第六次エネルギー基本計画案への意見

2021年10月4日

第六次エネルギー基本計画案」のパブリックコメントに際して、気候ネットワークとして、次の意見を提出しました。

1.1.5℃目標の位置づけ

【該当箇所】P.4 121行目~ 気候変動問題への対応

【意見内容】パリ協定に批准し、その目標である「2℃を十分に下回り1.5℃に抑制すること」を位置づけ、その科学的知見に基づき、気候変動への対応が不可欠であることを記すべきである。

【理由】案では、気候変動問題の対応の中で、気候変動を「人類の危機」としてとらえておらず、産業革命前からの地球平均気温上昇を1.5℃未満に抑える努力が世界的に急務であることや、日本がパリ協定に批准していることにも触れず、1.5℃を目指すことも全く位置付けていない。すでに決定された、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)は、1.5℃未満に抑制することを実現するための目標に他ならず、エネルギー基本計画策定の大前提として、日本の目標として1.5℃目標抑制を明確に示し、それと整合的な対策・政策を導入・実施する計画こととするべきである。

2.原子力ゼロを位置付ける

(1)【該当箇所】P.24 756行目~ 「4.2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」の中での「原子力における対応」

【意見内容】2050年のカーボンニュートラルの実現に原子力を位置付けるべきではなく、原発をゼロにすることを位置付けるべきである。

【理由】案では原子力を「可能な限り原発依存度を低減」するとしながら、「脱炭素化の選択肢」とし、原発依存の可能性を残している。原子力のようにトラブルが続く電源はバックアップとして火力が必要であり、「脱炭素化」の選択肢にはなりえない。また東京電力福島第一原子力発電所の事故で原子力の安全神話は崩れ、国民の信頼は地に落ちたが、さらにその後も今に至るまで電力会社の癒着の構造や不正・情報改ざん、原子力発電所等でのトラブルが続出している状況である。一刻も早く原子力から脱却すべきである。

(2)【該当箇所】P.34 1095行目~「5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応 」の中での「原子力」の位置づけ

【意見内容】2030年に原子力をベースロード電源として位置付けるべきではなく、ゼロにすべきである

【理由】案では、原子力を「優れた安定供給性」があると評価し、「ベースロード電源」と位置付けているが、地震などのトラブルに脆弱で、決して安定な電源とは言えない。東京電力福島第一原子力発電所の事故は収束の見通しが全くたたない状況で、廃炉までの道のりも見えず、将来世代に大きな負担を残すことになった。このような原子力発電の過酷事故のリスク、核廃棄物の問題などを鑑み、原子力からは脱却するべきである。そもそも今後再生可能エネルギーの導入を増やし、最優先に接続していく電力システムにおいては、24時間フル稼働させなければならない「原子力」は再エネ導入の阻害要因にしかならない。また、案では「運転コストが低廉」とあるが、「発電コスト」は太陽光の方が安くなることがコスト検証WGの検証でも明らかされたところである。なお、原子力については、「可能な限り原発依存度を低減する」(P.7ほか)としつつ、「必要な規模を持続的に活用していく」(P.23)との位置づけは矛盾している。

3.石炭火力を2030年までにゼロにする

【該当箇所】「5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応 」の中での「石炭」の位置づけ(P.36 1155行目~)および「火力発電の今後の在り方」(P.75 2458行目~)

【意見内容】石炭火力のCO2排出係数は非常に高く、気候危機を回避するために野心的な温室効果ガスの削減が求められる中、石炭は最も優先して廃止すべきものであり2030年までの全廃を明記すべきである。

【理由】パリ協定1.5℃ (2℃)目標の達成には、先進国は2030年までに石炭火力の「フェーズアウト」(段階的廃止) が求められており、欧米諸国では2030年までの石炭火力全廃に 向けた動きが加速している。石炭は国際的にダイベストメントの対象として関連産業からの投資撤退が進み、決して経済性に優れているとは言えない。したがって、建設中も含め新規計画を全て中止するとともに、既設石炭火力発電を2030年までにフェーズアウトすることを盛り込むべきである。

