気候ネットワークは、東北電力による「東新潟火力発電所1・2号機リプレース計画に係る計画段階環境配慮書」に対し、以下の内容の意見書を提出しました。

計画段階環境配慮事項の項目に温室効果ガスの排出を含めるべき

 二酸化炭素等の温室効果ガスについて、「高効率コンバインドサイクル発電設備へのリプレースであり、発電電力量当たりの二酸化炭素排出量を低減する計画であることから、計画段階配慮事項として選定しない」としているのは適切ではありません。
 気候変動による被害が激甚化するなか、世界はパリ協定とグラスゴー合意の下で、地球の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃に抑えることを目指しています。そのためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を2050年に実質ゼロにするだけでなく、2030年までに半減させなければなりません。IPCC第6次評価報告書によれば、1.5℃目標達成までの残余のカーボンバジェットは限られており、残された選択肢や時間はわずかであることが明らかになっています。一方で、国連環境計画(UNEP)が2023年11月に公表した「排出ギャップ報告書2023」では、世界の温室効果ガス排出量は増加し続けており、現在のような排出が続けば、気温は今世紀中に産業革命以前よりも約3℃上昇する可能性が指摘されています。
 こうした危機的な現状において、個別の発電所が排出する温室効果ガスは、気候変動の加速、さらには人々の生活環境に対し多大な影響があると考えるべきです。本計画の実施による二酸化炭素等の温室効果ガス排出量やその影響は配慮事項に含まれるべきであり、二酸化炭素の排出係数すら示されていないことは問題です。 本計画は二酸化炭素排出量を従来型に比べ3割程度削減すると見込んでいるものの、LNG火力である以上、再生可能エネルギーと比べ膨大な量の二酸化炭素を排出します。また、LNG火力の排出係数は、ガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度とされておりこれは国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に「Net Zero by 2050」で示した1.5℃シナリオで求められている2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなり、1.5℃目標に整合しないことは明らかです。

複数案の検討が不十分。複数の燃料種やリプレースを伴わない廃止についても検討すべき。

 煙突の高さと発電設備の配置エリアについての複数案検討では不十分です。本計画では1・2号機のリプレースによる熱効率の向上によって、発電電力量あたりの燃料使用量及び二酸化炭素排出量を従来型に比べて3 割程度削減するとしていますが、新たなガス火力発電施設へのリプレースを行わずに1・2号機を廃止すれば、より大幅な二酸化炭素排出量削減が可能です。気候変動対策として化石燃料からの脱却が急務とされている状況下では、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの転換や、1・2号機のリプレースを伴わない廃止についても複数案として検討すべきです。
 また、電力の安定供給と発電コスト低減に貢献することが期待されるとしていますが、今後も世界情勢の変化によりLNGを含めた化石燃料の価格が大幅に変動する可能性や、カーボンプライシング導入のことも鑑みたとき、電力の供給価格も大きな影響を受けると予想されます。すでに太陽光発電や風力発電の発電コストが火力発電よりも安くなる中、LNG火力で採算をとることは厳しいだけでなく、日本のエネルギーの安定供給や安全保障面から見ても、新設のLNG火力発電には多くの不安要素があります。よりエネルギー安全保障に寄与し、発電コストが安く需要が高まると考えられる太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの導入を含めた複数案を検討するよう求めます。

