11月16日、気候ネットワークは、鹿島火力発電所2号機 環境影響評価準備書に対する環境保全の見地からの意見書を提出しました。

鹿島火力発電所2号機 環境影響評価準備書に対する環境保全の見地からの意見書

1. 石炭火力発電所の建設の問題について

①気候変動問題の緊急性
昨今、早急な気候変動対策が求められており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、とりわけ石炭について、エネルギーインフラ投資の在り方を変えていく必要性が強調されているところである。2015年6月にドイツで開催されたG7サミットでも、気候変動が最重要課題の一つと位置づけられ、「脱炭素化(decarbonization)」をめざすことが首脳宣言に盛り込まれた。
そのような状況の中、天然ガス(LNG)発電の約2倍の CO2を排出する石炭火力を新設することは、将来の気候変動へ甚大な環境影響を及ぼすことになる。よって、そのことを無視した本事業の実施には反対する。

②温室効果ガス排出量について
本準備書では利用可能な最新技術である超々臨界圧(USC)発電技術を導入するとともに、適切に環境設備を配置することで地域社会への環境負荷低減を図ることとしている。しかし、従来の設備に比べ効率を向上したとしても、最新のLNG火力の約2倍にも及ぶCO2排出量であり、石炭火力の増加によって追加的に排出される膨大なCO2による影響への配慮が全く見られないことは問題である。
LNG火力の最新型や、再生可能エネルギー発電所など、CO2排出量の少ない発電技術と比較すべきであり、石炭火力発電所は、最新型であっても大量のCO2を排出させるため、本計画は看過できない。
また、配慮書について述べられた意見に対する事業者の見解において、自主的取組として天然ガス火力を超過する分に相当する純増分について海外での削減に係る取組を行うとあるが、具体的にどのように実現していくのか、提示すべきである。

③エネルギー需要の予測について
今後、省エネ・再生可能エネルギーが普及していくことや、本発電所の稼動が予定されている2023年度には人口は減少に転じていることが予測されている。こうした影響を受けて、エネルギー需要がさらに減少することを考えると、このような大幅な設備増加が必要であるとは考えにくい。

④石炭火力発電の技術的限界
今後建設される発電所は、少なくともLNG火力が達成している約350g-CO2/kWhというCO2排出原単位を実現できる水準を満たすべきである。この観点からすると、石炭火力発電はいかなる高効率技術を用いてもこのレベルには到達しがたい。再生可能エネルギーや高効率のLNG火力発電など様々な発電方法がある中で、あえて最悪の石炭火力発電所を新たに建設するという判断自体が環境への配慮を著しく欠いていると言わざるを得ない。

⑤国の2050年長期目標との整合性について
日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。本事業が少なくとも30年程度稼働することを考えると、こうした国の目標と整合せず、本事業の正当性は認められない。

⑥第四次エネルギー基本計画との整合性について
石炭は安定供給性や経済性に優れるとしているが、為替動向の変化や、途上国を中心とする石炭需要の変化などの石炭価格への影響は予測がつかない上、国際的なCO2規制強化による炭素価格の上昇によって、石炭火力発電の経済性は低下する可能性が高い。本事業の配慮書に対する意見のなかで、経産大臣はCCSの導入に向けて、国の検討結果や、二酸化炭素分離回収設備の実用化をはじめとした技術開発を踏まえ、本発電所について、二酸化炭素分離回収設備に関する所要の検討を行うことを求めている。CCSが導入されれば事業の採算性は下がる可能性があるが、その場合の経済性に関する見解を示すべきである。

2. CO2排出に関する取り扱いと「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」との整合性について

IPCC第5次評価報告書において示されたように、CO2は気候変動の主因であり、地球環境に多大な影響を及ぼすことは明白である。BATを採用する場合でも、事業によって引き起こされるCO2の総排出量の影響を検討し、対応を実施することは、事業者の社会的責任として不可避である。
また、環境大臣から経産大臣への意見書では、「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」をふまえて環境対策を行うことを求めており、経産大臣意見でもその旨が明記されている。さらに2015年6月12日、環境大臣は西沖の山発電所(仮称)の計画段階環境配慮書に対する意見として、電力業界全体が温室効果ガス削減に取り組む枠組みが未構築であること、環境対策が明らかにされていないことを問題視している。2015年7月17日には電力業界の自主的枠組みが構築されたが、その実効性は疑問が持たれている。事業者は、取りまとめを踏まえて具体的にいつまでにどのような対応を行うのか、スケジュール を含めて明確にする責任がある。
直近では、環境大臣がそれぞれ、2015年8月14日武豊石炭火力発電所、同年8月28日(仮称)千葉袖ヶ浦発電所の計画段階環境配慮書に対し「是認することはできない」という立場を表明している。また、同年11月13日には、市原火力発電所及び秋田港発電所(仮称)の計画段階環境配慮書に対しても「是認することはできない」との意見を公表した。事業者は、5度の環境大臣の意見を踏まえ、当該事業を再考すること。

