~偽りの環境配慮に騙されないために~

グリーンウォッシュを止めるには、私たち消費者も正しい知識を持ち、広告を厳しく見極めることが必要です。本ページでは、気候変動対策に関するグリーンウォッシュ広告でよく目にする用語の解説をまとめました。ウソやあいまいな情報に騙されないためのガイドとしてお役立てください。

項目(五十音順)

アベイトメント(Abated/Unabated)
アンモニア(燃料アンモニア/クリーンアンモニア)
エコ(ECO)
エシカル
カーボンオフセット
カーボンニュートラル
クリーン
グリーン
グリーン水素/グリーンアンモニア
グリーン冷媒
グレー水素/グレーアンモニア
原子力/原発
高効率石炭火力
混焼
合成メタン
水素
成長志向型カーボンプライシング
ゼロエミッション
ゼロエミッション火力/脱炭素火力
脱炭素電源
電動車
天然ガス(LNG)
バイオマス
パブリックコメント(パブコメ
非化石エネルギー
ブルー水素/ブルーアンモニア
メタネーション
CCS/CCUS
CO2が出ない火
e-メタン
GX(グリーン・トランスフォーメーション)

アベイトメント(Abated/Unabated)

アベイトメント(Abatement)とは、化石燃料施設からの温室効果ガス排出削減措置のこと。AbatedはCO2排出削減措置が講じられていること、Unabatedは措置が講じられていないことを指す。

2024年のG7サミット合意文書では、CO2排出削減対策が講じられていない(Unabated)石炭火力発電所を2030年代前半に段階的に廃止することが初めて記されたが、Unabatedの定義は明確にされなかった。日本政府は2021年発表の第6次エネルギー基本計画の中で、火力発電所での水素・アンモニア等の混焼やCCS導入、高効率石炭火力をアベイトメントに位置付けている。この解釈に従い、日本政府はG7合意では水素・アンモニア混焼やCCSを前提とした石炭火力発電所の利用継続が認められたと主張している。一方、IPCCのAR6統合報告書は、アベイトメントは発電所から排出されるCO2の90%以上を回収する策を講じていることと定義しており、日本以外のG7諸国もおおむねこの定義に従っている。石炭火力を温存するためにアベイトメントの定義を独自解釈することは、国際合意に違反するグリーンウォッシュである。

関連:高効率石炭火力、ゼロエミッション火力

アンモニア(燃料アンモニア/クリーンアンモニア)

窒素と水素の化合物で、刺激臭のある無色の気体。化学式はNH3で表される。肥料として用いられることが最も多いが、燃やしてもCO2を排出しないため、近年は「脱炭素燃料」「ゼロエミッション燃料」などと呼ばれ注目されている。

日本の政府や大手発電事業者は、石炭火力発電所の燃料の20%をアンモニアに置き換えること(混焼)によってCO2排出を20%削減できると主張し、2030年までの実現を目指す。さらに、2050年までにアンモニア専焼(燃料の全てをアンモニアに置き換え)を実現することで、石炭火力発電所のCO2排出をゼロにできると主張している。

しかし、現在商業的に確立しているアンモニアの製造方法は、化石燃料燃料から製造する方法(化石燃料に含まれる炭化水素と窒素を高圧・高温下で反応させるハーバー・ボッシュ法)であり、製造過程で大量のCO2を排出する(「グレー水素/グレーアンモニア」の項を参照)。アンモニアやその原料を海外から輸送する際にもCO2が排出される。気候ネットワークの計算では、石炭火力でのアンモニア20%混焼で削減できるCO2の量は4%程度にすぎない。

コストの高さもアンモニア燃料の課題である。初期投資も原料となる化石燃料費も高額であり、最もコストが安いグレーアンモニアであっても、LNGや石炭などの既存燃料より高価となる。2030年には太陽光や風力などの再生可能エネルギー電源の方が安価になると分析されている。また、混焼・専焼には技術的課題が多く、政府や事業者の見通し通りの実用化には不確定要素が大きい。燃焼時に大気汚染物質のNOxを排出する問題もある。

