<プレスリリース>
「JERAゼロエミッション2050」の公表について
既定路線から脱却し速やかに脱炭素化への行動に着手することが必要
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
10月13日、株式会社JERAが「2050年におけるゼロエミッションへの挑戦について」を発表した。具体的には、2050年時点で国内外のJERA事業から排出されるCO2の実質ゼロに挑戦するとした「JERAゼロエミッション2050」と、それを実現していくための「JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ」並びに「JERA環境コミット2030」を制定したとしている。
JERAは、東京電力フュエル&パワー株式会社と中部電力株式会社が50%ずつ出資して2019年4月から営業を開始した発電事業会社であり、国内最大の火力発電事業者となった(図1)。とりわけ、国内の発電事業者の中で最も多くの石炭火力発電設備を保有する会社である(図2)。
現在、気候危機が極めて喫緊の課題となる中、世界中で脱炭素の流れが加速し、日本においても非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討やエネルギー基本計画の見直しの議論が始まっている。日本最大の火力発電会社であるJERAの対応は国内の温室効果ガスの大幅削減において極めて重要である。
この度、これまで明確な気候変動方針を持っていなかった同社が、2050年ネットゼロを目指すという新たな方針を打ち出したことは時機に適ったものと歓迎したい。しかし、2050ネットゼロは世界全体で達成すべき目標であり、火力発電はそれよりもはるかに早く削減を実現していなければならない。JERAの発表内容はパリ協定に全く整合するものではない。同社初の社債発行を10月22日に控えた時期での表明でもあり、ESG投資を呼び込むだけの単なる体裁づくりであるとの批判は免れられない。
その具体的根拠として、5つの点から以下に述べる。
1.限定的な非効率石炭火力の廃止はこれまでの既定路線にすぎない
「非効率石炭火力のフェードアウト」については、現在のエネルギー基本計画でも言及がなされ、2019年4月に公表したJERA環境方針においても、環境目標としてフェードアウトを検討すると既に掲げられている。今回の日本版ロードマップで示す非効率石炭火力(超臨界圧以下)は、碧南火力発電所1号機及び2号機だけと推定される。これらの廃止に向けた具体的な計画をできるだけ早期に提示することを求めたい。しかし、超臨界圧以下の石炭火力の廃止は対象が限定的すぎ、現在政府で検討されている既定路線にすぎない。他の既存の発電所の廃止の大幅な前倒しが必要である。
2.パリ協定との整合は、石炭火力の2030年全廃、2020年以降の新規稼働中止
気候危機への対応として今求められているのは、パリ協定に定められた「1.5℃目標」である。1.5℃目標を実現するには、世界全体の排出量を2050年までに実質ゼロにするというだけではなく、2010年比で2030年45%以上の削減にするという、大幅削減を実施する必要がある。また、石炭火力発電に関しては、2020年以降に新規稼働する余地などなく、2030年までに全廃することが不可欠である。それにも関わらず、2021年には武豊火力発電所5号機、2023年には横須賀火力発電所新1号機、2024年には同新2号機を次々と稼働する方針を変えていない。ゼロエミッションを目指すなら、これらの新規石炭火力の建設・稼働を中止すべきである。
3.火力発電のゼロエミッションの具体策が見えない
ロードマップでは、アンモニア混焼と水素混焼について示しているが、混焼率をいくら高めたところでCO2排出はゼロにはできない。
一方、CCSについては実現の困難さを認識したとみられ何の言及もない。実用化が遠いアンモニア混焼と水素混焼では火力発電所のゼロエミッションの対応としては不十分である。EUタクソノミーでは、CO2排出量が石炭火力の半分以下であるLNGガス火力発電所でも、CCSつきでないものは、既にグリーンでないと位置づけられている。
JERAが運転する多数のLNG火力発電所、さらに新規に発表された知多LNG火力発電所7・8号機建設を含め、火力発電のゼロエミッション化を実現する上で、CCSを活用しないのであれば、具体的にどうゼロエミッションを達成するのかを示す必要がある。
4.排出係数目標もなんら追加的努力なく達成できる数字
「政府が示す2030年度の長期エネルギー需給見通しに基づく、国全体の火力発電からの排出原単位と比べて20%減を実現」とある。しかし、同社はそもそも石炭火力よりもLNG火力の割合が高く、他の旧一般電気事業者に比べても排出係数が低い傾向にある。最新の電気事業者別排出係数を見ると、東京電力エナジーパートナーが462g/kWh、中部電力が472g/kWh、北海道から沖縄までの9電力平均が原発稼働を含んで541g/kWhなので、火力発電に限定すれば、ほぼ既に達成した数字であると想定できる。また、LNG火力を石炭火力以上に増設していることから、平均値はさらに下がると見込まれる。そもそも、排出原単位を火力発電の平均より低くするというのは、ゼロエミッションとは相入れず、パリ協定上何ら意味のない数字である。
5.再生可能エネルギーの推進の具体策が見えない
ゼロエミッションへのチャレンジとして「再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の相互補完」とあるが、火力発電を上記のように動かしている限り実質的な排出ゼロは達成できません。またロードマップでは、再生可能エネルギーについて「洋上風力を中心とした開発促進 蓄電池による導入支援」と示されているものの、具体的な再エネ目標や導入の具体策が何も示されていない。気候変動問題の解決に、再生可能エネルギー100%の実現を目指すことがCO2の実質的な排出ゼロの実現に繋がっていく。今回のプレスリリースで「世界のエネルギー問題を解決していくグローバル企業」であると自負するならば、火力からの脱却と再エネへのシフトを具体的に示していくべきである。
以上より、私たちはJERAに、脱炭素をけん引する企業としてさらなる行動強化と前倒しを求める。
プレスリリース(全文)
「JERAゼロエミッション2050」の公表について 既定路線から脱却し速やかに脱炭素化への行動に着手することが必要
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関連サイト
JERA「2050年におけるゼロエミッションへの挑戦について」(2020年10月13日)
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