2026年6月8日から18日にかけて、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第64回補助機関会合(SB64)がドイツ・ボンで開催され、気候ネットワークスタッフもオブザーバーとして参加しました。11月にトルコ・アンタルヤで開催されるCOP31に向けた準備会合として、公正な移行、適応、緩和(排出削減)等の議題について各国交渉官が議論しました。

1.補助機関会合(SB)とは?

 国連気候変動枠組条約の交渉会議には、COP(締約国会議)の他に、2つの役割の異なる常設の補助機関であるSBSTA(科学上及び技術上の助言に関する補助機関)とSBI(実施に関する補助機関)があります。これら2つの補助機関の会合(SB:Subsidiary Bodies)では各国交渉官による実務的・専門的な交渉や議論が行われ、COPに提言を送ります。毎年6月頃にドイツのボンで開催される補助機関会合は、COPの準備会合として位置づけられており、COPでの合意に向け、ここでどこまで議論を進められるかが重要となります。

2.SB64の結果概要

 SB64の主要な交渉議題・交渉外の動きの結果は以下のとおりです。

公正な移行:公正な移行作業計画(JTWP)では、公正な移行メカニズムの運用化に向けた議論やJTWPのレビューに関する付託事項(ToR)の策定が進みました。

緩和:緩和作業計画(MWP)では、作業計画の継続や実施方法について意見がまとまらず、議論がCOP31に先送りとなりました。

適応:適応に関する世界全体の目標(GGA)では、「適応資金3倍」をめぐって対立し合意に至りませんでした。

アクションアジェンダ:COP31議長国のトルコが「2035年までに世界の電化率35%に引き上げる」という目標を発表し、各国に呼びかけました。

その他、貿易、資金、グローバル・ストックテイク、海洋等多くのテーマで関連イベントが開催され、意見交換が行われました。

3.主な交渉議題やイベントでの議論

公正な移行

 公正な移行とは、脱炭素社会への移行において産業や雇用の移行による影響を踏まえ、経済や社会の安定を守りながらより良い社会を作っていくための考え方です。COP27で「公正な移行作業計画(JTWP)」の設立が決定し、COP30ではその具体的な実施のための公正な移行メカニズムを設立することに合意し、運用化に向けた議論が進められています。

公正な移行作業計画(JTWP)の議論は、主に3つのテーマ(JTWPのレビューのための付託事項(ToR)の最終化、JTWPの第5回対話の振り返り、公正な移行メカニズムの運用化)を軸に議論が進み、一定の前進が見られました。

 公正な移行メカニズムについては、メカニズムの位置づけや目的などについて議論が行われました。メカニズムを独立した機関として位置づけることや、運用にあたり必要となる資金メカニズムを作ることなどについては、締約国間で意見が分かれました。さらに、公正な移行の実施について言及している既存の枠組みを整理したうえでそれらを最大限活用するべきであるという意見も共有されました。

 より焦点が当たったのがJTWPのレビューに関する付託事項(ToR)の策定でした。JTWPのレビューや継続の検討をCOP31で行うことになっており、SB64ではレビューのための要項を最終化させる必要がありました。

 会議後半の6月16日、交渉議長はJTWPのレビューに関する付託事項(ToR)と公正な移行メカニズムの策定に向けて合意が必要となる項目を盛り込んだ非公式ノートを含むパッケージを作成し、各国にこれを受け入れるよう求めました。公正な移行メカニズムの項目については、その目的や機能、モダリティ、タイムラインなどの必要事項が含まれていることから、メカニズムを引き続き検討するための足場づくりができたと評価できます。パッケージの内容については共同議長が各国の意見を反映させるべく一部修正を行うなどの調整がありましたが、閉会式でこのパッケージが採択されました。

(JTWP結論文書(ToR含む)https://docs.unfccc.int/documents/10000221 、非公式ノート https://docs.unfccc.int/documents/10000184 )

 また、各国が排出削減を進める目的で貿易ルールを導入することが気候変動対策を後押しする可能性がある一方で、経済的損失をもたらす可能性も指摘されるなど、貿易も気候変動と多面的に関わっています。

 昨年ブラジルで開催されたCOP30で、気候変動と貿易に関する対話(Dialogue on trade and climate change)の開催が決まりました。2026年から2028年かけ、SBで3回の対話を行ったうえで成果をまとめることになっており、SB64でその第1回イベントが行われました。

