2004年1月30日

2004年の地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しにあたって

気候ネットワーク 代表 浅岡 美恵

2004年は、「地球温暖化対策推進大綱」(※)の評価・見直しの年である。京都議定書の第1約束期間(2008~12年)が始まるまであと4年と迫った今年の評価・見直しは、日本の6%削減目標達成に向けた極めて重要な機会である。

(※)ミニ解説「地球温暖化対策推進大綱」とその評価・見直しについて

○地球温暖化対策推進大綱とは、首相を本部長とし、ほとんどの閣僚が参加する地球温暖化対策推進本部においてとりまとめられている政府の温暖化対策のパッケージであり、京都会議直後の1998年6月に初めて策定され、京都議定書批准直前の2002年3月に改定されている。

○2002年の改定の際に、「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」という考え方が示され、2002~04年、2005~07年、2008~12年の3段階に分け、その間に政策・措置を評価見直しすることが定められた。

○2002年5月には京都議定書批准のため、「地球温暖化対策推進法」も改正され、「京都議定書目標達成計画」を策定することが定められ、そのアプローチは、大綱のステップ・バイ・ステップのアプローチと整合性を取る形になっている。説明資料には、同達成計画は、大綱を基礎に作られることとされている。しかし、同条項は京都議定書発効後に施行されることとなっているため、まだ施行されておらず、大綱は大綱のまま、法的な位置づけのないまま本年の評価・見直しを迎えることになっている。

現在の大綱のプロセス

現在の大綱は各省庁の施策の寄せ集めに過ぎず、6%削減の実効性が低く不十分なものである。2001年度の温室効果ガスの排出量は基準年比で5.2%増加しており、このままでは目標達成は危うい。国際公約を守るためには、現在の温暖化対策の総点検を行い、効果の高い政策と措置を追加的に導入していくことが不可欠である。
 しかし、過去の大綱の策定・改定のプロセスにおいては、十分な検討・議論の場が設けられず、各省の主導するままに進められ、ほとんど市民の関与のない中で全て決定されてきた。そのプロセスに対しては、過去にNGOやマスコミ等から大きな批判を浴びてきたにもかかわらず、今回も何ら改善されることなく、同様のプロセスで動き出しつつある。

別紙に、過去と同様に進められつつある大綱の評価・見直しプロセスを示した。見ての通り、見直し作業は、各省でバラバラに審議を行い、その間相互の調整は全くない。一部の審議会では、とりまとめの際にパブリックコメントやヒアリングなど一定程度の市民の意見表明の機会があるものの、それによってとりまとめ案が変わることはほとんどなく、事務局(各省の担当課)が準備した方向性通りに了承される。さらに、各省バラバラのとりまとめを政府全体で調整する作業に関しては、私たちの全く見えないところで官僚の中だけで行われる。そこにはかなりの時間が費やされるが、市民参加も情報公開も国会の関与も何もない。そして政府内の密室協議の末に合意されたものが、「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」の場で初めて明らかにされ、形式的な意見聴取を行ったすぐ後、「地球温暖化対策推進本部」において正式に決定される。
 なお、過去の例でいえば、最終的に決定される政府の方針は、各省のつじつま合わせがにじみ出たものであり、各審議会の議論からの連続性は見えてこない。また、経済産業省の審議会の方針が基本に受け継がれ、中央環境審議会の結果は密室協議の末に相当に捻じ曲げられることが多い。

このプロセスの問題

  • 政府全体として地球温暖化対策に対するビジョンや政策のプライオリティ付けを横断的に議論する場がない。そのため、省庁の力関係がそのまま結果へ反映されてしまう。
  • 各審議会は、担当省庁が主導しており、情報公開が不十分である(大綱に示された削減見込み量の根拠となるデータが非公開で検証不可能)上、自ら行う評価・見直しは客観性を欠いており、削減効果が疑わしいものや根拠が不明なもの、さらに排出増が予想される逆効果のものであっても、現状の対策・施策が追認される。
  • 縦割りで進められるため、省をまたがる施策などについての議論はほとんど行われない。その結果、小手先の対応しか検討・実施できない。
  • 市民の意見聴取は一部の審議会の中で行われるだけであり、最終的な方針を検討する実質的な政策決定の場においては、市民・NGOは完全に蚊帳の外である。

改めて言うまでもないことだが、地球温暖化問題という、市民や企業など削減主体が多様で対策が多岐にわたる問題が、このような密室プロセスで決められることは極めて問題である。また、今後大幅に温室効果ガスを削減していくためには浪費型の社会経済システムを環境保全型に転換していくことが不可欠であるが、省庁バラバラの縦割構造に縛られた進め方では、省内の利害が争われるだけであり、そのような発想は全く生まれてこないだろう。

今後の方向性

これからの地球温暖化防止型社会を築いていくためには、今回の大綱の評価・見直し作業では過去の不適切なプロセスを踏襲することなく、省庁横断的な開かれた場を作り、市民参加型の合意形成を図っていくことが極めて重要である。具体的には、

  • 首相と閣僚のみで構成する現在の形式のみの「地球温暖化対策推進本部」を、外部からの委員(環境NGO・学識経験者等)を含む国民に開かれた機構へ改め、温暖化対策への短・中・長期ビジョン、施策の方向性や重点化などについて横断的に検討する。
  • 推進本部」の下へ、データ等の情報公開を前提にテーマ(施策・領域)ごとに客観的な指標に基づく評価・見直し・追加施策の検討を行う場を設ける。審議の場は各省バラバラの審議会ではなく、議論の場は各関係省庁・立場の異なる研究者・環境NGOも参加する横断的なものとする。
  • 広い意見集約・議論を経た上で、最終的に推進本部において決定する。

というプロセスが考えられる。

京都議定書の目標達成には、国内のきめ細やかな対策を実施することが求められており、それを実現する政策・措置のメニューは豊富にある。横断的な意思決定の場における健全で透明な議論を通じて、温暖化防止のために不可欠な政策・措置の導入を、これ以上先延ばしを容認することなく実現していくためには、日本として深刻な地球温暖化問題に本気で取り組む"政治的意思"が必要である。
 多くの市民は温暖化問題への強い不安を抱いており、対策の強化を求めている。大綱の評価・見直しで確実なステップを踏みだすことは、本年の大きな課題である。

 

別紙

(図)地球温暖化対策推進大綱の見直しのプロセス?(25KB)

 

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