本日、環境NGO5団体は連名で安倍総理及び関係大臣に向け「次期インフラシステム輸出戦略骨子策定 及び海外の石炭火力発電への公的支援に関する要請書」を提出します。

背景:

日本政府は、本年6月に予定されている次期インフラシステム輸出戦略骨子策定に先立ち、海外石炭火力発電への公的支援に関する4要件の見直しについて、関係省庁で議論をして結論を得ることになっており、環境大臣の下に「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」が設置されて議論が行われているとともに、他省庁でも議論が行われるとの報道があります。そこで、議論に盛り込むべき事項を5つの要請としてまとめ提出することとしました。

要請:

  1. パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略に則り、海外の新規石炭火力発電事業への公的支援を停止する方針を打ち出すべき。
  2. 現在、日本の支援が想定されているブンアン2(ベトナム)、インドラマユ(インドネシア)、マタバリ2(バングラデシュ)石炭火力発電事業への公的支援も拒否すべき。
  3. 次期インフラシステム輸出戦略骨子策定のプロセスは透明性とアカウンタビリティーを確保した形で行うべき。
  4. 海外大規模インフラに対して公的支援を行う場合は、日本政府が公的金融機関に対して支援の了承を出す前に、必要性、妥当性、経済性、環境社会配慮の適切性などを審査する透明性の高いプロセスを構築するべき。
  5. JBIC及びNEXIに環境社会配慮助言委員会を設置するべき。

脚注を含めた詳細は本文(PDF)をご参照ください。

要請書本文

次期インフラシステム輸出戦略骨子策定
及び海外の石炭火力発電への公的支援に関する要請書

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
国際環境NGO 350.org Japan

日本政府は、本年6月に予定されている次期インフラシステム輸出戦略骨子策定に先立ち、海外石炭火力発電への公的支援に関する4要件1の見直しについて、関係省庁で議論をして結論を得ることになっています。すでに環境省では、環境大臣の下に「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」が設置され、議論が行われており、他省庁でも議論が行われるとの報道があります。そこで、海外の石炭火力発電事業の問題に取り組んできた私たち5団体は、安倍総理及び関係大臣に対して本要請書を提出します。

要請1:パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略に則り、海外の新規石炭火力発電事業への公
的支援を停止する方針を打ち出すべきです。

日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月閣議決定)で、「海外におけるエネルギーインフラ輸出を、パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」と定めています。パリ協定の長期目標を達成するためには、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があるため2、新規の石炭火力発電所の建設は、たとえ次世代型の高効率技術を用いる場合であっても、パリ協定との整合性がないことは明らかです。本来は、日本政府が脱石炭方針への転換を牽引すべきところですが、3メガ銀行はすでに新規の石炭火力発電所に支援を行わない方針を掲げています。政府はこれ以上民間の動きの足を引っ張るのではなく、明確に公的支援の停止を決定するべきです。

要請2:現在、日本の支援が想定されているブンアン2(ベトナム)、インドラマユ(インドネシア)、マタバリ2(バングラデシュ)石炭火力発電事業への公的支援も拒否すべきです。

私たちは、国際協力銀行(JBIC)及び日本貿易保険(NEXI)が支援を検討中のベトナム・ブンアン2、国際協力機構(JICA)への支援要請が見込まれているインドネシア・インドラマユ及びバングラデシュ・マタバリ2が、実質、日本の公的支援が行なわれる海外の石炭火力発電事業の最後の3案件になる可能性があると理解しています。しかし、これら3案件には、パリ協定の長期目標との整合性の問題に加え、下記の通り、電力供給過剰の深刻化、経済性の欠如、不適切な環境社会配慮などの問題があります。JBIC・NEXIがブンアン2に対する支援を4要件の見直し議論の最中に決定すれば、JBIC・NEXIに見直し後の方針を適用する石炭火力案件は一切ないことが示唆されており、現在行われている見直し議論の意義も損なうものと考えます。また、JICAが関示する2案件については、すでに政府間での合意があることなどを理由に、例外や特例措置が取られるようなことがあれば、検討の意味をなしません。日本政府が脱石炭社会に向け、実効性のある方針転換を行なったと国内外に示すためには、この3案件への公的支援を行わない決定が不可欠です。