こうした問題にもかかわらず、日本政府は、技術開発、設備投資、大規模なサプライチェーン構築による需要創出、既存燃料との価格差の補填など多額の支援を通じて、アンモニア燃料の利用を推進している。政府や発電事業者が石炭火力でのアンモニア混焼・専焼の実現を前提に脱炭素へのロードマップを描いていることは、グリーンウォッシュとして批判されている。

関連:グリーン水素/グリーンアンモニア、グレー水素/グレーアンモニア、ブルー水素/ブルーアンモニア、混焼、ゼロエミッション火力、CO2が出ない火

エコ(ECO)

エコロジー(ecology)の略で、もともとは学問としての生態学や、自然環境保全の意味。「環境に良い」という意味で使われている。「エコな商品」のように商品・サービスの宣伝文句に多用されるが、この言葉だけではどのように環境に配慮しているのか具体的でなく、曖昧なイメージがグリーンウォッシュに利用されることもある。

類語:エシカル、クリーン、グリーン
用例:エコなファッション、エコ生活、エコドライブ

エシカル

倫理的であること。「エシカル消費」「エシカルな商品」といった用例は、環境や社会にやさしい商品や、それを購入する消費行動やライフスタイルを指す。この言葉だけではどのように環境に配慮しているのか具体的でなく、曖昧なイメージがグリーンウォッシュに利用されることもある。

類語:エコ、クリーン、グリーン
用例:エシカル消費、エシカルな商品、エシカルなライフスタイル

カーボンオフセット

自らの温室効果ガス排出量を、他の場所や他者によって実現した温室効果ガス排出削減・吸収量によって「埋め合わせ(オフセット)」する考え方や仕組みのこと。具体的には、植林・森林保護に取り組む例や、他者が再生可能エネルギーの利用や省エネなどで達成した排出削減・吸収量を「クレジット」として購入し、そのクレジット分を自身の排出削減量とみなす例などがある。

しかし、カーボンオフセットは自らが排出削減努力をしないことの免罪符とされる懸念もある。カーボンオフセットをしていることを理由に、自社の取組や製品をカーボンニュートラルと称している事例は少なくないが、自らの排出削減努力が不十分なまま、カーボンオフセットによって気候変動対策をしているように見せかけることはグリーンウォッシュにあたる。クレジットの基となる排出削減量の算出方法の透明性が低いケースや、オフセットのために植林した樹木がすぐに枯れるなど、有効性や永続性が疑われるケースもある。2023年には、米国のデルタ航空の「カーボンニュートラル」キャンペーンは外部からのクレジット購入に頼り、実際の航空事業からの排出削減が不十分なため、グリーンウォッシュであるとして集団訴訟が起こされた。EUは2024年、カーボンオフセットを利用する場合、「クライメートニュートラル」や「クライメートポジティブ」などの用語を使用することを2026年までに禁止すると決定した。カーボンオフセットの役割はあくまでもその他の脱炭素の取り組みの補完であり、最後の手段とすべきである。

カーボンニュートラル

産業活動などにより排出される温室効果ガスの量と、森林などにより吸収される温室効果ガスの量が差し引きでゼロになっている状態のこと。「ネットゼロ」もほぼ同義。2015年のパリ協定で、「今世紀後半にカーボンニュートラルを達成」が世界共通の長期目標となると、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を掲げた。日本は2020年10月、菅元首相の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言。同目標は企業や自治体にも広がっている。

