1月20日、気候ネットワークは、「パリ協定に基づく『長期低排出発展戦略』に対する提言」をまとめ公表した。各国はパリ協定に基づき、2020年までに「長期の温室効果ガス低排出発展戦略(以下、長期戦略)」を策定し国連に提出することになっている。2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、この長期戦略の重要性を踏まえ、G7諸国はこれを2020年よりも十分早く策定することを合意しているが、日本だけが未だに提出できていない。気候ネットワークでは、1.5℃目標に向けて脱炭素社会を早期に実現する戦略を日本政府が早期にまとめて提出することを求め、この提言をまとめた。
パリ協定に基づく「長期低排出発展戦略」に対する提言(はじめに)
2018年は、世界各地で極端な気象が起きた年でした。北極圏でも気温が30℃超になったことをはじめ、世界各地で観測史上初の高温が記録されました。また、集中豪雨や洪水といった水災害の一方、干ばつや山火事で多数の犠牲を伴う被害が拡大しています。連日「異常気象」が世界のどこかで起きている状況は、「異常」ではなく、極端現象が「常態化」する年だったとも言えます。日本でも、西日本豪雨での大規模な災害が広範囲に広がり、また台風21号や24号の台風襲来とともに高潮の甚大な被害が発生しました。国内外の一連の気象災害について、世界気象機関(WMO)が発表したとおり、温室効果ガスの排出による地球温暖化との関連性はもはや科学的にも疑う余地がないことが証明されてきました。
2018年10月、IPCCの「1.5℃特別報告書」では、これまでの気温上昇が産業革命前に比べて約1℃の上昇であり、このまま人為的な温室効果ガスの排出が続けば、早ければ2030年頃には1.5℃に到達してしまうという極めて厳しい現実を突きつけられました。すでに1℃の上昇でも多くの被害が発生しはじめていますが、1.5℃の上昇は、これまで以上の気候変動リスクが顕在化することになります。陸上や海洋の動植物の絶滅を加速化し、海面上昇の被害は小島嶼国や海岸や河口流域の低地帯に暮らす人々の生活基盤を根底から奪うことにつながり、気候の極端現象の激化が農林水産業や商工業など様々な人間の経済活動にも甚大な被害をもたらすとされています。このように、今後、人間活動がもたらした気候変動の加速化が、全人類の生命・財産を長期に渡って脅し続けるという厳しい現実をしっかりと見据えた上で、私たちは「パリ協定」に基づき、早期の「脱炭素社会」をめざし行動をとっていく必要があります。
日本は、戦後の高度経済成長時代の工業化とともにCO2を大量に排出する国となり、今なお世界でも有数のCO2大量排出国です。そして、化石燃料を利用してエネルギーを消費する構造は未だに変わっていません。「脱炭素社会」を早期に実現するためには、この持続不可能な構造を根本的に変え、持続可能な環境、社会、経済へと進化させていくことが不可欠です。
今、日本社会には、東日本大震災後の原発のあり方や、持続可能な環境エネルギーシステムをいかに構築するかという課題とともに、生物種の絶滅の危機や、プラスチックごみ問題などの様々な環境破壊が顕在化しています。さらには少子高齢化、東京一極集中と地方の過疎化、人口減少といった課題にも直面しています。パリ協定と同じく2015年には「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されています。「脱炭素社会」を実現して気候変動問題の解決をめざすことが、こうした様々な社会問題の解決も同時にめざしていくことが必要だと考えています。これから、気候変動問題がますます深刻化する中においても、持続可能な地域社会をめざし、人々が活き活きと暮らし、未来に希望をいだくことができる長期ビジョンを策定することが求められています。こうした考えに基づき、「長期低排出発展戦略」に対して提言します。
提言要旨
気候ネットワークは、パリ協定に基づき日本が「長期低排出発展戦略」を策定・提出するにあたって、盛り込むべき7つの論点をまとめました。その概要は以下のとおりです。また、これらの提言に関する基本的な考え方は、それぞれの提言ごとに次ページ以降にまとめています。
1.気温上昇「1.5℃」を目指すことを明記する
(1)気候変動対策の目標として、気温上昇を工業化前に比べて「1.5℃の上昇に抑えること」を明記する。
(2)2030年までの取り組みの強化に向け、温室効果ガスの大量排出国の日本として、気候変動対策の強化の意思を国際社会に示す。
2.2030年の中期目標を引き上げ、エネルギー基本計画を見直す
(1)2030年目標は少なくとも1990年比40~50%削減とする。
(2)2050年代には温室効果ガスの排出をゼロにする(脱炭素社会の実現)。
(3)エネルギー政策を見直し、省エネ推進、化石燃料依存から脱却、再エネ100%をめざす。
3.2050年脱炭素社会実現を明記し、その道筋を明示する
(1)2020年の脱炭素オリンピックを実現する。
(2)2030年に石炭火力フェーズアウトする。
(3)2040年に電源をゼロエミッション化する。
(4)2050年にエネルギーをゼロエミッション化する。
4.「石炭火力のフェーズアウト計画」を策定する
(1)新規石炭火力発電所計画を中止する。
(2)既存の石炭火力発電所の廃止計画を策定する。
(3)2030年石炭火力発電所フェーズアウトを法制化する。
5.炭素予算をつくり、カーボンプライシングを導入する
(1)炭素予算を導入する。
(2)キャップ&トレード型の国内排出量取引制度を導入する。
(3)炭素税の導入と税のグリーン化を実施する。
6.再生可能エネルギー100%ロードマップを策定する
(1)再生可能エネルギーの野心的な目標を定める。
具体的には、2030年50%、2050年100%とする。
(2)再生可能エネルギーの優先給電・接続を制度的に保障する。
(3)送電線利用ルールを改善し、電力系統の強化や効率的運用を実施する。
(4)再生可能エネルギー熱利用の推進政策(熱FITと熱インフラ)を整備する。
(5)持続可能な再エネ導入のための情報公開を行う。
7.新しい未来を市民参加でつくるために必要なしくみを整備する
(1)あらゆる主体が、持続可能な脱炭素社会の実現に参加するしくみを整える。
(2)気候変動政策やエネルギー政策に関する情報開示を担保する。
(3)政策形成プロセスへの環境NGOや市民参加を確保する。
提言(全文:全11ページ)
関連サイト
首相官邸:パリ協定長期成長戦略懇談会(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会)
環境省:パリ協定長期成長戦略懇談会(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会
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