<プレスリリース>
COP26グラスゴー会議:岸田首相演説へのコメント
1.5℃の追求に言及せず、化石エネルギーを擁護
~日本の石炭政策を1.5℃目標と整合するものに転換すべき~
2021年11月2日[英国グラスゴー]
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
2日、岸田文雄首相は、イギリス・グラスゴーにおいて開催されている気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に参加し、首脳級イベントで演説した。その内容は、パリ協定の1.5℃目標に背を向け、国内の脱炭素の遅れに向き合わず、世界の緊急行動に水を差すもので、到底受け容れられるものではない。気候資金の積み増しは前進ではあるが、詳細な説明とさらなる貢献が求められる。
IPCC第6次評価報告書(AR6)によれば、この10年で意味ある削減ができなければ、1.5℃目標の達成は不可能になる。AR6は、67%の確率で1.5℃に抑えるための世界の残余のカーボン・バジェット(炭素予算)は約4000億tと分析した。世界の人口比による日本の残余のカーボン・バジェットは65億tである。日本の2019年のエネルギー起源CO2は10憶290万tで、うち約3億tが石炭火力からであり、脱石炭が緊急であることに疑いの余地はない。1.5℃への道の入口として、石炭火力を、OECD諸国は2030年までに、その他の国も2040年までに廃止することが必須であることは、繰り返し指摘されてきたことである。グテーレス国連事務総長、ジョンソン英国首相をはじめ、主要国のリーダーたちは、COP26が世界の気温上昇を1.5℃にとどめる最後のチャンスだとし、石炭からの早期脱却の重要性を指摘している。
しかし、岸田首相は、脱石炭に言及せず、実質的に石炭は今後も重要とした。日本政府は2030年の電源構成に占める石炭火力発電を19%とし、2050年に向けて石炭を維持する方針だが、これを見直す意思は示されなかった。「アンモニア・水素等の脱炭素燃料の混焼等の火力発電からのCO2排出を削減する措置(アベイトメント措置)の促進」とした第6次エネルギー基本計画をもとに、アジアの国々にも同様の対応を表明したが、アジア諸国の脱炭素化をも遅らせることとなる。科学に背を向け、1.5℃のため脱石炭に動く世界に逆行する日本を際立たせることになったのは、残念である。
水素・アンモニア混焼を理由に石炭火力設備を維持することは、気候ネットワークポジションペーパー「水素・アンモニア発電の課題」で指摘したとおり、実質的な排出削減にならないだけでなく、技術的課題をはらみ、経済的合理性をも欠く。日本特有ともいうべきこの道は、日本のカーボン・バジェットを石炭火力で浪費し、およそ1.5℃目標と整合せず、国の経済も危うくする。
岸田首相は、世界の首脳たちの気候危機の切迫性と脱石炭火力の重要性への認識を受け止め、ただちに1.5℃目標を明確にし、気候変動対策を前提として国内の脱石炭を決め、石炭火力の海外支援も全てとりやめ、省エネ・再エネ拡大によるコロナ禍からの再生に取り組まなければならない。その姿勢を改めなければ、今後も国際政治の主導には程遠いだけでなく、国際社会から、ここグラスゴーを訪れCOP26に参加した意義を問われることになるであろう。
以上
参考
気候ネットワークポジションペーパー「水素・アンモニア発電の課題」
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【プレスリリース】COP26グラスゴー会議:岸田首相演説へのコメント 1.5℃の追求に言及せず、化石エネルギーを擁護 ~日本の石炭政策を1.5℃目標と整合するものに転換すべき~(2021/11/2)