3. CO2排出による環境影響に関する具体的情報について

本準備書においてはCO2排出量や発電端効率等は示されているが、そのほか、使用石炭種を変える場合、あるいは、その可能性があるのであれば、主要産炭地毎の評価を実施すべきである。今後、低品位炭を使用して発電効率が低下した場合、環境影響評価を改めて実施するなどの対応策は事前に示されるべきである。これらは事業実施の是非や、周辺環境への影響にも深く関わる情報であると考えられるため、事業者はこれを早急に開示、取り決めをするべきである。

4. CO2排出に関する取り扱い

本準備書では、「施設の稼働により、化石燃料の燃焼に伴う二酸化炭素が発生するが、熱効率等において最高技術レベルの設備を導入することにより、二酸化炭素の排出を抑制し、環境への影響を低減することが可能であるため、計画段階配慮事項として選定しない」として、CO2排出量について検討されていない。しかし、IPCC第 5 次評価報告書において示されたように、CO2は気候変動の主因であり、地球環境に多大な影響を及ぼすことは明白である。使用される技術がBATに該当するとしても、事業によって引き起こされる CO2の総排出量の影響を検討し、対応を実施することは、事業者の社会的責任として不可避である。 「計画段階配慮手続に係る技術ガイド」によれば、事業によって「重大な影響を受けるおそれのある環境要素の区分を明らかにすべき」(p23)とあり、CO2排出量の程度が著しい事業は 「重大な環境影響」を持つとみなされる(p26)。回避・低減が可能、影響が可逆的、短期間 であるなどの特性を持つ影響は、方法書以降で扱うことができるとされている(p24)が、本事業を通じて大量に排出されるCO2による気候変動への影響は回避できるものでなく、またその影響は不可逆的であり、長期間にわたる。事業の計画段階において検討されるべき事項であることは論を待たず、この点を欠く本準備書は、十分に環境保全について検討しているとみなすことはできない。

5. 大気への影響について

①大気汚染物質
・硫黄酸化物
 硫黄酸化物は一般的に発電所の運転開始時、終了時には排出が高濃度になることが想定され、発電設備によって違いが生じるので、主要機種ごとに評価を実施する必要がある。
 また、使用する石炭の種類によっても汚染の度合いが異なることが考えられる。低品炭を使用すると高濃度になる可能性があるので、使用する可能性のある品種ごとに評価を実施すべきである。硫黄酸化物は、平均値だけでなく、最も汚染排出の度合いが大きいタイミング(例えば、最も低い品質の石炭を最大の稼働率で利用した場合や、低品位炭を用いて運転を開始する時・終了する時など)についても評価をすることが必要である。
 こうした排出は、環境基準値を下回れば良いのではなく、排出を最小化する技術選択を評価すべきである。
 そのほか、他の発生源との複合汚染や時間経過あるいは季節変化を踏まえた総合評価を実施すべきである。
・窒素酸化物
 窒素酸化物は、一般的に発電所の運転開始時、終了時には排出が高濃度になることが想定され、発電設備によって違いが生じるので、主要機種ごとに評価を実施する必要がある。
 また、使用する石炭の種類によっても汚染の度合いが異なることが考えられる。低品炭を使用すると高濃度になる可能性があるので、使用する可能性のある品種ごとに評価を実施すべきである。窒素酸化物についても、平均値だけでなく、最も汚染排出の度合いが大きいタイミング(例えば、最も低い品質の石炭を最大の稼働率で利用した場合や、低品位炭を用いて運転を開始する時・終了する時など)についても評価をすることが必要である。
 こうした排出は、環境基準値を下回れば良いのではなく、排出を最小化する技術選択を評価すべきである。
 そのほか、他の発生源との複合汚染や時間経過あるいは季節変化を踏まえた総合評価を実施すべきである。
・浮遊粒子状物質
 本準備書に示された大気質の状況によると、浮遊粒子物質(SPM)は測定局22局中11局で短期的評価に適合せず、微小粒子物質(PM2.5)は一般局4局中1局で長期的評価、短期的評価に適合せず、光化学オキシダントはそれぞれの物質を測定しているすべての一般局で環境基準の評価に適合していない。
 このような現状に加え、本事業による追加的な汚染物質の排出によってさらなる影響が懸念される。発電施設を建設し、道路など他の施設の環境対策を実施し、環境基準を下回る具体的対策の評価を実施すべきである。
・粉じん等について
 準備書において発電所の運転に使用が予定されている石炭の粒度分布を設定し、飛散の評価をしているが、石炭の種類によっては、低品位炭使用などがあれば高濃度になる可能性があるので、主要石炭種類毎に評価を実施すべき。
・重金属等の微量物質について
 水銀をはじめ、考えられる物質を広範囲に評価し、その排出が限りなくゼロになるような具体的な除去技術を複数手段、比較検討すべき。石炭種類、低品位炭使用などがあれば高濃度になる可能性があるので、主要石炭種類ごとに評価を実施すべき。
・大気全般について
 こうした環境基準を上回る項目もある状況下での新規設備の稼働・追加排出は、現状よりも周辺環境をさらに悪化させる可能性があり、事業の再考を求めたい。本計画による大気汚染の悪化によってしきい値を超え、現時点において表面化していない被害(健康被害等)を顕在化させる恐れもある。