一方、2050年にカーボンニュートラルを達成するだけでは、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えることはできない。重要なのは2050年より手前の中間目標である。地球の気温上昇を一定レベルに抑えるために許される残りのCO2排出量はカーボンバジェット(炭素収支/炭素予算)と呼ばれる。気温上昇を1.5℃に抑えるための残りのカーボンバジェットは約4000億トンで、今のペースでCO2排出を続ければ約10年で使い切ってしまう。2050年にカーボンニュートラルを達成できても、それまでにCO2排出量がカーボンバジェットを超えれば、1.5℃目標は達成できない。今すぐ大幅な排出削減に取り組み、2030年までに世界のCO2排出量を半減させる必要がある。「2050年カーボンニュートラル」を掲げていても、2030年目標や具体的な排出削減策が示されていない場合はグリーンウォッシュだと言える。

クリーン

清潔なさま、きれいなさま、汚れがないさま。「環境を汚染しない」という意味でも用いられる。原子力や高効率石炭火力、LNG火力を指して「クリーンエネルギー」と呼ぶことがあるが、放射性物質による汚染や、高効率でも石炭火力やLNG火力は大量のCO2を排出することなどが無視されており、グリーンウォッシュの典型的な事例である。

用例:クリーンエネルギー、クリーンコール
類語:エコ、エシカル、グリーン

グリーン

植物の緑色を連想させることから、自然環境保全や「環境にやさしい」の意味で使われる言葉。「グリーン家電」のように、商品・サービスが環境に配慮していると宣伝する際にも使われるが、この言葉だけではどのように環境に配慮しているのか具体的でなく、曖昧なイメージがグリーンウォッシュに利用されることもある。日本政府が化石燃料や原子力の利用を促進する政策を「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」と呼んでいることは、この言葉を使ったグリーンウォッシュの典型的な事例。

関連:グリーン冷媒、GX
類語:エコ、エシカル、クリーン

グリーン水素/グリーンアンモニア

水素・アンモニアの製造方法の種類を色分けしたものの一つ。グリーン水素は、再生可能エネルギーで発電した電気で水を電気分解し製造された水素のことで、製造時にもCO2を排出しない。グリーン水素を窒素と反応させて製造されたアンモニアは、グリーンアンモニアと呼ばれる。ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる従来の製造方法は高圧・高温下で水素と窒素を反応させるため多くのエネルギーを要するが、現在はグリーン水素から電界合成によってグリーンアンモニアを製造する方法が研究されている。

グリーン水素・グリーンアンモニアは製造時にもCO2を排出しないため、これらを火力発電所で専焼することができればゼロエミッションとなる(ただし、サプライチェーン全体では輸送時に排出されるCO2も考慮する必要がある)。しかし、再エネの電気を使って製造したグリーン水素・グリーンアンモニアを火力発電に使うのであれば、再エネの電気をそのまま利用したほうが効率が良く、コストもかからない。グリーン水素・グリーンアンモニアは、当面製造量も限られ価格が高くなるため、再エネに切り替えられる発電には利用せず、化石燃料からの切り替えが難しい分野(航空燃料など)での利用に限定するのが望ましい。

関連:アンモニア、水素

グリーン冷媒

現在、エアコンや業務用冷凍冷蔵庫などの冷媒には温室効果係数の高いHFC(ハイドロフルオロカーボン)が使われている。そのため、HFCの代替として、経済産業省は「グリーン冷媒」への転換を進める政策を推進。しかし「グリーン冷媒」の中には、自然系物質の自然冷媒とフッ素系ガスのHFO(ハイドロフルオロオレフィン)の両方が含まれている。HFOは温室効果係数は低いものの、有機フッ素化合物であり、発がん性があるなど別の環境影響や健康影響のリスクが高いとされ、国際的には自然冷媒とは異なるものとして区別されている。日本独自に「グリーン冷媒」などと表現することは、消費者に新たなリスクを隠し、誤解を与えるもので、グリーンウォッシュの典型である。

関連:グリーン

グレー水素/グレーアンモニア

水素・アンモニアの製造方法の種類を色分けしたものの一つ。グレー水素は、石炭や天然ガスなどの化石燃料を高温で分解・改質して製造した水素のことで、製造過程でCO2が排出される。グレーアンモニアは、グレー水素と窒素を高圧・高温下で反応させることで製造するアンモニアのこと。