 また、「火力発電の今後の在り方」については、排出係数の高い石炭から段階的削減をしていくことが求められる。特に石炭については非効率な発電技術を用いているものであってもUSCであっても石炭を燃料にする限りCO2の排出は大きいため、省エネ法の発電効率基準だけでは不十分である。2030年に発電事業側で排出係数を「0.37kg-CO2/kWh」以下にするなどの規制を設けるべきである。

4.天然ガスの新規建設の禁止と段階的廃止

【該当箇所】P.36 1113行目~ 「5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応 」の中での「天然ガス」の位置づけ

【意見内容】LNG火力は石炭火力より発電時のCO2排出量は少ないものの、大規模排出源であることに違いはない。天然ガスは再エネの調整電源として過渡的な発電方法であることを位置づけ、今後の新設は建設中の設備も含め禁止し、段階的削減の方向を明確にすべきである。

【理由】案では、天然ガスについて「カーボンニュートラル社会の実現後も重要なエネルギー源」と位置付けているが、天然ガスであっても燃焼すれば大量のCO2を排出するため、カーボンニュートラルの達成は非常に困難となる。天然ガスを水素の原料などにする場合も、水素製造段階でCO2を発生することになり、CO2の大気放出を防ぐためには大量のエネルギーが必要となるため、天然ガスから水素を製造して火力に使うのは本末転倒である。

5.水素・アンモニアの火力発電での利用

【該当箇所】P.25 771行目~「水素・アンモニアにおける対応について」や P.36 1164行目~ 「5.2050年を見据えた2030年に向けた政策対応 」の中での「水素・アンモニア」の位置づけなど

【意見内容】水素やアンモニアは脱炭素燃料などではなく、製造・輸送時などにCO2排出を伴うものであり、水素・アンモニアを「脱炭素電源」などと位置づけ火力発電の主力燃料として位置付けるべきではない。

【理由】「火力発電の脱炭素化に向けては、燃料そのものを水素・アンモニアに転換させること」などと、火力発電を将来的に残す方向性が示され、「2050年には電力システムの中の主要な供給力・調整力」などと位置付けているが、現在全く実用化の目途もたっていない方法であり、水素・アンモニアを理由に化石燃料の火力発電所を延命することにつながりかねず、2030年までに温室効果ガス排出の半減以上の削減が求められる気候危機への対応になっていない。また、石炭や天然ガス由来の水素(海外に依存する場合は一層)は、CO2排出を伴うものである。その水素を元に作るアンモニアも同様で、アンモニアは水素からの合成にさらにエネルギーが必要であり、いずれも、およそ脱炭素技術といえるものではない。計画案の「ゼロエミッション火力」は裏付けのないまやかしであり、エネルギー自給及び2050年ゼロエミッションの実現を危うくするものである。“火力”の脱炭素化ではなく、脱火力と再生可能エネルギーへの転換を通じ、G7主要国首脳会議の合意を踏まえ、2030年代の電力システムの脱炭素化を目指すべきである。その上で、再生可能エネルギー由来の水素は、発電部門ではなく、電化が困難な業態を優先して活用すべきである。

6.不確実なCCS・カーボンリサイクル技術

【該当箇所】P.25 771行目~CCS・カーボンリサイクルにおける対応 ほか

【意見内容】「火力発電の脱炭素化」として、「排出されるCO2を回収・貯留・再利用することで脱炭素化を図るなどとして「CCS」や「カーボンリサイクル」を位置付け、火力の延命をはかるべきれはなく、火力は将来的に全廃する方向性を示すべきである

【理由】案では、石炭火力やLNG火力設備を使い続け、水素・アンモニアと同様に、二酸化炭素回収固定利用技術(CCS・CCU)などによる「火力発電の脱炭素化」の方向を示している。しかし、国内には貯留する適地が乏しく、そもそもCCU技術は、その有効性、経済性、環境影響への懸念や技術的リスクなど、多くの問題を抱える不確実な技術であって、実用化のめどは全くたっていない。気候危機の緊急性に対応するものでもなく、コストも再エネの方が確実に安くなるので、火力+カーボンリサイクルなどに多額の研究開発費をかけるべきではなく、火力からの脱却と再エネシフトに電力の軸足をうつすべきである。

