2003年5月26日

地球温暖化の科学と京都議定書を無視した 産構審の中間とりまとめ(案)「気候変動に関する将来の枠組みの構築に向けた視点と行動」 は極めて問題
~日本は次のステップで更に大胆な削減が必須~

 

気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵

経済産業省の産業構造審議会環境部会地球環境小委員会では、京都議定書の第2約束期間以降(2013年以降)の温暖化対策の国際的枠組みについて検討を行っており、26日、中間とりまとめ(案)を審議した。今後、パブリック・コメントに付される予定になっている。

 

気候ネットワークでは、この議論の方向性に極めて大きな問題があると考えている。今後の議論の展開に向けては、次のステップで京都議定書の削減目標よりも高い目標を設定することを前提に、抜本的な仕切り直しをすることを要求する。

産構審の議論は…

予測される地球温暖化の深刻さを無視している

産構審の議論は、地球温暖化を食い止めるために今後どのくらいの時間枠でどの程度の削減が必要かという、温暖化予測の実態に照らした検討は全く行われていない。そして、気候変動の深刻さや温暖化防止対策の緊急性について全く考慮しないまま、各国間の目標設定の議論をしようとしている。それゆえ、次のステップではさらに大きな削減が必要という当然あるべき基本的視点さえ全く共有されていない。気候変動枠組条約は、危険でない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを「究極の目的(第2条)」としており、そのためには大幅な温室効果ガス削減が急務であることは周知の事実である。温暖化防止のための長期目標の検討を欠いたままでは、重要な視点が抜け落ちていると言わざるを得ない。

国連のプロセスと京都議定書の交渉成果を無視している

その一方で、中間とりまとめ(案)では、京都議定書の欠点や経済面での効率性が過度に強調され、また、第2約束期間以降では議定書を前提とせず全て原点に戻すかのような方向性が示されており、世界各国の公平な参加が一定程度担保されている国連のプロセスや議定書交渉で積み重ねてきた成果を無にしようとしている。また案では、国別目標ではなく、各セクターがそれぞれに対策を積み上げるアプローチや、主要排出国だけで議論を先導するようなアプローチを提案しており、国の義務を回避し、一部の大国だけで方針を決めてしまおうとする気配すら見える。
 京都議定書は、妥協の産物ではあるが、10年来の国際交渉でありとあらゆる議論を経た結果であり、途上国を含む186カ国が合意した温暖化防止の唯一の国際枠組みである。今後のステップに向けては、当然これを基礎として、米国の参加や途上国の取組を促していく幅広い議論を進め、欠点を補い効果を高めることを模索していくべきである。次のステップで議論を全て原点に戻しても、その結果前進する保証がないばかりか、米国の主張などが大きく取り入れられ、より後退したものになる恐れの方が大きい。

日本の更なる削減は視野に入れていない

産構審の委員(業界団体の代表がほとんど)の意見の多くは、日本が楽な削減で済むような枠組みとする要望がほとんどであり、既存のエネルギー多消費型の社会システムを少しでも長く温存させて利益を得ようとしているのがあからさまにわかる。
 こうした議論は、短期的視点で一部の産業の利益を追求するあまり、将来世代との公平性や途上国との公平性を無視し、地球環境を犠牲にしていると言わざるを得ない。
 世界で4番目の排出国として地球温暖化に責任の大きい日本は、次のステップでは、絶対量でさらに大きな排出削減を行うことは必須である。今後の議論では、それを共通認識として確認すべきである。

 

今後の議論の展開に向けては、長期的視点にたって、京都議定書の削減数値目標よりも高い目標を設定し、より大胆な取組を図ることを前提に、抜本的に仕切り直すことが必要である。 またこのように重要な問題について、委員のほとんどが業界団体という産構審の場だけで議論し方向性を定めようとすることは極めて問題であり、今後は、政府全体で、環境NGOや他の意見を有する有識者なども交え、幅広い視点を提示し、議論を進めていくべきである。

 

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