カーボンニュートラル燃料について

 貴社は「火力電源におけるカーボンニュートラル燃料(水素、アンモニア)の利用に係る実証や研究を進めており、リプレース後の発電設備においては、将来的にカーボンニュートラル燃料を導入する場合に必要となる設備対策や,それに伴うサプライチェーン構築などの調達面の課題について、検討を進めていく」としていますが、発電における水素・アンモニアの利用は、気候変動対策の面でも発電コストの面でも望ましくありません。
 東新潟火力発電所で将来の利用を目指しているのは水素燃料だと考えられますが、現状、入手可能で商用発電に利用可能な水素のほとんどは、化石燃料から生成する「グレー水素」であり、水素の製造時や輸送時の排出量まで含めて考慮すれば、地球温暖化対策として有効に機能する「カーボンニュートラル燃料」とは言えません。水素燃料は、どのように作られたのかまで含めたライフサイクル全体での削減効果について定量的に評価することができなければなりません。さらに、大規模火力発電所の需要を賄える量の水素燃料を供給できる目途は立っていません。
 再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造すれば、その水素は理論上、CO2を排出しない「グリーン水素」燃料と言うことができますが、これが実現できるのは再生可能エネルギーによる電力が有り余っていることが前提となります。それだけの量の再生可能エネルギーがあれば、それを直接、電力として利用した方が高効率で低コストです。
 水素燃料は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要があるとされています。 今年のG7広島サミットにおいても、水素・アンモニアの利用は1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付されており、脱炭素技術としてG7で承認されたわけではありません。
 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1 月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘しています。
 また、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050 年までの CO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されています。一方で、水素やCCUSは実証/試験段階かつ削減の貢献度が低いとされています。
 以上をふまえると、「カーボンニュートラル燃料」の将来的な導入を検討することを口実に本計画を進めることは、日本の2050年カーボンニュートラル目標に合致するとは言い難く、国際的な見解からも賛同は得られないものと考えます。

G7合意など国際合意との整合性への疑問

 2023年に日本が議長として開催したG7広島サミットでは、「2035年までの完全又は大宗の電力部門の脱炭素化を図る」こと、「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」との文書(コミュニケ)が合意されました。
 また、IEAが2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、1.5℃目標に関するシナリオとして天然ガスについて「2030年までに発電量をピークとし、2040年までに90%低下させる」ことが示されています。 本計画は二酸化炭素排出量を従来型に比べ3割程度削減すると見込んでいるものの、LNG火力である以上、再生可能エネルギーと比べ膨大な量の二酸化炭素を排出します。LNG火力の排出係数はガスコンバインドサイクルが0.32~ 0.36kg-CO2/kWh程度であり、これはIEAが上記の報告書で示した1.5℃シナリオで求める2030年の排出係数0.138kg-CO2/kWhと比べ約2.5倍にもなる数値です。2030年に6号機、2035年に7号機を稼働させる予定の本計画が、国際的な合意やシナリオに整合しているとは言えません。

LNG火力インフラにおけるメタン漏れの可能性について

 LNG火力は、石炭火力と比べれば燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、カーボンニュートラルへの「つなぎ役」として新設やリプレースが正当化されがちですが、LNGのインフラからの温室効果ガス漏出量は石炭火力に匹敵するとの研究結果が明らかになっています。天然ガスの主成分はメタンであり、二酸化炭素の28~34倍もの温室効果をもつ強力な温室効果ガスです。今年7月にEnvironmental Research Letters誌に掲載された論文によると、天然ガスの井戸、生産施設、パイプラインなどから少量のメタンが漏出するだけでも石炭と同程度の排出量になる可能性があります。メタン漏れの量とそれが気候変動に及ぼす影響の大きさは世界的に軽視されており、メタン漏れを完全に予防することは困難です。
 メタン漏れの影響を考慮すれば、LNG火力の利用が地球温暖化対策になるとみなすことはできません。また、世界各地ではガス採掘、パイプラインの設置などにおける環境破壊や人権侵害が大きな問題となっているだけでなく、脱化石燃料への動きも高まっています。 2030年以降にLNG火力発電所の運転を開始させるなどもっての外であり、カーボンニュートラルまでのつなぎ役どころか、気候変動を悪化させている主要因であることを忘れてはいけません。本計画を中止し、1・2号機はリプレースを行わずに廃止するべきです。

参考

東新潟火力発電所1・2号機リプレース計画に係る計画段階環境配慮書の送付・公表について

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