日本政府・発電事業者は、燃焼時にCO2を排出しない水素・アンモニアを火力発電所の燃料に利用することを推進している。グレー水素・アンモニアは製造・輸送の過程でCO2を大量に排出するため、火力発電の燃料に使用してもCO2削減効果はほとんどないが、政府は大規模サプライチェーンを構築して需要を創出するため、当面はグレー水素・アンモニアに対しても制度的・経済的な支援を行うとしている。

関連:アンモニア、水素

原子力/原発

原子力発電は発電時に温室効果ガスを排出しないため、気候変動対策と称して推進されることがある。しかし原発は電力需要や再エネ発電の変動に合わせた出力調整ができず、調整力やトラブルへの備えとして火力発電を必要とするため、脱炭素の選択肢とはならない。また、送配電システムを原発優先とすることで、再エネ電力の出力が制限されるなど、原発維持政策は再エネ導入拡大の足かせともなっている。近年はフランスで熱波による高温が原発の冷却機能に影響し、原発の出力が低下した事例などから、気候変動に対する原発の脆弱さも指摘されている。原発事故のリスク、原発作業員やウラン採掘労働者が強いられる被ばく、増え続ける「核のゴミ」など、原発がもともと抱えている問題にも目を向ける必要がある。

日本政府はGX政策の中心に原発の活用を据え、原発再稼働の推進に加え、次世代革新炉の開発・建設にも取り組むとしている。だが原発の新設には10年以上かかり、近年は建設期間のさらなる長期化や建設費の高コスト化が目立つ。次世代革新炉の多くは実用化の目途も立っておらず、1.5℃目標達成のために必要な2030年までの取組に間に合わない。膨大な費用がかかり、気候変動対策効果がより高い再エネや省エネへの投資を遅らせることも問題である。

高効率石炭火力

石炭火力発電設備のうち、1990年代に実用化された超々臨界圧(USC)技術や、石炭ガス化複合発電(IGCC)技術を用いたもの。1970年代まで主流だった亜臨界圧(SUB-C)、超臨界圧(SC)といった従来型の発電技術と比べるとCO2排出量が少ないため、日本のプラントメーカーや政府は「高効率」と呼んでいる。しかしどんなに効率を高めても従来型と比べ15%程度の排出削減に留まり、最新型LNG(天然ガス)火力と比べると2倍のCO2を排出する。

資源エネルギー庁資料を基に気候ネットワーク作成

混焼

火力発電所の燃料に、別の代替燃料を混ぜて燃焼し発電することを指す。代替燃料としては、バイオマス(木材や廃棄物のような生物由来の有機性資源)や水素、アンモニアなどがある。これらの燃料を混ぜることで気候変動対策を行っているとアピールされることがあるが、「バイオマス」「水素」「アンモニア」の項の通り、実際には気候変動対策の効果が薄く、グリーンウォッシュの一手段と見なされるものもある。なお一部の事業者は国内外からの批判を意識し、混焼を「移行」や「トランジション」と言い換えているが、内実は同じである。

関連:アンモニア、水素、バイオマス

合成メタン

メタン(CH4)を人工的に製造したもの。主に水素と回収したCO2から生成されるため、カーボンリサイクルの一手段とみなされ、環境に良いものとしてアピールされる機会が増えている。しかし、原料の水素とCO2は簡単に入手できるものではなく、コストやエネルギー効率上の問題がある。水素は、現状では大半がグレー水素である。また、CO2は火力発電所や工場などの大量排出施設からの回収が見込まれるが、回収率は現実的には良くても6〜7割程度と限定的である。また、合成メタンを利用する際には再びCO2が発生するが、その回収は非常に難しく、大気放出となる可能性が高い。