②評価水準
環境基準を下回っていれば現状よりいくら汚染が悪化しても良いという考え方ではなく、現状より悪化させず、むしろ改善につなげるための技術評価を行うべきである。
また個別装置についても「濃度及び排出量を低減する。」、「適切な運転管理及び点検により性能維持を図る。」といった、第三者による計測、検証が不可能な評価基準にとどめるのではなく、既存施設の最良濃度を悪条件下でも越えない野心的な水準が必要である。

?使用燃料の違いによる大気汚染検証
石炭種類により、大気汚染物質、微量物質の排出量に影響が出る。使用される石炭における大気汚染物質、微量物質の排出量の評価を行うべき。使用石炭種を変える場合があれば、変える可能性のある主要産炭地ごとの評価を実施すべき。
 また、近い将来、低品位炭を使用する可能性があるなら、低品位炭を使用して汚染物質排出量の増加や種類が拡大した場合の環境影響評価を実施する必要がある。あるいは低品位炭を使用する際には運転を止めて環境アセスメントを改めてやりなおすことを取り決めるなど、なし崩し的な低品質炭利用による環境の著しい悪化を防ぐためのなんらかの方法を検討し、実施する必要がある。

④他の汚染源との総合評価
PM2.5やオキシダントなど環境基準を超過しているものがある。他の固定発生源との複合汚染、自動車・船舶・航空などとの複合汚染の総合評価を季節変化をふまえて実施すべきである。

6. 水質汚濁

排水の適正な処理等の環境保全措置を講じることにより、環境への影響を低減することが可能であるため、計画段階配慮事項として選定しないとあるが、石炭由来の重金属が適正処理により取り除けるかどうか、主要重金属それぞれについて評価すべき。

7. 騒音振動その他

発電所改革地は周辺の住居地域から約0.9km離れた場所に計画していること及び、低騒音の機器の採用、建屋内への配置、防音カバー、防音壁等の環境保全措置を講じることにより、環境への影響を低減することが可能であるため、計画段階配慮事項として選定しない、とあるが、低周波音は、騒音に比べて遠方まで伝搬するため、発生可能性のある機種ごとに、その施設内の配置と近隣住宅への影響を複数案で調査を実施するべき。

8. 廃棄物

事後活動により、廃棄物等の発生が考えられるが、再使用、再生利用及び関係法令に基づく適正処理等の環境保全措置を講じることにより、環境への影響を低減することが可能であること及び、資材等の搬出入車両の台数は、数十台/日程度と比較的少なく、重大な影響は考えられないため、計画段階配慮事項として選定しないとあるが、廃棄物に含まれる有害物質、重金属の運搬時の飛散、利用後の追跡調査(セメントに使用した場合、埋め立てに使用した場合に、その後数十年間に当該物質が外に出て環境影響をもたらす可能性など)を評価すべき。

9. 情報公開について

環境アセスメントにおいて公開される方法書などの資料は、縦覧期間が終了しても閲覧できるよう にするべきである。また、期間中においても、印刷が可能にするなど利便性を高めるよう求める。

 

意見書(ダウンロードはここから)

鹿島火力発電所2号機 環境影響評価準備書に対する環境保全の見地からの意見書(PDF)

 

関連文書

経済産業省 鹿島火力発電所2号機建設計画 鹿島パワー株式会社(環境アセスメントへの知事/住民意見など)(リンク

環境省 鹿島火力発電所2号機建設計画に係る環境影響評価準備書に対する環境大臣意見の提出について 平成28年5月27日(リンク