の実態―温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による2015年度データ分析」をとりまとめた。
この分析で、2015年度の日本の温室効果ガス排出量の半分以上がわずか約130の発電所と工場による排出であることが明らかになり、日本の温室効果ガスの排出構造は、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」が始まって以来10年間で全く変わっていないことが判明した。温室効果ガスの巨大な排出源となっているのは、発電所、製鉄所、セメント工場、化学工場、製油所、パルプ・製紙工場の6業種である。また、79発電所の排出量が日本の総排出の約3分の1を占め、またその半分(日本全体の17%)は35の石炭火力発電所から排出されている。
これら発電部門や産業部門での温室効果ガスの排出に対しては、事業者に削減を義務化する規制や、削減のための経済的インセンティブとなるカーボン・プライシングの導入が検討されながらも、産業界の強い反対によって導入されなかった。そして、経団連の「自主行動計画」や「低炭素社会実行計画」に示された業界の自主目標だけで対応してきた。一部の大口排出産業の主張によって、限られた雇用や経済影響だけを考慮した結果、国内の排出構造は全く変わらず、大幅削減どころか、京都議定書の基準年1990年よりも排出量が多い状態が続いている。それだけではなく、既得権を保護することによって、新たな省エネルギーや再生可能エネルギーなどの環境ビジネスの育つ機会を閉ざすことになった。
パリ協定で定める「気温上昇を工業化前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃を目指」し、「温室効果ガス排出量を今世紀後半には実質ゼロにする」という目標を実現するには、省エネ・再生可能エネルギー・脱石炭で脱炭素化への舵切りと早急なパラダイムシフトが不可欠である。しかし今後、日本の電源構成や産業構造に伴う排出構造が変わらない限り、これらの目標は実現できず、気候変動のリスクを極めて深刻なものにするだろう。とりわけ、排出量が巨大な石炭火力発電所を重要なベースロード電源とし、新規計画を推進するような施策は気候変動政策に逆行するものであり、直ちに見直すべきだ。世界市場が脱炭素に向かって急速に動く中、日本の対策が遅れをとることで、日本経済にとって産業・雇用の発展の芽をつぶし、国内産業・地域経済の自立的発展を阻害することになりかねない。
これまでの「気候変動政策」の延長では不十分である。日本政府は、パリ協定の目標達成に向け、IPCC1.5℃特別報告の警告を真摯に受け止め、排出削減目標「2030年に2013年度比26%削減」を見直して引き上げるべきである。その目標達成のため、石炭火力発電所の新設計画の中止及び既設の廃止をただちに開始し、カーボンプライシングの導入を行うなど、気候変動対策を強化するべきである。
プレスリリース本文
【プレスリリース】日本の温室効果ガス排出の実態が明らかに ~パリ協定「1.5~2℃目標」への道筋はパラダイムシフトを念頭にした制度強化が鍵~(2017/11/22)
データ分析レポート
日本の温室効果ガス排出の実態 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による2015年度データ分析(本文)
参考ページ
温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による平成27(2015)年度温室効果ガス排出量の集計結果の公表について
これまで気候ネットワークによるデータ分析
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