 イベントは世界貿易機関(WTO)、国際貿易センター(ITC)、国連貿易開発機構(UNCTAD)によるプレゼンテーションから始まり、貿易措置の公平性に関する課題や今後の対話の位置づけ、内容などに関する意見交換がおこなわれました。貿易措置の公平性に関しては、EUの国境炭素調整措置(CBAM)を例とする貿易に係る一方的制限的措置(UTM)についても議論となり、アラブ諸国や一部の途上国は、こういった措置が発展途上国に損失をもたらす可能性があることや、先進国が一方的な対外規制を押し付けているなど述べました。次回の対話は来年6月のSB66で行われる見通しです。

緩和の野心と実施の強化に向けた議論は膠着

 緩和作業計画(MWP)は、COP交渉において緩和(排出削減)に焦点を当て議論する唯一の交渉議題で、意見、情報、アイデア交換のための対話の実施および年次報告書の作成が行われています。この作業計画は2026年で終了予定であり、COP31までに緩和作業計画を継続するかどうかの結論を出すことが求められています。SB64では作業計画の継続や実施方法、他の議題(資金やグローバル・ストックテイク等)との連携のあり方について議論がおこなわれました。

 日本を含む先進国は緩和作業計画の継続を念頭に意見を述べ、気候変動の影響を大きく受ける太平洋島嶼国やラテンアメリカの国々も今後のNDC策定やグローバル・ストックテイクへの情報提供といった役割を期待する発言をしていました。一方、一部のアラブ諸国や新興国は、そもそも継続することは各国の総意ではないことを主張し、2030年を超えて継続することも緩和作業計画を他の作業計画等と関連づけることにも反対しました。結局、取りまとめることができず、議論はCOP31に先送りとなりました。

<写真の説明:緩和作業計画の交渉会議では何度もハドルが行われた。ハドルとは会議室の一角に交渉官が集まり、マイクを通さない非公式な意見交換を行うことで、議論が膠着したときによく行われる。>

 脱化石燃料ロードマップはCOP30議長のリードのもと、交渉外で策定が進められてます。SB64ではCOP30議長によるイベントが行われ、これまでに各国やオブザーバー等から提出された意見の共有や、コロンビアとオランダからの「第1回化石燃料からの移行に関する国際会議(First Conference on Transitioning Away Fossil Fuels)」の報告のほか、各国やオブザーバーによる意見交換が行われました。ロードマップはCOP31までに最終化され、発表される予定です。

 Belem Mission to 1.5は、NDC(国が決定する貢献)およびNAP(国別適応計画)の野心と実施を加速させるための機会を特定し、国際協力と投資を強化する方法を検討することを目的にCOP30で設立が決まりました。SB64でもNDCやNAPの作成・実施を促す要素やソリューション、国際協力に求められることに関する意見交換が行われました。

 Belem Mission to 1.5とともにCOP30で設立が決まり、補完関係にあるのがGlobal Implementation Acceleratorです。Global Climate Action Agendaから生まれた「解決策」のうち、世界規模での変革的な変化を推進する潜在力が最も高いものを選定し、支援するという取り組みです(コンセプトノート)。SB64では、締約国やオブザーバーが進め方に関する意見交換をおこないました。

気候資金をめぐる意見の対立

 気候変動対策の実施を加速させるには手段、とりわけ資金(気候資金)の議論は避けて通れません。気候資金はCOP交渉においての主要な争点であり続けています。資金をめぐる意見の対立はさまざまな議題の交渉の場でも見られるようになり、今回も、気候ネットワークがウォッチした緩和や公正な移行などの交渉会議において資金に関する議論が提起されており、引き続きCOP31でも重要な論点となるでしょう。

 その他、SB64でも気候資金に関する交渉やワークショップ等が開催されました。そのひとつが、気候資金について定めたパリ協定9条に関する、気候資金作業計画(work programme on climate finance)です。SB64では3回のワークショップが開催され、作業計画がカバーする範囲や実施方式についての意見交換がおこなわれましたが、先進国から途上国への資金支援に焦点を当てたい途上国と、気候資金全体を取り扱いたい先進国との間で意見が分かれました。

 資金をめぐる議論で交渉が難航したのが 適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation, GGA) の交渉です。気候変動による影響を軽減する適応の取り組みを進めるためのグローバルな目標について議論するGGAの交渉では、COP30にて適応目標の進捗を測る59の指標が採択されるとともに、途上国への適応資金(適応策を講じるための資金支援)を2035年までに3倍とすることが合意されました。SB64では途上国グループがGGAの結論文書に適応資金3倍の文言を入れるよう求めましたが、これについて途上国と先進国の意見が対立。他の論点についても意見がまとまらず、議論はCOP31に先送りされることとなりました。