7.再生可能エネルギー100%の社会を目指すこと

【該当箇所】P.24 721行目~、P..32 991行目~、P.50 1562行目~、P.105 3558行目~ほか

【意見内容】再生可能エネルギーの目標設定を2030年に50%以上とし、遅くとも2050年には100%とすることを目指すべきである。

【理由】計画案では、2030年度のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を「36%~38%程度を見込む」としているが、脱炭素へのエネルギー転換を大胆に進めなければならない現状において、目標として低すぎる。50%以上に引き上げるべきである。また、その実現には 様々な系統制約の解決など、電力システム改革が不可欠である。計画案に盛り込まれた接続ルールの変更、容量市場の見直し(P.76)、電力システムの柔軟性や調整力の脱炭素化の取組みなど(P.56)、再エネへの投資環境を整備し、発電コストを低減させる政策を早急に導入・実 現し、2030年50%、2050年100%を目指すべきである。

 ただし、バイオマス火力については、森林伐採等によって化石燃料以上にCO2排出が大きくなる場合も少なくなく、持続可能性に懸念がある。発電においてこれらを再生可能エネルギーと位置付けるべきではない。

8.2030年の電源構成を全面的に見直すべき

【該当箇所】P.104 3515行目~「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」

【意見内容】2030年度の電源構成は再エネ50%以上、原発と石炭はゼロと位置付けるべき

【理由】2030年度におけるエネルギー需給の見通しの中で、2030年の電源構成として、再エネが36~38%程度、LNGは20%程度、石炭は19%程度、石油火力等が2%程度、水素・アンモニアによる発電が1%程、原子力を20~22%としている。しかし、このように石炭を残しているのは気候危機に対応するものとは言えない。また、原子力も20~22%というこれまでのエネルギーミックスに示された割合を維持しているが、原発のリスクや現状の既存原発の40年廃炉で進めた場合に届く水準ではなく、全く現実的ではない。今回政府案として示された電源構成の割合は、気候危機への対応や福島事故の反省をふまえたものと言えず、全面的に見直すべきである。

9.1.5℃目標と整合的な途上国支援・海外協力を行うべき

【該当箇所】P.81 2675行目~ エネルギー安定供給とカーボンニュートラル時代を見据えたエネルギー・鉱物資源確保の推進

【意見内容】水素・アンモニアの調達やCCSなど技術拡大の海外展開を図るべきではなく、国内で着実にエネルギーシフトを行い、再生可能エネルギーと省エネルギーの支援を基本とすべきである。

【理由】脱炭素の取り組みは世界全体で取り組まねばならない。政府は、G7で、石炭火力発電技術の 輸出について実質的に中止する方針をG7で決定したものの、水素やアンモニア、CCSなどの燃料や技術の拡大へ「包括的資源外交」を行うとしている。しかし前述の通り、これらは脱化石燃料を意味するものではない。また、国際エネルギー機関(IEA)は、今後いかなる化石燃料投資 も1.5℃目標と整合しないと指摘している中において、計画案の、JOGMECを通じたリスクマネー供給や、LNG市場の創設・拡大等に向けたファイナンス支援を行う方針などは(P.101)、パリ協定と整合しない。日本のエネルギー外交・支援の方針は、1.5℃目標と整合的に脱炭素化を進めるために、化石燃料の生産・消費、および関連する事業への支援からは撤退し、再生可能エ ネルギーと省エネへの支援を基本とすべきである。またそれこそが、海外に依存せず、エネルギー安全保障上最もリスクを回避できる確実な方法である。

10.政策決定に民意を反映する仕組み

【該当箇所】本案全体に対して

【意見内容】エネルギー基本計画の策定は、一部のエネルギー関連産業に関連する既得権に深く関係する委員が多数を占める審議会で議論するだけではなく、市民の意見をしっかり反映させるような議論の場が確保されるべきである。

【理由】エネルギー基本計画の改定作業にあたっては、経済産業省の審議会の限られた場で、経済産業省の意向が色濃く反映され、民意が反映されることなく、原発や石炭を温存する政策が維持されてきた。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会は「意見箱」を設置したが、それらの意見は計画案に反映されていない。気候変動の影響を大きく受ける若者らの未来世代や、気候変動の影響に脆弱な人々、原発事故の被害を受けた人々の声が反映される仕組みが必要である。 本パブリックコメントに寄せられた意見が計画に反映されるよう、議論を尽くす場が確保されるべきである。

以上