合成メタンが真にカーボンニュートラルとなるためには、グリーン水素と、(排気からではなく)大気から直接回収したCO2を用いて製造される必要がある。しかし大気からのCO2直接空気回収技術(Direct Air Capture)はコストが高く、大規模商用化するには長い年月を要すると予想される。合成メタンは化石燃料利用が継続することを前提に推進されている技術であり、環境に優しいとは言い難い。

関連:水素、メタネーション、CCS/CCUS、e-メタン

水素

可燃性ガスの一種で、無色・無臭。化学式はH₂で表される。燃焼すると酸素と反応して水となり、温室効果ガスを発生させないため、クリーンな燃料として注目されているが、製造方法や用途によってはグリーンウォッシュだと批判される。

水素はその製造方法によって、「グレー」「ブルー」「グリーン」などに色分けされている(各項目を参照)。グリーン水素以外は製造時にCO2を排出するため、気候変動対策として有効ではない。グリーン水素も製造コストが高いため、用途は製鉄における水素還元や航空燃料など、発電以外の分野に限るべきである。グリーン水素を発電に使用することは、再エネ電力を直接使うことと比べ非効率・高コストであり、火力発電設備の延命にしかならない。

「使用時にCO2を出さない」などともてはやされているが、燃料電池など含め、現在市場に出回っている水素は大半がグレー水素で、製造時に大量のCO2を排出している。

関連:グリーン水素/グリーンアンモニア、グレー水素/グレーアンモニア、ブルー水素/ブルーアンモニア、混焼、ゼロエミッション火力/脱炭素火力、電動車

成長志向型カーボンプライシング

日本政府がGX推進策として構想するカーボンプライシング。カーボンプライシングは、企業などが排出するCO2に価格をつけ、排出量に応じて負担を求めることで、CO2排出量を削減する政策手法。日本政府は2023年2月に閣議決定した「GX基本方針」の中で、成長志向型カーボンプライシング構想を打ち出した。化石燃料輸入事業者からCO2排出量に応じた賦課金を徴収する化石燃料賦課金を2028年から導入。さらに、2033年に排出量取引を開始し、発電事業者にCO2排出枠を一部有償で割り当て、その量に応じて特定事業者負担金を徴収するとともに、企業間での排出枠取引を促す。成長志向型カーボンプライシングで得られた財源は、GX推進のために政府が発行する20兆円のGX移行債の償還に使われる。

カーボンプライシングは適切に導入されれば企業によるCO2排出量を制限し、得られた財源を再エネ・省エネへの投資や、脱炭素化にともなう国民の負担の軽減に役立てる有効な手法となるが、日本の成長志向型カーボンプライシングには多くの課題がある。まず、化石燃料賦課金の導入は28年、排出量取引は33年までは企業の自主性に委ねており、2030年までに急ぐ必要のある温室効果ガス排出削減に間に合わない。設定される炭素価格(CO2の価格)も国際的な水準と比べ低く、排出削減効果が期待できない。成長志向型カーボンプライシングで得られる財源を基にしたGX移行債による支援対象に、グレー水素・アンモニアやCCSなど、排出削減効果に乏しく、石炭火力の延命につながるような施策が含まれており、大量にCO2を排出する大手電力事業者などを支援する仕組みになっていることも問題である。

関連:GX

ゼロエミッション

温室効果ガスの排出(エミッション)がゼロであること。「ゼロエミッション」という言葉が商品や企業の取組の広告に使われている場合、原料調達・製造時・使用時・廃棄など、ライフサイクルのどの段階までを含めているか注意する必要がある。「ゼロエミッション」と表記しつつ根拠が示されていない場合は、グリーンウォッシュにあたる可能性がある。

