【NGO共同声明】
政府の新骨子「原則支援しない」と盛り込むもパリ協定と依然矛盾
~海外石炭火力は進行中案件も含めて支援中止を~

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
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メコン・ウォッチ

日本政府が次期インフラシステム輸出戦略骨子[1]を決定し、海外の石炭火力発電への公的支援については、脱炭素化への移行方針等が確認できない国へは原則支援しないとしながらも、例外として高効率案件への支援を継続する方針を決定しました。この決定について小泉環境大臣は記者会見で、今後の石炭火力輸出は難しくなるとの認識を示しました。これまで海外の石炭火力発電事業への公的支援中止を打ち出すよう要請[2]してきた私たち環境NGOは、原則支援しないとしたことを政府方針の転換と受け止める一方、公的支援中止を決定しなかったこと、また現在進行中の案件に適用せず継続することに対し、遺憾の意を表明します。

新骨子では、「今後新たに計画される石炭火力発電プロジェクトについては、エネルギー政策や環境政策に係る二国間協議の枠組みを持たないなど、我が国が相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉(ちしつ)していない国に対しては、政府としての支援を行わないことを原則とする」としています。他方、支援を行う例外条件として第5次エネルギー基本計画に記載されている、いわゆる石炭火力輸出に関する4要件[3]を文言変更を伴いつつ維持しています。また同4要件に加えて、「我が国から政策誘導や支援を行うことにより、当該国が脱炭素化に向かい、発展段階に応じた行動変容を図ること」及び「我が国の最先端技術を活用した環境性能がトップクラスのもの(具体的には、発電効率43%以上のUSC、IGCC及び混焼技術やCCUS/カーボンリサイクル等によって発電電力量当たりのCO2排出量がIGCC並以下となるもの)」を新たな要件として追加しています。

しかし、これから建設・運転を開始する石炭火力発電所は、例えCO2排出量がIGCC水準(排出量は650g/KWhと想定されている)であってもパリ協定の長期目標と整合しないことが明らかです。現在計画中の案件を含めて、新たな石炭火力発電所は何十年にもわたって稼働することが前提となり、その結果、大量のCO2排出を長期にロックインしてしまいます。新骨子では、相手国の脱炭素化の移行方針を確認することになっていますが、確認をしたところで石炭火力発電所の新規建設はいかなる状況下でも、この気候危機に直面する世界において許容されないことは明らかです。

さらに、進行中のプロジェクトを新方針の対象に含めていないことも重大な抜け穴です。今後の支援対象案件として実質的に残された案件は、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援検討中のブンアン2(ベトナム)、国際協力機構(JICA)が支援を検討見込みのインドラマユ(インドネシア)及びマタバリ2(バングラデシュ)の3案件と見られます。これらが新方針の適用外であることは、今回の方針見直し自体の意義を損なうものに他なりません。そもそも今回の方針見直しが何のためであったのかが問われるものです。これらの案件は、パリ協定の長期目標と整合しない他にも、支援対象国における電力供給過剰状態の深刻化や、再エネのコスト低下に伴う経済合理性の欠如、現地の環境汚染や住民への人権侵害など、様々な問題が指摘されています。石炭火力ありきの事業形成とそれへの支援は今こそ見直されるべきです。

したがって、今後新たに計画される案件を「原則支援しない」ことに止まらず、日本政府に対しては進行中の案件を含めたすべての海外石炭火力発電事業への公的支援を行わないよう、改めて要請します。

<脚注>

  1. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai47/kettei.html
  2. 次期インフラシステム輸出戦略骨子策定及び海外の石炭火力発電への公的支援に関する要請書(2020年4月24日。https://sekitan.jp/jbic/2020/04/24/4006 )
  3. 維持された要件(ただし、一部文言の変更はされている)は、1) エネルギー安全保障及び経済性の観点などから当面石炭火力発電を選択せざるを得ない国に限ること、2) 相手国から、脱炭素化へ向けた移行を進める一環として我が国の高効率石炭火力発電へ要請があった場合に限ること、3) OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で支援すること、4) 超々臨界圧(USC)以上とすること。

 

本件に関するお問い合わせ先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、担当:田辺 tanabe@jacses.org

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