アクション・アジェンダ

 アクションアジェンダとは、国連の正式なプロセスとは別に気候変動対策を推進するための非国家アクターを中心とした取り組みです。様々な非国家アクターがテーマに応じてグループを作り、それぞれが持つ解決策を共有、一般公開することで気候変動対策の実施の底上げを図ります。

 SB64では、COP31のアクションアジェンダに関する記者会見やイベントが行われました。アクションアジェンダを主導する議長国トルコは「電化」をテーマの一つとして掲げ、主に3つのセクター(運輸、建築物、産業)に焦点をあてた「2035年までに電化率35%」という目標を掲げ、各国に行動を呼びかけました。電化を進めることにより、エネルギー市場の激しい価格変動から家庭や企業を守ることができると主張しました。また、電化に加え廃棄物対策にも力を入れるとしており、2035年までに世界の廃棄物増加量を半減させることも、アクションアジェンダの目標の一つとなっています。

電化の目標に関するトルコのプレスリリース

その他の動き

 SB64では、科学をいかにUNFCCCのプロセスに反映させるかという議論もありました。特に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第7次評価報告書をCOP31から始まる第2回グローバルストックテイク(GST2)に取り入れることについては、その実施サイクルのずれをどのように克服するかが課題となっており、引き続き議論が続きます。

 さらに、近年、国連気候変動枠組条約の会議において、NGOを始めとする市民社会のスペースが縮小しているということについても、懸念の声が聞かれました。交渉会議のロジや進め方等について議論する政府間会合のアレンジメント(Arrangements for Intergovernmental Meetings, AIM)の交渉では、会議を効果的に進めるための改善案だけでなく、NGO・市民社会などオブザーバーの公平な参加などについても話し合われ、一部の締約国は参加に必要なビザ手続きの遅延や財政的制約、アクセシビリティの課題、安全上の懸念といった問題について共有しました。

4.COP31に向けた課題

 COP31は11月9日~20日にトルコのアンタルヤで開催されます。COP31はトルコとオーストラリアのパートナーシップ方式という初めての開催形式となります。トルコが議長国として会議をホストするとともに、COP31アクション・アジェンダ等を担当します。そして、オーストラリアは交渉議長としてCOP交渉をリードします。

 COP31では、世界全体の気候変動対策の進捗を評価し、今後に向けた行動を提言する、第2回グローバル・ストックテイク(GST2)のプロセスも始まります。アメリカのパリ協定脱退など、多国間協調主義が揺らいでいる今、COP31では多国間協調のもと、科学的知見を真摯に受け止め、実施の議論に向き合い、各国の約束を具体化させるための政治的なシグナルを発信できるでしょうか。

 トルコとオーストラリアはCOP31を「実施のCOP(Implementation COP)」であると同時に「未来に向けたCOP(COP of the Future)」としても位置づけています。パリ協定のルール作りが完了し、COP交渉ではパリ協定や第1回グローバル・ストックテイクの成果(緩和分野では化石燃料からの脱却、再エネ3倍、エネルギー効率2倍が合意された)にもとづき、各国がいかに気候変動対策の計画を立て、それを「実施」に移すかが課題になっています。しかし、近年の交渉の場では「約束から実施へ」を掲げながらも、合意内容を実施に移すための具体的な資金や枠組みの話題となると途端に議論が膠着してしまいます。SB64でも、緩和作業計画やGGAといった重要議題において進展が見られませんでした。電化の呼びかけなど、アクション・アジェンダ等の枠組みを活用して実質的に気候変動対策を加速させていくことも重要ではありますが、今回結論が先送りになった緩和、適応等交渉議題での合意に向け、議論のリードや調整をしていくことも求められます。

 日本政府は、SB64では各国にパリ協定の野心強化メカニズムに則った気候変動対策の実施を促しましたが、議長国トルコが呼びかけた電化や、これまで公開の会議の場であまり語ることのなかった「化石燃料からの脱却」についても踏み込んだ議論をしていくことが求められます。また、資金については、とりわけ無償資金協力の役割や機能、アクセスの改善等の議論に貢献することで、途上国からの信頼も得て、多国間協調主義の維持や強化につなげていくことが期待されます。

SB64後の国際的な気候変動交渉・対策の主なスケジュール

時期内容
2026年6月20日~28日London Climate Action Week(英国・ロンドン)
2026年9月8日~22日第81回国連総会(アメリカ・ニューヨーク)
2026年9月20日~27日Climate Week NYC(アメリカ・ニューヨーク)
2026年11月9日~20日COP31(トルコ・アンタルヤ)
2026年12月G20サミット(アメリカ・マイアミ)

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