2017年9月7日、気候ネットワークは、「第五次環境基本計画策定に向けた中間取りまとめ」に対する意見書を提出しました。
「第五次環境基本計画策定に向けた中間取りまとめ」に対する意見
2017年9月7日
NPO法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
<第1部>環境の状況と環境政策の展開の方向
第1章2.我が国の環境に関する状況<環境の状況>
「一方で、原子力発電所の運転停止の長期化等により、 電力由来CO2排出量に占める石炭火力発電の割合は引き続き増加傾向にあり」とあるが、2014年は大半の原発が停止しているにもかかわらず、CO2排出量も若干の減少に転じた。省エネの効果と再エネの拡大に起因すると環境省も分析しているとおりであるため、記述に加えるべきではないか。
再生可能エネルギーについて、「一層の導入拡大の傾向が見られる」とあるが、これまでに急増したのは太陽光発電にかなり偏っている傾向がみられ、その他の分野についてはもっと大幅な拡大を目指せる。こうした現状をふまえた修正が必要ではないか。
第1章2.我が国の環境に関する状況<環境に関する取り組み状況>
「パリ協定を踏まえ、達成すべき中期目標として 2030 年度に 2013 年度比 26% 削減を掲げるとともに」とあるが、中期目標はパリ協定採択よりも前に設定した目標であり、「パリ協定」をふまえれば、世界全体で目標を足し合わせてもパリ協定で求める水準には達せず、とりわけ低い目標設定としている日本の「2013 年度比 26% 削減」は見直し、もっと野心的な目標へと再設定することが求められる。したがって、この部分は「パリ協定をふまえれば」ではなく、「COP21よりも前に設定した」との修正が必要ではないか。
第2章1.目指すべき持続可能な社会の姿及び環境政策の果たすべき役割<環境政策の果たすべき役割(以下略)>
ここでは、環境政策の役割におけるイノベーションの重要性が強調され、「更なる研究開発を通じた技術のイノベーション」などが必要であるとされている。イノベーションが重要であることは異論ないが、それに過度に頼ることは環境問題の解決を先送りさせてさらなる環境の悪化を招くものであり、すでに存在する技術の普及促進を図り、諸外国の事例や研究を踏まえながら、社会システムにドラスティックな改革を起こすことも環境政策の役割であることに言及するべきである。
例えば気候変動分野では、既存の技術を用いて、エネルギー効率の悪い旧型機器を最新のものに取り替えたり、断熱改修などの対策を行うことで省エネを推進し、CO2排出量を大幅に削減させることができる。また、現在、43基の石炭火力発電所の新設計画があるが、これらを中止するとともに既設の石炭火力発電所を順次閉鎖させていくような政策を実施することで、イノベーションを待たなくとも効果的な対策を打つことができる。
<第2部>今後の環境政策の具体的な展開
第1章1.個別分野における行政計画を踏まえた重点戦略の設定<重点戦略の設定の考え方>
「環境負荷を抜本的に低減させていくための手段の一つとして、環境技術の研究・開発・実証・普及」が必要不可欠であることの代表例に「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこと」が挙げられている。このような表現は、上述のように、気候変動対策をイノベーションに頼り、問題解決を先送りしようとしているように受け取られる。再生可能エネルギーを普及させ、省エネをすすめることにより、新たな技術がなくても2050年に80%以上削減することは技術的に可能であることは研究でも示されており、この記述は削除するべきである。
第1章2.パートナーシップの充実・強化
「ニーズに応じた環境情報を提供し、施策の実施段階のいずれかにおいてパートナーシップを充実・強化していくことが必要不可欠」とされているが、いずれかの段階ではなく計画から実施に至る全ての段階でのパートナーシップの強化を図ることが重要である。パートナーシップの充実・強化がとりわけ求められる取り組みが挙げられているが、環境教育や啓発活動に止まらず、政策決定過程においても市民が携わることができるようにするべきである。また、その基盤として、例えば各発電所のCO2の排出に関する情報や政策決定過程についてなど、事業者や行政機関などが持つ情報を市民に公開することが肝要であり、本計画においては情報公開を進めていくことを明記するべきである。
第1章3.重点戦略(1)持続可能な経済社会の構築
炭素税や排出量取引といったカーボンプライシングについて言及するべきである。現在すでに検討が始められ、今後の気候変動対策においては、何らかの方法を導入することが必須であるが、中間とりまとめ案では触れられていない。具体的な事項については、今後追記されるとあるが、その中では必ず言及するべきである。