<プレスリリース> 

気候変動対策に逆行するGX推進基本方針閣議決定への抗議声明

2023年2月10日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

本日2月10日、昨年12月22日にとりまとめた「GX実現に向けた基本方針(案)」を閣議決定した。政府は、GX推進法案の背景として「2050年カーボンニュートラル実現等の国際公約と、産業競争力強化・経済成長を共に達成していくため、今後10年間で150兆円超の投資が必要。20兆円の国債を先行投資」などをあげているが、基本方針参考資料に挙げられている取組は、「次世代革新炉」計画や原発稼働期間の延長、火力発電における水素・アンモニアの活用、CCSの事業化といった、緊急に求められている気候変動対策に逆行する不確実な技術の開発、導入を中心とするものである。

これらの取組はパリ協定・グラスゴー気候合意と整合せず、脱炭素経済社会の実現に貢献しないばかりか、種々の重大な課題を抱えた原子力を維持・拡大し、早期廃止が求められている石炭火力を延命させ、再生可能エネルギーの拡大など必要な気候変動対策の促進を妨げ、ひいては産業競争力を低下させ、電力コストの上昇などによる国民負担を増加させるものである。

(1)原子力依存からの脱却を図るべきであり、原子力を温暖化対策に位置付けて推進すべきでない
原子力発電は安全面でもコスト面でも重大な問題を抱えており、高レベル放射性廃棄物の処理問題も未解決のままであって、推進すべき温暖化対策とはなりえない。東日本大震災のときのように、事故があれば全原子力を停止させてバックアップの火力を動かしてCO2排出量を押し上げたことを鑑みれば、温暖化対策にも役に立たないことは明らかである。福島第一原発事故を経験し、国民は原子力依存からの脱却を求めている。福島事故被災者を含む国民に対し、政府のエネルギー基本計画でも「原発依存度を可能な限り低減させる」と表明してきたにもかかわらず、原子力発電を温暖化対策に位置付け、老朽原発の稼働期間を60年以上にも延長を可能とし、「次世代革新炉」の新設を前提にその研究開発に公的資金を投じることに道を開くもので、到底、容認しえないものである。

(2)発電燃料としての水素・アンモニアを混焼させることはCO2排出削減対策とはなりえない
150兆円の投資先の柱が水素・アンモニア燃料関係の開発である。水素・アンモニアは、製造プロセスでのCO2排出を不問にしたうえで、燃焼時にCO2を排出しないことを推進の理由として混焼のためのインフラ整備に公的資金をもって支援しようするものであるが、国際社会からは、地球温暖化対策としては受け入れられない説明である。また、火力発電からのCO2排出量削減の役割を掲げ、既存の石炭火力発電所でのアンモニア混焼を最重視してきたが、化石燃料由来のアンモニア混焼では排出削減効果が殆どなく、旧式の石炭火力を延命するだけである。しかも、2030年までにわずか20%程度の実証が目標とされているに過ぎず、2030年に脱石炭を目指す国際的潮流に逆行し、G7での電源の脱炭素化といった合意にも反するものである。

(3)日本経済や産業競争力の低下を加速する
GX基本方針下では、日本は石炭から脱却できず、実質的な脱炭素化を進めることができない。高炭素な電力システムのもとでの製品はグローバルサプライチェーンから敬遠されることになる。また、化石燃料価格が高騰する中、水素・アンモニア混焼のためのインフラ整備や技術開発に公的資金が投じられても、化石燃料由来の水素・アンモニア燃料はそれ以上の価格をもたらし、電力料金を押し上げ、利用者(企業)の負担増となる。アンモニア混焼などの火力発電は、価格が低下している再生可能エネルギー電力に対して全く競争力を持たない。このような経済合理性を欠く不確実な技術開発に投資を促すことは、民間企業の産業競争力の低迷につながるであろう。

(4)GX移行債の返済のための「カーボンプライシング」は、脱炭素に求められるカーボンプライシングとはいえない
GX移行債の発行を急ぎ、その資金を国内の大口排出事業者である電力会社などが行う上記「次世代革新炉」の研究開発、水素・アンモニア混焼の実証支援やCCUSなどの技術の開発・普及に支出し、その返済のために炭素税や電力業界に排出量取引の有償化を導入するというのは本末転倒である。しかも、その導入時期は遅きに過ぎる。CO2排出の大きな分野で効果的な削減を実行するために早期に導入すべきである。

以上を踏まえ、GX基本方針を撤回し、短期的にも中長期的にも、真に、気候危機とエネルギー危機に立ち向かうために求められている再生可能エネルギーの拡大に向けた政策措置に政策及び財政的資源を集中させるべきである。

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<プレスリリース>気候変動対策に逆行するGX推進基本方針閣議決定への抗議声明(PDF

参考

経済産業省のリリース:「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました(リンク
経産省発表:「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました(リンク

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