<プレスリリース>
日本、気候危機を招く不十分な気候目標を据え置き
~1年以内に気候・エネルギー政策を見直し、目標引き上げを~
2020年3月30日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
30日、日本政府は、2030年に向けた温室効果ガス排出削減目標と対策を含む国別約束(NDC: Nationally Determined Contribution)についてとりまとめた。昨年9月の国連気候行動サミットや12月のCOP25において、気候危機に対処するために国際社会が排出削減目標を引き上げて2020年中に国連に再提出することを強く求められてきた中にあって、従前の「2013年比で26%削減」という不十分な水準を据え置いた。
この26%削減という水準は、パリ協定の1.5~2℃目標に整合しない、全く不十分なものである。国連環境計画(UNEP)は、「2℃目標を達成するためには、2020年のうちに、2030年までの各国のNDCの排出削減水準を3倍に、1.5℃目標の達成には5倍以上にしなければならない」、「政策決定が実際の排出削減に結び付くには時間がかかることを考えれば、2030年の大きな排出ギャップを埋めるためには、2025年まで待ってNDCを強化するのでは遅すぎる」と指摘している。気候危機のさらなる深刻化を回避するためには、今後10年間の対策強化が極めて重要であり、2020年に再提出するNDCで目標を大きく引き上げることが1.5℃の実現に決定的に重要と考えられている。そのような中、日本政府がNDCの目標を据え置いたことは、気候危機対策の放棄に等しい。政府は今後さらに意欲的な目標にすべく見直すとしているが、「5年を待たず」とするのみで、その具体的なスケジュールやプロセスは何も示していない。そればかりか、科学が要請する1.5℃目標に必要な削減量を基礎とするのではなく、経済産業省によるエネルギーミックスの改定に沿わせるもので、無責任かつ危険な先送りというほかない。目標引き上げに向けた国際社会の努力に水をさしたことも深刻だ。
また、「26%削減」は、パリ協定の採択前に提出した目標水準と同じものであり、実質排出ゼロに向けて最新の科学的知見や技術・社会状況の進展を踏まえて目標・対策を強化し続けるというパリ協定を反映したものではない。この5年間で省エネが進み、急速に再生可能エネルギーコストが安価になり、脱化石燃料(とりわけ脱石炭)の宣言や実践も世界中で広がっている。その中で目標を据え置いたことは、脱炭素経済の実現をめざす企業や投資家、自治体、市民のこの5年間の歩みを無視したに等しい。
さらに、気候危機は日本の市民生活や各産業に甚大な影響を及ぼすにもかかわらず、政府のごく一部の関係者による不透明なプロセスで、市民参加や国民的な議論なしに非民主的に決められたことにも重大な問題がある。
世界中で若者たちや市民が緊急の気候対策を求めて声をあげている中、不十分な目標を固定化させ、地球の将来を危険に晒し続けることは許されない。日本政府は速やかに2030年目標を引き上げる検討プロセスのあり方及びスケジュールの見通しを示す必要がある。また見直し・目標の提出は1年以内に完了させるべきである。2030年までに1990年比45~50%の削減が必要とするIPCCの要請に沿って目標を引き上げ、石炭・原子力中心のエネルギーミックスから再エネへの転換を明確にする必要がある。省エネを徹底し、再エネ100%への公正な移行(ジャスト・トランジション)を見通した再エネ拡大のための制度を整備し、カーボン・プライシング(炭素の価格付け)や石炭火力発電規制といった実効性ある政策措置をとらなければならない。市民参加を確保した透明なプロセスで議論すべきなのはいうまでもない。もはや気候危機対策に猶予はない。
以上
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【プレスリリース】日本、気候危機を招く不十分な気候目標を据え置き ~1年以内に気候・エネルギー政策を見直し、目標引き上げを~(2020/3/30)