2008年9月16日
国内排出量取引の本格実施に意味のある「試行」の実施を求める
気候ネットワーク 代表 浅岡美恵
【要約】
欧州は中期目標の達成のための中核的制度として排出量取引を位置づけ、2013年以降の制度整備を進めている。豪州でも2010年から実施予定で、米国でも法案が審議されてきた。これらは、参加を義務づけられた対象事業所等に排出上限枠を定めて取引を認める、いわゆるキャップ&トレード型国内排出量取引である。
日本でもその導入が急がれるが、経団連自主行動計画で足りるとする経団連等の強い反対で、中身の議論すら開始できずにきた。6月9日、福田ビジョンに今秋からの「試行」が打ち出され、低炭素社会づくり行動計画にも盛り込まれたが、具体的には「自主行動計画との整合性を考慮する」とされ、本格実施について具体的に言及するものとなっていない。そのため、「試行」の中身は限りなく自主行動計画に近いものとなるおそれが高い。しかしながら、自主行動計画は、業界団体が業界単位で自主的に目標指標を選択し、目標数値も決定し、フォローアップは審議会で行うというものであって、上記排出量取引とは異質なものである。
「試行」は、キャップ&トレード型国内排出量取引制度の本格導入に向けて、意味ある知見や経験を得ることができるものでなければならない。例えば省エネ法によって94年以来経済産業省に蓄積された第1種、第2種事業所からの定期報告情報や10年来の経団連自主行動計画など、これまでの経験や運用実態の把握と反省を踏まえた制度設計の提案を行うことが考えられる。具体的には、
- ?参加は自主判断に委ねるのではなく一定規模以上の事業所は義務的参加とすべき。
- ?目標は温室効果ガスの排出総量で設定し、事業者の自主申告ではなく、政府の関与のもとに適正かつ客観的な目標設定が協議されるべき。 原単位目標では排出量も増加した場合にもクレジッ トが生じることにもなり、排出削減のための排出量取引とはいえない。
- ?排出枠の設定は、直接排出によって事業所単位で行うべき。企業単位での取引参加を容認するとしても、排出枠の設定と達成は事業所単位で行うことが不可欠。業界団体での参加を容認する「試行」では、現在の自主行動計画の名前を取引に変えるに過ぎない。
- ?クレジットの登録簿を整備し、目標達成について第3者による十分なモニタリングと検証の手続きが不可欠。産業構造審議会等による経団連自主行動計画のフォローアップは、このようなモニタリング・検証とはいえない。業界での参加や企業単位の目標だけの場合には、検証そのものが困難となる。
- ?試行であっても目標未達の場合の不利益措置が必要。虚偽報告に対する罰則も必要。
キャップ&トレード型排出量取引の試行とはいえないような「試行」が行われるならば、意図せずに、日本の政府と経済界の特異な発想、環境対策の位置づけの軽さや市場自体への考え方に関する特殊性を世界に発信することになるであろう。試行期間を半年~1年以内に限定し、並行して本格実施に向けての検討が開始されなければならない。ましてや、今回の「試行」が、単に時間を無駄に費やすだけで、遅れた日本の温暖化政策をさらに遅らせることになってはならない。
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