2006年6月5日

温暖化防止情報開示訴訟 非開示事業所の半数を「開示」に変更

 

気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵

■情報開示請求と訴訟提起の経緯

(1)エネルギー消費量の情報開示請求

気候ネットワークでは、2004年6月、省エネ法第1種事業所の2003年度エネルギー消費(熱と電気)に関する定期報告の情報の開示請求を行った。その結果、対象事業所の85%(4283事業所)については開示がなされたものの、残り15%(750事業所)については開示されず、全容を解明するに至らなかった。

(2)東京・名古屋・大阪地裁において訴訟を提起

大規模エネルギー消費事業所の上記定期報告情報は実効性ある温暖化対策に不可欠の情報であることから、非開示決定に対して審査請求を行うとともに、一部の代表的事業所についてモデル訴訟として、2005年7月に近畿経済産業局管内の7の代表的大口排出事業所について大阪地裁へ、また、中部経済産業局管内の9事業所についての名古屋地裁へ、さらに2005年8月にその余の経済産業局管内の12事業所について東京地裁へ、非開示決定処分の取消と開示を求める訴訟を提訴した。

■訴訟対象事業所のうち約半数が「開示」に変更 ~決定の違法性を露呈

訴訟提起から10ヶ月が経過した2006年5月になって、経済産業省は突然、訴訟対象事業所の半数(28のうち14)にあたる事業所の非開示決定を「開示」に変更する旨決定し、今日までに開示文書が送付された。
 これまでの訴訟の審理で、もともと、経済産業省が事業所から聴取した開示・非開示の意思に従って非開示決定をしたものであることが明らかになっている。今般、開示に転じたのも、訴訟対象事業所に改めて非開示情報とする根拠と開示・非開示の意見の変更の有無を確認したところ、地球温暖化問題への取組方針等を理由に開示に応じたためというものである。このような経過そのものが、経済産業省の非開示決定処分の違法性を露呈したものである。

 

■なお非開示を主張する企業の「言い分」

残る14事業所は、今なお開示に反対していることがわかる。
 これまでに名古屋地裁において、新日鉄・東ソー・三菱化学の3社が、事業所単位のエネルギー消費量が明らかになると製品の製造コストに占めるエネルギーコストの割合が明らかになり、同業他社との競争や取引先との価格交渉において不利益が生じ、エネルギー効率化の技術水準が知られ、当該事業者の権利、競争上の地位に不利益が生じるおそれがある等のべて非開示を求める意見書を提出し、証人尋問を申請している。?
 しかしながら、定期報告にかかる数値情報は多様な製品を製造する事業所全体の1年間のエネルギー種別消費量に過ぎず、さらに製造にかかる固定費(設備設置費、資材費等)や労務費など様々な諸経費があることに照らせば、これらの主張は根拠に欠ける。しかも、高炉による製鐵業を除けば同業他社の多くが開示に応じているなかでは、このような抽象的危惧論において非開示を固持しようとする企業体質自体が問われるべきだろう。
 さらに、慶応義塾大学の石谷久教授(総合エネルギー調査会省エネルギー部会長)も5月22日付で、名古屋地裁に対し非公開が正当だとする意見を提出した。しかし、その論旨の中では「エネルギー消費量そのものはよほど資源枯渇が進展してエネルギーの深刻な取り合いが発生しない限り、一般市民に何ら影響を及ぼすものではなく、市場の価格で公正に取引される限り、このような情報が公開されなければならないという理由は見いだしにくい」などとし、地球温暖化の最大の要因としてエネルギー消費があること自体の認識を欠くものとなっている。

■訴訟対象外の非開示事業所も開示に転じる時

今般、開示に転じた事業所については、遅きに失したとはいえ、地球温暖化問題へのあるべき取組姿勢に立ち返ったことは評価される。情報公開審査会において審理中の訴訟対象以外非開示事業所(722事業所)についても、同様の事業所が少なくないものと思われる。速やかに開示に変更する決定がなされるべきである。
 また、非開示を主張する業種が製鐵業と一部化学工業に限定されたことから、省エネ法定期報告情報の情報公開問題は、それらの業種の非開示事由の存否に絞られたといえる。気候ネットワークとしては、訴訟の早期結審、判決に向けてさらに取り組む所存である。

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開示状況

■東京地裁・訴訟対象12事業所

  • ×非開示のまま 新日本製鐵(株)君津製鐵所千葉県
  • ×非開示のまま JFEスチール(株)西日本製鉄所(福山地区)広島県
  • ×非開示のまま 三菱化学(株)鹿島事業所茨城県
  • ×非開示のまま 昭和電工(株)大分工場大分県
  • ×非開示のまま 東ソー(株)南陽事業所山口県
  • ×非開示のまま 旭化成せんい(株)レオナ繊維長浜工場宮崎県
  • ○開示へ変更 太平洋セメント(株)上磯工場北海道
  • ○開示へ変更 三菱マテリアル(株)九州工場福岡県
  • ○開示へ変更 大王製紙(株)三島工場愛媛県
  • ○開示へ変更 新日本石油精製(株)根岸製油所神奈川県
  • ○開示へ変更 東燃ゼネラル石油(株)川崎工場神奈川県
  • ○開示へ変更 日産自動車(株)追浜工場神奈川県

■大阪地裁・訴訟対象7事業所

  • ×非開示のまま (株)カネカ高砂工業所兵庫県
  • ×非開示のまま 花王(株)和歌山工場和歌山県
  • ×非開示のまま (株)神戸製鋼所加古川製鉄所兵庫県
  • ×非開示のまま 住友金属工業(株)和歌山製鉄所和歌山県
  • ○開示へ変更 東燃ゼネラル石油(株)和歌山工場和歌山県
  • ○開示へ変更 住友大阪セメント(株)赤穂工場兵庫県
  • ○開示へ変更 日本ハム(株)兵庫工場兵庫県

名古屋地裁・訴訟対象9事業所(網掛けは今回開示へ変更)

  • ×非開示のまま 新日本製鐵(株)名古屋製鐵所愛知県
  • ×非開示のまま 東ソ-(株)四日市事業所三重県
  • ×非開示のまま 三菱化学(株)四日市事業所川尻工場三重県
  • ×非開示のまま 三菱化学(株)四日市事業所四日市工場三重県
  • ○開示へ変更 出光興産(株)愛知製油所愛知県
  • ○開示へ変更 昭和四日市石油(株)四日市製油所三重県
  • ○開示へ変更 横浜ゴム(株)新城工場愛知県
  • ○開示へ変更 横浜ゴム(株)三重工場三重県
  • ○開示へ変更 明治乳業(株)愛知工場愛知県

以上

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
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