インドネシア・チレボン石炭火力2号機の贈賄事件の公判開始:
JBICは貸出停止と事業中止に向けた責任ある対応を!
丸紅とJERA(東電と中部電力の合弁)が出資し、国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)が公的融資を供与してきたチレボン石炭火力発電事業2号機(100万kW)について、同事業の許認可発行等をめぐり賄賂を受領した元チレボン県知事が、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)に起訴されました(2023年3月14日)。この動きを受け、3月28日、日本のNGO 4団体から財務省及びJBICに対し、以下の要請書を提出しました。
要請書本文
インドネシア・チレボン石炭火力発電事業 拡張計画
速やかな貸出停止と事業中止に向けた責任ある対応を求める要請書める要請書
財務大臣 鈴木 俊一 様
株式会社国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
メコン・ウォッチ
国際協力銀行(JBIC)が2017年11月14日以降、貸付を実行してきたインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画(2号機。1,000メガワット)(以下、2号機事業)については、2019年から贈賄疑惑が指摘されてきました。今般、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が2号機事業に係るケースを含む一連の贈賄・マネーロンダリングに関し、元チレボン県知事を起訴したことを受け、JBICが速やかに貸付実行の停止措置をとること、また2号機事業に係る贈賄について徹底的な調査を行い、その調査結果とJBICの今後の対応について公的機関としての市民への説明責任を果たすことを私たちは改めて強く求めます。
本年3月20日に行われた元チレボン県知事に対する第一回公判では、巨額の賄賂やマネーロンダリング(総額642億ルピア)に関する起訴状の内容がKPK検察官によって説明されました。2号機事業については、概ね以下のような内容が起訴状に含まれていることが報じられています。[1]
- チレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の元上級幹部2名が、住民の抗議がつづく2号機事業を円滑に進められるよう、元チレボン県知事に協力を要請するとともに、10億ルピアを手渡した。
- CEPRの元上級幹部2名(同上)が、2号機事業のEPC契約者である現代建設(Hyundai Engineering and Construction Co., Ltd.)の複数の関係者と元チレボン県知事を双方に紹介した。
- 元チレボン県知事が住民の抗議を沈静化するためとして「運営資金」を要求した。この「資金」は、現代建設の関係者から架空のコンサルティング業務の契約金として支払われることになった。
- 元チレボン県知事は、元ブブル郡長に彼女の義理の息子(2号機事業地であるアスタナジャプラ郡の元郡長の義理の息子でもある)の会社ミラデス・インダ・マンディリ社(MIM社)を現代建設との架空契約に参加させるよう命じた。
- 2017年7月14日、MIM社と現代建設の間で、2号機事業のコンサルタント業務に係る架空のプロジェクト契約(100億ルピア)が結ばれた。
- 2017年6月から2018年10月の間、4回に分けて70億2,000万ルピアの「資金」が現代建設の複数の関係者からMIM社を通じて元チレボン県知事に支払われた。
- 同時期に元チレボン県知事らは、現代建設が費用を負担する形で韓国に旅行した。
2号機事業に係る贈賄ケースについては、すでに2019年に元チレボン県知事、そして現代建設の元幹部がKPKにより容疑者認定を受けていた他、CEPRの元上級幹部2名もインドネシア国外への渡航禁止措置を受けていました。その時点のJBICの回答は、「インドネシア当局による捜査の状況を踏まえ、融資契約に基づいて適切に判断していく。」「『公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告』(以下、OECD贈賄勧告)などを踏まえ、適切に対応を行っている。」[2]というもので、貸出停止などの措置はとられていないと理解しています。
一方、JBICは「贈賄防止への取り組み」[3]として、「本契約に関して、贈賄行為への関与が認められた場合」に、「(貸付等の実行前)捜査当局への情報提供、融資の拒否、貸出停止、又は融資未実行残高の取り消し」、「(貸付等の実行後)強制期限前弁済」などの適切な措置を取るとしています。また、OECD贈賄勧告[4]では、「公的な輸出信用支援の供与後」の措置として、「取引に関連して、関係者の一人が贈賄禁止法違反で有罪判決を受けたり、同等の措置を受けた」ことが判明した場合、「国内法に則り、贈賄に責任のない関係者の権利を損なうこと」のない形で、「通常よりも厳格なデューディリジェンスの実施、支払拒否、供与した金額の返済」など適切な措置をとることが勧告されています。
今回、2号機事業に係る贈賄ケースにおいて元チレボン県知事が当局に起訴されたことを重く受け止め、JBICは貸出停止、融資未実行残高の取り消し、強制期限前弁済を含む適切な措置をとるべきです。少なくとも元チレボン県知事への贈賄ケースに係る判決が出るまでは、2号機事業に係る貸付実行を一時停止すべきであることは言うまでもありません。
2号機事業については、生計手段の喪失や環境汚染など地域住民への影響、チレボン県空間計画への違反と環境許認可の不当な発行など違法なプロセス、反対・懸念の声をあげる住民への嫌がらせや脅迫などの人権侵害、気候変動対策への逆行など、これまでにも多くの問題が指摘され、事業の中止が繰り返し求められてきました。そもそも、40~60%もの供給予備率(2021~2030年)を抱えることが予想されているジャワ・バリ電力系統[5]で、2号機事業を実施する必要性自体も疑問視されています。
そのような中、2022年11月には隣接するチレボン石炭火力発電所1号機の早期廃止に向けた覚書が、事業者(CEPRに出資しているJERAを除く)、インドネシア政府、アジア開発銀行(ADB)の間で締結されました。[6] この動きは、喫緊の課題である気候危機への取組みの必要性を、事業者、インドネシア政府、そしてADBの最大出資国である日本政府も認識していることを示唆しています。贈賄も絡む形で不当に進められてきた2号機事業の継続や商業運転開始を正当化する理由はいま、より一層失われてきています。
1号機事業の建設・操業や2号機事業の建設で、すでに生計手段や健康などへの深刻な影響を受けてきた現地コミュニティが、これ以上の被害を受けることがないよう、2号機事業の中止に向けた責任ある対応を含む、賢明な判断と対応を財務省及びJBICに要請します。
以上
Cc:
経済産業大臣 西村 康稔 様
株式会社 日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長(代表執行役)グループCEO 太田 純 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役社長 グループCEO 木原 正裕 様
脚注
- https://www.detik.com/jabar/hukum-dan-kriminal/d-6629271/sunjaya-pasang-badan-untuk-gm-hyundai-muluskan-proyek-pltu-2-cirebon/1
- http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2020/02/mof72-2.pdf
- https://www.jbic.go.jp/ja/support-menu/export/prevention.html
- https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2019)2/En/pdf
- https://ieefa.org/wp-content/uploads/2022/03/Indonesia-Wants-to-Go-Greener-but-PLN-Is-Stuck-With-Excess-Capacity_November-2021_JAPANESE_F.pdf
- https://www.adb.org/news/adb-indonesia-partners-sign-landmark-mou-early-retirement-plan-first-coal-power-plant-etm
要請書のダウンロード
インドネシア・チレボン石炭火力発電事業 拡張計画 速やかな貸出停止と事業中止に向けた責任ある対応を求める要請書(PDF)
本件の連絡先
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江)
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