2011年10月14日
プレスリリース「最高裁 温暖化防止情報の開示を認めず!」
気候ネットワーク 浅岡美恵
■本日、最高裁は、大規模エネルギー消費工場(省エネ法第一種指定管理工場)の年ごとの燃料や電気の使用量(2003年度分)について情報公開請求を非開示とした経済産業省の処分について、その開示を命じた東京地裁、東京高裁、名古屋地裁、名古屋高裁、大阪地裁の判決を取消し、行政の非開示処分の裁量を広く認めた大阪高裁の判決を結論において是認できるとして、公開請求を棄却する判決をした。
台風12号や16号など記録的豪雨による災害が世界の各地で頻発するようになっており、地球温暖化防止は緊喫の課題であり、産業革命前からの地球平均気温の上昇を2℃程度に止めるためには、先進国は2020年までに1990年の排出レベルから25%以上、2050年までに80%以上の削減が必要とされている。しかるに、これまでの日本の地球温暖化対策は原発推進と企業の自主的取組みに依存し、炭素税や国内排出量取引制度など実効性ある対策も導入されずに来ている。本日の最高裁判決は、情報公開法の制度趣旨を狭く解釈し、こうした国の対応を追認するものといわざるを得ない。
■気候ネットワークが開示を求めた情報は、地球温暖化防止のために1993年の省エネ法改正によって導入された定期報告制度に基づき、工場単位で化石燃料や電気の使用量を経済産業省に報告している情報である。CO2はわが国の温室効果ガス排出量の92%を占めるが、本件数値情報は工場ごとのCO2排出量の算定の基礎となるデータである。
石炭は天然ガスの1.8倍のCO2 を排出するなど、燃料や電気の種類によってCO2排出量が異なり、例えば石炭を多く使用する事業所では燃料転換によるCO2の排出削減の余地が大きいことがわかるもので、排出削減のための政策をとるための基礎情報となる情報である。
他方、2005 年度の地球温暖化対策推進法の改正において導入されたCO2 等温室効果ガスの排出量算定報告公表制度では燃料の種類やその使用量が不明であり、燃料の使用と電気の使用とを合算した排出量(いわゆる間接排出量)であって、燃料の消費にかかる直接CO2排出量も明らかにならないもので、CO2排出量の推移を確認できるに過ぎない。排出削減に向けた効果的な政策議論のための情報として不十分であるため、本件数値情報の開示を求めてきたものである。
■これまでに、エネルギー多消費業種も含め、約5000の事業所のうち94%の事業所について開示されている。非開示事業所は製鉄業や化学工業の一部など、312事業所、6.3%である。開示を拒んだエネルギー多消費事業所について、経済産業省はこれらの企業の意思に沿って、情報公開法第5条2号イに定める企業等に関する非開示情報に該当するとして非開示処分とした。
東京高等裁判所などは証人尋問等証拠調べを尽くした上で、本件数値情報によって得られる情報は精度の高いものとはいえないとして、情報公開法第5条2号イにいう不利益の恐れの蓋然性とはいえないと判断したものである。
しかしながら、最高裁は、本件定期報告にかかる数値情報が地球温暖化対策推進法でも権利利益の保護請求を定めていることから事業者の権利利益と密接に関係する情報であるとし、本件情報の性質や当該制度との整合性から、開示されない場合に比べて不利な状況におかれるとして、個別事業者の具体的な不利益を判断することなく、不開示情報にあたるとしたもので、国と開示を拒否した企業の主張をそのまま認めたものである。
このような判断によれば、これまで開示してきた94%の事業所のなかから、温暖化対策への積極的対応を標榜する一方で、今後は公開しないという事業者が現れかねないことが懸念される。福島第一原子力発電所事故による被災が広域の住民の生活や事業活動に深刻な影響を及ぼしているなか、国民がその生命健康にも重大な影響をもつ環境情報にアクセスできず、国がとるべき政策の方向を自ら判断する道を封じかねない。結果として、地球温暖化対策が遅れることになりかねず、その不利益は国民に及ぶことになる。
わが国において実効性のある地球温暖化対策を強化し、確実に排出削減を実施していくことは、将来世代に対する私たちの責務である。そのために、本日の最高裁判決にかかわらず、本件数値情報の公開と市民参加による温暖化対策の強化推進の必要性は、今後、ますます高まるものである。
以上
判決文
発表資料
関連ウェブページ
- 省エネ法情報開示訴訟 最高裁弁論が実施されました(2011年9月16日)
- 企業の排出量分析、温暖化防止情報開示訴訟(活動紹介ページ)
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