用例:ゼロエミッション火力、ゼロエミッション車

ゼロエミッション火力/脱炭素火力

水素・アンモニアなどの代替燃料の利用やCCUによって温室効果ガス排出をゼロにした火力発電所のことを指すが、そのようなものは存在せず、今後の実現も難しい。火力発電のライフサイクル全体で温室効果ガス排出ゼロにするのは、技術的・経済的に極めて難しく、温室効果ガスを漏らさない資源の採掘プロセス、多大な代替燃料、運搬の脱炭素化、完全な温室効果ガスの回収・貯留技術などが必要となるが、これら全て実現の見通しは立っていない。

これらの問題を残しながら「ゼロエミッション火力/脱炭素火力」を推進することは、火力発電の延命につながり、気候変動をさらに加速させることになる。火力発電は気候変動を引き起こしてきた主要因であり、気候変動の抑制のためには一刻も早く退出させていくべきである。

関連:ゼロエミッション、CCS/CCUS、CO2が出ない火

脱炭素電源

発電・供給時にCO2を排出しない電源。太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーや原子力発電を指す。日本政府はこれらに加え、水素・アンモニアを混焼する火力発電や、LNG火力発電まで含め「脱炭素電源」と位置付けている。

水素・アンモニア混焼火力やLNG火力はCO2を排出する電源であるが、日本政府はそれを「脱炭素電源」と位置付けることで「長期脱炭素電源オークション」制度に組み込んでいる。長期脱炭素電源オークションは、原発やLNG火力、水力や蓄電池などの新設またはリプレースや既存火力への水素・アンモニア混焼設備の設置を政府が支援する仕組みで、落札された電源には原則20年間、固定費水準の収入が保証される。再エネ電力販売事業者も含めた小売業者が一律に支払う拠出金を元手として、脱炭素につながらない電源に多額の政府支援が行われる。太陽光や風力など再エネも名目上は対象となっているものの、入札できる設備容量の下限基準が高すぎて事実上排除されており、非常に問題のある制度である。

関連:アンモニア、原子力/原発、混焼、水素、ゼロエミッション火力/脱炭素火力、天然ガス

電動車

エンジンのみではなく、電力とモーターで駆動する自動車。日本独自の呼び方であり、電気自動車(EV:Electric Vehicle)とは異なるので、注意が必要。電動車には、電動モーターのみで動き外部から充電できるBEV(バッテリー式電気自動車)、ガソリンエンジンと電動モーターで動き外部から充電できるPHV(プラグイン・ハイブリッド自動車)、ガソリンエンジンと電動モーターで動き外部からの充電はできないHV(ハイブリッド自動車)、水素燃料で発電し電動モーターで動くFCV(燃料電池車)がある。PHVやHVはガソリンを使用するため脱炭素とならない。FCVとBEVをまとめて「ゼロエミッション車」と呼ぶこともあるが、FCVは燃料となる水素の製造方法に注意が必要であり(「水素」の項参照)、高コスト・非効率なため市場から消えつつある。

狭義のEVはBEVのみで、それ以外については2035年を機に世界で規制が予定されている。中国や米国カリフォルニア州などはHV新車販売を禁止、さらに欧州はPHVも禁止する。日本の自動車産業と経済産業省は海外で規制される車種も含め「電動車」と呼ぶことにこだわり、規制対象としていない。

天然ガス(LNG)

化石燃料の一種である気体燃料。「天然」というと環境に良い印象を持たれがちだが、実際には気候変動を助長している化石燃料であり、最近では「化石ガス」と呼ぶ向きもある。燃焼時に石炭の半分程度しかCO2を排出しないことや、硫黄分を含まず、燃焼時に大気汚染物質である硫黄酸化物(SOx)を排出しないことから「環境にやさしい」と表記されることがある。最近の調査により、天然ガスの採掘から輸送パイプライン、液化過程を含めたインフラからのメタン排出が問題となっており、ライフサイクル全体では石炭に匹敵するほどの温室効果ガスを排出していることが明らかになってきた。2024年5月、EUは輸入する石油・天然ガスにメタンの排出規制を適用する法案を承認している。また燃焼すれば、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)は排出される。

