2014年5月20日

なぜヒートポンプ給湯器の冷媒にフロン(HFC32)を使ってはならないか

認定NPO法人 気候ネットワーク

 気候ネットワークは2014年4月22日、関係4団体とともに共同声明「家庭用ヒートポンプ給湯器は自然冷媒が主流自然冷媒からフロン(HFC32)への逆行にブレーキを」を発表しました。これまでCO2を冷媒として使うことが主流となっていた家庭用ヒートポンプ給湯器でなぜHFC32を使うことが認められないのか、声明への補足として以下にその論点をまとめました。

ヒートポンプ給湯器の冷媒にフロン(HFC32)を使ってはならない理由

1.法制度上の問題 

フロン類対策については、回収率の低迷、使用時漏洩量の多さなどから、昨年6月に「フロン回収破壊法」が抜本的に改正され、生産段階からの削減を含む制度となった。

その「改正フロン法」においては、指針が定められることとなっており、現在審議中の指針案では「将来目指すべき姿」として「中長期的にフロン類を根絶する」ことが示されたところである(2014年5月15日合同審議会)。従って、自然冷媒が主流となっているヒートポンプ給湯器においてHFC32を新たに開発商品化することは法の精神にも反するものであり、コンプライアンス上問題である。

2.フロン類の温暖化係数(GWP)  

フロン類の温暖化係数については気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で示されたGWP値が採用されているが、HFC32は、20年値で2430、100年値で677とされた。非常に高い温室効果を持つガスである。政治的には100年値が採用されているが、短期的に実際の環境に与えるインパクトがCO2の2430倍も大きいとされることは配慮すべきである。

3.CO2冷媒との比較で効率は低い   

家庭用ヒートポンプ給湯器の冷媒としてCO2が採用されているのは、効率が良いからである。現在、CO2ヒートポンプ給湯器は省エネ法の対象機器として高効率化に向けた市場競争がはじまっている。HFC32で同じパフォーマンスを出すためには、結局CO2ヒートポンプ給湯器と同等のイニシャルコストがかかると考えられ、経済的なメリットもない。

4.給湯器は太陽熱温水器が最もCO2排出が少ない 

? 家庭用給湯器には様々なタイプがあり、“高効率給湯器”にはヒートポンプ給湯器以外でも、太陽熱温水器、潜熱回収型温水器などがある。これらを比較すると、太陽熱温水器が最もCO2の排出量が低いことはカタログ値の調査などからも明らかになっている。給湯器のLCCPでのCO2排出量を比較するのであれば、こうした様々なタイプの給湯器を総合的に比較することが必要である。

5.原発あってのヒートポンプ給湯器 

電気を動力とするヒートポンプ給湯器は、原発の発電で余った夜間電力を使ってお湯を沸かし、貯湯タンクに貯めた湯を日中使うことで経済性が高く、CO2排出量が少ないと試算されてきた。しかし、福島第一原子力発電所の事故により、現在稼動している原発はなく、今後の再稼働の見通しもたっていない。電源構成の大部分を火力発電が占めている状況であり、CO2対策になるというのは詭弁である。また、福島原発事故の原因究明もされていない中、今後、原発再稼働を前提とした議論をすべき状況ではない。

6.回収されていないフロン対策の実態    

フロンメーカーや機器メーカーなどは、フロン類の回収を前提にした“責任あるフロンの使用”ということを言い続けてきたが、この20年間、フロンの回収率は約30%と低迷した状態で全く改善が見られない。

今後、フロン回収については大中型規模の冷凍冷蔵空調機器は管理の方向が検討されているものの、家庭用の小型冷凍冷蔵空調機器については管理する範疇にもされていない。さらに、回収が進まない背景として経済的インセンティブが働いていないことが問題視されており、フロン課税やデポジット制(あるいは販売時の回収費用徴収)等がシステム化されていない現状において、回収を前提とした議論はナンセンスである。

7.HFC 32は可燃性

現在、主にエアコンで使われている冷媒HFC410Aは、HFC32を50%、HFC125を50%混合して「不燃性」としてつくられた冷媒である。HFC32は可燃性に位置づけられてきたため単一で使えなかった経緯があったからである。

「高圧ガス保安法」には可燃性ガスの中にHFC32の記載がないため「可燃性ではない」との説明が見られるが、国連の GHS(化学品の分類および表示における世界調和システム)では「極めて可燃性の高いガス」に、米国の ASHRAE の冷媒規格では「クラス2L(微燃性)」に区分されていることからしても「可燃性ではない」と位置づけるのは不可解である。また、熱分解した場合の有毒ガスの発生についてもまだ評価は不十分である。

8.商品化した場合の市場への影響

HFC32冷媒のヒートポンプ給湯器の“メリット”があるとすれば、イニシャルコストの安さだと考えられる(ただし、その場合CO2ヒートポンプ給湯器と同様の性能が出る保障はない)。それによって、市場に与える影響は非常に大きく、現実的に普及に伸びなやむ太陽熱温水器をはじめとする高効率給湯器との競争になる。また、一社が商品化することによって、他のヒートポンプ給湯器メーカーやエアコンメーカーがこの動きに追随し、HFC32冷媒のヒートポンプ給湯器の拡大が懸念される。

HFC32は決して環境問題解決のための冷媒ではなく、今後廃絶すべき冷媒であり、家庭用ヒートポンプの冷媒に使うべきではない。

以上

補足ペーパー

なぜヒートポンプ給湯器の冷媒にフロン(HFC32)を使ってはならないか

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