  • ブンアン2石炭火力発電事業(ベトナム):JBICが支援検討中の本事業の建設予定地周辺では、既設の石炭火力発電所や製鉄所などがあり、一帯はすでに大気汚染や増え続ける石炭灰の問題に直面しています。また、2019年9月に英シンクタンクのカーボントラッカーが発表したレポートによれば、ベトナムにおいて2022年には太陽光発電の建設コストが既存の石炭火力発電の操業コストよりも安価になると分析されています。本事業の近隣でも、太陽光を含む再生可能エネルギー発電事業の計画が多数進んでいます。
  • インドラマユ石炭火力発電事業(インドネシア):JICAがエンジニアリング・サービス(E/S)借款を行ない、相手国の本体工事への正式な借款要請を待っているとされる本事業では、社会的合意の欠如(生計手段の喪失や健康被害を懸念する地域住民が強く反対)、環境アセスメントの不備(住民参加・情報公開の不備を含む)など、JICA環境社会配慮ガイドラインの違反が指摘されています。また、事業反対の声をあげた農民が冤罪で当局に不当逮捕・勾留されるなど、基本的人権の保障状況も問題視されており、開発協力大綱の「適正性確保のための原則」にも抵触します。さらに、同事業が実施されるバリ・ジャワ電力系統では、現在、電力供給予備率が約30%に達している他、今後10年間も26.4~44.9%で推移する予測となっており、同事業の必要性も疑問視されます。
  • マタバリ2石炭火力発電事業(バングラデシュ):同様にJICAの支援が想定されている本事業では、補償支払の遅延や代替住宅提供の遅延などにより、JICA環境社会配慮ガイドラインの要件を満たしていません。また、灌漑用水路や水門の破壊に伴う浸水害の悪化、コミュニティ道路の破損、交通事故の増加、河川への土砂流入・堆積の問題が生じ、住民の生活に多大な負の影響を及ぼしています。バングラデシュの電力エネルギー資源鉱物省の報告書「Revisiting RSMP 2016(2018年11月発表)」によれば、同国では今後、供給予備率は最大で69%になることが想定されており、想定供給予備率は目標供給予備率を2041年まで一貫して上回っていることから、当面、新規の大規模発電所を建設するニーズは低いと考えられています。

要請3:次期インフラシステム輸出戦略骨子策定のプロセスは透明性とアカウンタビリティーを確保した形で行うべきです。

環境省の「石炭火力発電輸出への公的支援に関する有識者ファクト検討会」の会議資料及び議事要旨は原則公開とされているものの、他省庁の検討プロセスは、会議実態すら公開されていない状況です。次期インフラシステム輸出戦略策定に向けては、関連するすべての会議の配布資料と記名式の議事録を公開するべきです。

要請4:海外大規模インフラに対して公的支援を行う場合は、日本政府が公的金融機関に対して支援の了承を出す前に、必要性、妥当性、経済性、環境社会配慮の適切性などを審査する透明性の高いプロセスを構築するべきです。

前述の通り、石炭火力発電事業については公的支援を続ける妥当性はもはやありませんが、それに限らず日本が支援するあらゆる大規模インフラ事業では、必要性、妥当性、経済性、環境社会配慮の適切性などの検討が不十分である案件が多く見られます。公的支援を行う場合は、日本政府が公的金融機関に対して支援検討開始の了承を出す前に、必要性、妥当性、経済性、環境社会配慮の適切性などを審査する第三者委員会を設置し、透明性の高いプロセスを構築するべきです。なお、外務省に設置されている開発協力適正会議は、同様の機能を持っていますが、JICAの協力準備調査前に実施されるため、情報が不十分な段階での議論になります。円借款案件においては、本体借款を検討する3省会議の前に上記を公開で検討することが必要です。

要請5:JBIC及びNEXIに環境社会配慮助言委員会を設置するべきです。

国際協力機構(JICA)には専門家やNGO等から構成される環境社会配慮助言委員会が設置されており、JICAの環境社会配慮の透明性・説明責任の確保に貢献しています。他方、JBICやNEXIには、そのような委員会は設置されておらず、環境社会配慮の透明性・説明責任が著しく低い状況です。したがって、JBIC・NEXIの環境社会配慮助言委員会は、少なくともJICAと同等の透明性を確保し、JBICやNEXIが環境レビューを開始する前に、助言を受けられるようにするべきです。

以上

要請書本文のダウンロード

次期インフラシステム輸出戦略骨子策定 及び海外の石炭火力発電への公的支援に関する要請書(PDF)

本件に関する連絡先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝
tanabe@jacses.org