バイオマス

化石燃料以外の、生物由来の有機性エネルギー資源。木材、農業残さ(もみ殻など)、生ごみ、紙ごみ、動物の糞尿、下水汚泥などが含まれる。人間がエネルギー源として長らく利用してきた薪や炭などもバイオマスにあたる。バイオマスの燃焼で生じるCO2は、生物の成長過程で大気中から吸収したCO2であるため、脱炭素燃料として注目されている。

一方、バイオマスは利用の仕方を間違えると、森林破壊や食糧との競合などの問題を引き起こし、CO2排出を増加させることもある。バイオマスの大規模利用は生産、加工、輸送の過程で化石燃料を消費する。燃料のために森林を伐採する場合、木材の燃焼ですぐにCO2が排出されるが、森林が再生し、排出された分のCO2が吸収されるには数十年から数百年かかる。したがって、2030年までといった短い時間軸で考えると、森林伐採によるバイオマス利用は気候変動対策に逆行することになる。木質バイオマスは海外からの輸入も多いが、現地での生物多様性の損失や地域社会への影響も考慮する必要がある。日本では石炭火力発電所の燃料に木質バイオマスを混ぜるバイオマス混焼も行われているが、石炭を完全に代替するものではなく、CO2排出削減効果は小さい。

それぞれの地域で生じた有機系廃棄物を産業用熱や暖房のエネルギー源として利用する場合は持続可能性の問題が生じにくい。だが発電分野では太陽光や風力の方がCO2削減効果が高く、コストもバイオマスを使った発電より安くなりつつある。

パブリックコメント(パブコメ)

国の行政機関が政令や省令等を定める際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てるための制度。2005年6月の行政手続法改正により法制化された。原則として30日間以上の期間を設け、現在は多くの場合オンラインで意見募集が行われる。

気候変動・エネルギー政策に関してもパブコメが実施されるが、パブコメのタイミングは政策や法律の案がほぼ固まった後であり、国民から集めた意見は「参考にする」のみで、具体的に反映されることがほぼない。募集期間はわずか1か月にとどまるものがほとんどで、締め切り日翌日には原案のまま決定していることなどもあり、単なる行政の形式的な「市民参加」のアリバイづくりに利用しているとの批判も多く、政策に関する十分な議論や幅広い意見募集をしようとする姿勢に欠ける。

発電事業者も、環境影響評価法に基づき事業計画に関する意見募集を実施するが、この場合も、計画がほぼ固まった後で実施され、発電所建設への反対意見が集まっても計画が見直されることはないなど、行政のパブコメと同様の問題がある。

非化石エネルギー

日本独自の用語で、石油、石炭、天然ガスなどの化石エネルギーではないエネルギーを指す。太陽光や風力などのほか、原子力、水素・アンモニアなども非化石エネルギーと位置付けられている。政府は、2023年度の省エネ法を改正し、供給側にだけではなく、需要側に対しても化石エネルギーからの転換を促しているが、原子力、水素・アンモニアによる混焼を推進することは、気候変動対策に逆行する側面があり、再生可能エネルギーと合わせた総称として「非化石エネルギー」と位置付けるのは、誤解を与える言葉であり、「脱炭素電源」と同様、グリーンウォッシュと言える。

関連:アンモニア、原子力、水素、脱炭素電源

ブルー水素/ブルーアンモニア

水素・アンモニアの製造方法の種類を色分けしたものの一つ。製造過程で原料の化石燃料から排出されるCO2を、CCS技術により回収・貯留して製造された水素・アンモニアのこと。CCSはコストが高く、技術が未成熟で、CO2を100%回収し長期間にわたって貯留することは困難である。詳しくは「CCS/CCUS」の項を参照。

関連:アンモニア、水素、CCS/CCUS

メタネーション

合成メタンを製造すること。詳しくは「合成メタン」の項を参照。

CCS/CCUS

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収·貯留)は、火力発電所や化学工場、製鉄所などの排ガスからCO2を分離・回収し、地中や海底下に圧入・貯留する技術。CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)は、CO2を原油増進回収、化学原料などの用途で活用する技術をCCSに組み合わせたもの。日本政府はCCU/CCUSを推進し、その実用化を前提に石炭火力発電所を使い続けようとしている。

IPCCは第6次評価報告書第三作業部会のレポートで、「地中貯留が可能であれば、CCSは選択肢の一つ」としながらも、CCSは技術が成熟していないとしている。CO2分離回収は技術的に困難で、大量のエネルギーが必要なうえ、回収率は6〜7割にとどまる。CO2以外のメタンなどの温室効果ガスは回収できない。地下深くの貯留層に圧入井からCO2を圧入する際にも大量のエネルギーが必要となる。圧入後はCO2の漏洩がないよう数百年単位の長期間にわたるモニタリングも必要で、コストも膨大となる。貯留層が海底下の場合には、CO2の海上輸送が必要となり、貯留地のモニタリングは陸上以上の困難が伴う。さらに、地中にCO2を注入することによる地震誘発の可能性が指摘されているほか、米国では濃縮されたCO2の漏洩による大事故も発生している。

日本政府はCCSへの政策支援を長年行っているが、地震の多い国内ではCO2貯留適地の確保が困難であり、海外にCO2を運んで貯留することも検討されている。莫大なコストがかかるCCSは、あくまでもCO2排出削減が不可能な分野における最後の手段である。CCSを前提に既存の火力発電設備を延命することは、CO2削減効果が乏しいばかりか、無駄な投資に終わることが強く懸念される。

CO2が出ない火

日本最大の火力発電事業者である株式会社JERAが広告で使用するキャッチフレーズ。同社は、石炭火力発電所でのアンモニア混焼によって「CO2が出ない火」を実現し、2050年CO2排出ゼロを目指すとする広告を、テレビCM、映画館や野球場の動画広告、YouTube公式チャンネル、新聞、インターネットなどで展開している。しかしアンモニア混焼は石炭火力の延命につながり、CO2排出削減効果もわずかしかない。

気候ネットワークと環境法律家連盟は2023年10月、JERAの「CO2が出ない火」広告はグリーンウォッシュであるとして、日本広告審査機構に対し、広告中止の勧告を求める申立をした。

関連:アンモニア、混焼、ゼロエミッション火力/脱炭素火力、脱炭素電源

e-メタン

日本ガス協会は、合成メタンの中でもグリーン水素等の非化石エネルギー源を原料として製造されたものを「e-メタン(e-methane)」と定義している。しかし、非化石エネルギーにはブルー水素等の化石燃料由来の原料も含まれる。詳しくは「合成メタン」の項を参照。

関連:水素、合成メタン、メタネーション

GX(グリーン・トランスフォーメーション)

経済産業省が提唱した言葉で、Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)の略語。化石燃料中心の産業・経済・社会構造を、クリーンエネルギー中心の構造に転換し、脱炭素社会を目指す取り組みのこと。日本政府は2022年7月にGX実行会議を立ち上げ、2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定。2023年5月に「GX推進法」と「GX脱炭素電源法」を成立させ、同年7月に「GX推進戦略」を策定した。GX推進のために今後10年間で官民合わせ150兆円の投資が予定されており、GX経済移行債により、国が20兆円規模の先行投資支援を実施する。

これらを通じたGX推進策には、徹底した省エネの推進、再生可能エネルギーの主力電源化などが含まれるが、政策の柱は原発の再稼働や次世代革新炉の開発、水素・アンモニアの生産支援、アンモニア混焼やCCSの実用化による石炭火力発電所の延命などにある。日本政府が掲げるGXは気候変動対策よりも、化石燃料や原発の利用を前提とした既存の産業構造の維持を優先する内容となっており、「グリーン」の名を冠したグリーンウォッシュだと言える。